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【 Care’s World case 01 〜 結庵-むすびあん- 〜 / “ゆるい“空間を通して、ありのままの自分を受け入れる -後編- 】

前編では、せり奈さんとさおりさんの出会い、そして、それぞれの強みについてお話を伺いました。後編では、結庵を始めてからの気づきや、これからの展望等について伺っていこうと思います。

前編はこちら

♢聞き手:玉井妙( Care’s World / コミュニティナース )
♢話し手:山之内せり奈( 結庵-むすびあん- )
     松元さおり( 結庵-むすびあん- )
♢撮影・執筆:上泰寿( Care’s World / 編集者 )
♢インタビュー場所:結庵-むすびあん-

何もできなくていい、甘えてもいい

さおり:場所を作る人=すごい人のイメージが以前の私にはありました。でも、せり奈ちゃんが日々悩みながらチャレンジする背中を見て、とても人間っぽいですし、その場所に踏み入れるハードルが下がると感じたんです。

だからこそ、色々な人がここに足を運んでくれているなって。そんなせり奈ちゃんに何ができるかって考えた時に、お母さんみたいになれればいいなと思いました。そういう意味で「甘えていいんだよ」って伝えています。

例えば、何か事情が変わってここを離れることになっても、私じゃない誰かが運営に入ることになったとしても、縁は途切れることはないし、その時に見返りを求めるかと言ったら何もいらなくて。私自身が楽しくてここにきていますし、世界観や人間関係も変わって、もう十分もらっているんです。

以前は「〜〜すべき」と価値観を押し付けるタイプでしたが、せり奈ちゃんと関わることで日常生活の中でも“ゆるさ”が出てきていて、もっとそういうところを取り入れていきたいと思っています。そういう意味ではせり奈ちゃんは“ゆるさの師匠”なのかもしれません。

せり奈:自分の中で“さおりさんが居て当たり前”とは思いたくなくて。それこそ家族みたいになっちゃったら私がやりたい放題しちゃうから。大事だからこそ壊せない…壊したくない。そんな一面もあるから、どこかでちょっと「これ以上は甘えないほうがいい」と思っている自分もいます。

でも、さおりさんにはつい頼っちゃうんです。何か特別で、家族・恋人でもない、“さおり”という違ったカテゴリーがある気がして。

この場所を始めると決めた時に「ちゃんと自分でしなきゃ!」といった気持ちが強かったのですが、それを少しずつ「甘えてもいいんだ」と思わせてくれた気がします。

さらに、この場所を始めてから「何もできないでよかった」と思うようになって。ここに来てくれた方や作業を手伝ってくれた方から「せり奈さんなら、やりたいことを素直に言える」と言われることが増えたんです。

何もできない自分はずっと嫌だったけど、さおりさんや皆さんを通して「それがいいところだ」って受け入れられるようになりました。

病院でも行政でもない、気軽に話せる“ゆるい”場所

せり奈:結庵では定期的に『認知症のおはなし会』や『つくしゆかさんと強迫性障害のお話会』を開催しています。それらを通して、病院でも行政でもない気軽にお話に来れる場所は必要だと感じていました。

病気じゃなくても、親や子どものことだったり、自分自身のことだったり、悩みを話ししているうちにポロポロと泣いてくださる方が多くて。

大人になると人前で泣くことも中々できないですし、話しているうちに「あ、私、こんな風に思っていたんだ」と気づけるきっかけにもなるので、そんな場をつくり続けていきたいと思っています。

実は、亡くなった母はうつ病だったんです。だからこそ、家族に病気がある人の気持ちはわかります。そういうことが原因で心が病んでしまうのはもったいないですし、その一歩手前で防げる何かがあるんだったら防ぎたい。

私は看護師を辞めて、病院という捉われたところから離れて始めて「病院の中だけが正解じゃなかったんだ」と強く感じています。ここを始めた当初はふわっとしたことしか頭になかったけど、胸を張って自分の想いを答えられるようになりました。やっと…。

さおり:「そういう場所が欲しかったんだよ」って色々な方によく言われます。私自身、『認知症のおはなし会』で当事者の方の声を聞いて、認知症に対する捉え方や見方が変わりました。

以前は認知症の方が間違って自分の靴を持って帰ろうとしたら「何よ!」と思っていたけど、悪意があるわけではないと頭にあるので「全然気にしないでください」と心から思えるようになって。

