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母の食欲がない

ながさごだいすけ

先週の金曜日のことである。いつものように朝食に降りていくと、母が食卓の前で暗い顔をして立ちつくしていた。わたしが二階から降りてきたのに気づくと、

「アイちゃんから、今日行きますっていうメールが来ないのよ」と言った。

「金曜日だからね」とわたしは答えた。妹が毎週、朝早くにメールをよこして昼過ぎに来るのは、土曜日である。

母は、「あっ!」という顔をして「今日はまだ金曜日だったのね。メールがいつまでも来ないから心配になってこっちから送っちゃったわ」と言った。

まさか、連日の猛暑日のせいで認知機能の低下が進行しているのだろうか? 確かに、わたしも今週はいつもより長く感じていた。だが新聞の日付をみれば一目瞭然ではないか、と思って食卓をみると、いつも起き抜けにとってくる新聞がまだ置かれていなかった。

当然、朝食の支度もしていない。わたしが代わりに準備を始めると、母は食べたくないから、と言ったので、自分の分だけ用意した。

昼ご飯も何も食べる気がしない、と母は言い、お茶漬けと梅干だけだった。食欲がないというのは少し心配だが、暑さが収まれば回復するだろうと思った。

翌日の土曜日は、いつもどおり朝早くに妹からひとりで来るというメールが来た。母が送ったメールにはそのときまで気がつかなかったということだった。

妹が昼食はいらないといったので、私の昼食もなくなった。

母は、昼ご飯の支度をせず、シフォンケーキを買ってきただけだった。母はシフォンケーキがお気に入りのようで、弟一家が来るときはかならず前日に予約してホールで買ってくるのだが、今日は、予約はないので個包装のものだった。

十二時になって台所に降りていくと、そのシフォンケーキが三つ、個別に皿の上に載せて置かれていた。

まさか、と思い母に確認すると、母はそのまさかで、シフォンケーキだけですませるつもりだった。

「お昼食べたいの? 昨日と同じお茶漬けならあるけど、用意しようか?」と母は面倒臭そうに言う。

「いや、いらない。シフォンケーキで良い」とわたしは答えた。

もちろん、いいわけないのだが、母にその気がないのだから、無理に支度をさせれば機嫌が悪くなるに決まっている。それでなくても、連日の猛暑でかなり疲労しているようなので、余計な気は使わせたくなった。

わたしは、ワッフル1個と冷蔵庫にあったチーズとスナップエンドウにプルーンを少しつまんで昼食代わりにした。野菜が決定的に足りてないのだが、どうしようもない。冷蔵庫には母が買ってきた生野菜はあるのだが、わたしが包丁を使い始めたら、単なる嫌味にしかならない。

母の食欲がないのは、6月にしては異常な暑さのせいだとは思うのだが、それがなにかのきっかけにならないとも限らないと思うと少し心配になった。

まさか明日からもこんな調子だったら困ってしまうな、とわたしは思った。


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