ここで過ごしていると“ゆるさ”があるからこその楽しさや学びがあるんです。私自身の1つのテーマが“ゆるさ”で自分がどう動けば周りの人がゆるくできるのか。それを常に考えています。

あり得ない話かもしれませんが、お客さんが来ても私たちは普通にお昼ご飯を目の前で食べています(笑)。元々、ここでは相談所のように真面目に話を聞こうかとせり奈ちゃんと話していたんです。

でも、実際には私たちの“ゆるさ”を求めて来てくださる方が多いことに気づいて「この方向性でいこう」となりました。誰かの悩みを私たちだけじゃなく、その場にいる皆で聞いて、一緒に考えることもあります。

人との繋がりがあるからこそ、気づけること

さおり:過去の私は「自分がいなければ全部うまくいくのでは?」と考えてしまって、自分で自分を精神的に押し殺していました。でも、そんな過去があったからこそ、人と人との繋がりがあるからこそ、ここまでやってこれたと思っています。

まだまだ誰かをケアできるほどの余裕はないけれど、自分で自分をケアする。ケアする手段として人と繋がる。やっぱり人なんだ。そんな風に思えるようになってきました。

結庵って、それを改めて気づかせてくれたし、自分で自分をケアできる場所でもあります。足を運んでくださったお客さんが「楽しかった」って喜んでくれたり、また遊びにきたりすることで、結果として私自身を癒すことにも繋がってくると感じるようにもなってきました。

さらに加えると“誰とするか?”によって、その楽しさも変わってくると思うんです。それがせり奈ちゃんだったり、出会った仲間だったり。結庵を始めてからは楽しいことばかりでしたし、色々なことが生まれてポンポン進んでいくので、悩んでいる時間がないくらい、あっという間でした。

せり奈:先ほどお伝えした今の想いですが、それは結庵に関わってくれる人や来てくれる人を通して見つけさせてもらった感じがします。

看護師を辞めるまでの私は何かしらアクションしている人を見ると「すごいな」と憧れを抱いていただけでした。でも、自分も一歩踏み出してみたことで憧れだけではなく「自分もやりたい」「成長したな」と心の底から思えるようになりました。

結果として、病院の看護師に戻ることがあったとしても、後悔はありません。少なくとも外の世界を知れたことである程度割り切れると思いますし、私の良さに自信を持つことができるようになりました。

それらを考えた時、私もさおりさんと一緒でやっぱり人との繋がりなんです。悩んだ時に助けてくれるのも自分が成長できるのも人との繋がりです。辛い経験をした人は人と会うことすら嫌だったりするかもしれません。

でも、ここに来れば絶対優しい人がいて、そういう人たちと繋がっていけば「自分も捨てたものじゃない」って、きっと思えます。そんな場所であり続けられるように、今できることを“ゆるく”やり続けていきたいです。

(終わり)

(前編はこちら

●基本情報
屋号:結庵-むすびあん-
住所:鹿児島県姶良市蒲生町下久徳101
URL:https://www.instagram.com/musubi_an/
参考:営業日 火・水曜日 10時〜16時
           入庵料 500円
           イベント情報等はインスタグラムから
           食事はなし、飲食持ち込みOK

●編集後記
「結庵って、なんでこんなに居心地がいいんだろう?」

初めて結庵を訪れた時の衝撃は今でも忘れられません。
一歩足を踏み入れると、おばあちゃんちに帰ってきたような懐かしい香りと、心地よいキッチンの音。せりなさんとさおりさんが、笑顔で出迎えて下さいました。お二人の笑顔にやられた人は、私だけではないはず。笑
気づけば一人、また一人と増えて、初めましての方ばかりでしたが、自然と会話が弾み、時に笑いあり、そして涙ありの濃い時間となりました。
ホクホクと幸せな気持ちに包まれながらの帰り道、「あの居心地の良さ、また来たくなる不思議…なんだこれ!?」と、その魅力にハマってしまいました。
せりなさんの包み込むような優しい笑顔と、的確なツッコミをしつつ(笑)みんなが気兼ねなく話せる環境を作ってくれるさおりさん。この二人に、どうしてもお話を聞きたい!そんな想いで、今回取材をさせて頂く運びとなりました。
改めて、せりなさん、さおりさん、ありがとうございました!(玉井)


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