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お施餓鬼のハガキ

お寺からお施餓鬼のハガキが届いたと母が言う。毎年八月四日に決まっていて、父が亡くなる数年前から、その日だけはわたしが休暇を取って出席することにしていた。今年は新型コロナのことがあるので法要はなく、卒塔婆だけを各自が取りに行くだけだという。

「お父さん亡くなって何年だっけ」と母が言う。

(いや、それはふつうはこっちのセリフだろ)と思いながら、「七年だよ」と答える。2013年の7月だから間違いない。

ところが、母ときたら「そうなのね。去年は法事やったかしら?」とまるで他人事のようだ。

だんだん不安になってくるが、「いや、去年は何もなかった。おととし、最後だと言って、やっていた」と答えると、

「ああ、そうか、それじゃ、それが七回忌の法要ね。死んだ年が一だから、二、三、四、五、六、で去年が七だもの」とようやく思い出してきたようだった。

「パピちゃんが亡くなったのは、四年前なのよ。パピちゃんのことは忘れないわ」

パピちゃんというのは、母が飼っていたパピヨン犬(雄)のことである。父の葬儀では一回も泣かなかった母が、パピヨンが亡くなったときはずっと泣き続けていたのを思い出す。

パピヨンは、もともとわたしが買って、数カ月で飼えなくなって母に押し付けた犬だった。当時住んでいたマンションは犬もOKだったが、パピちゃんは四六時中吠えまくってあまりにもうるさくて他の部屋の住人から苦情が来たのだった。実家に連れて来た時もまだ生後6カ月くらいだった。最初の頃こそ、わたしが実家に帰るとなついてきたが、そのうち見向きもされなくなった。

「あたしは犬が嫌いだったから、最初庭に出しておけば良いっていわれて、そうしてたら、寒そうじゃない。可哀そうになってガレージに入れて、それから玄関に、それで最後に家の中で飼うようになったから、最後まで打ち解けてくれなかったね。」

実際、癇の強い犬で、すぐに吠えるし、機嫌の悪い時に下手に触ると咬むのである。母の手は咬み傷が絶えたことがなかった。だが、寝る時も一緒だったし、母が朝の散歩をするようになったのも彼のおかげだと、母はときどき思い出したように言う。食事も固形食の他に自分の食事を分けてあげていた。わたしがスパゲッティを茹でた時は、それもあげた。わたしは犬がペペロンチーノを食べることを初めて知った。

食事が終わると、母の横の椅子の上に飛び乗って、食事が終わるのを待っていた。食べ足りない時は、母に前足で催促したが、食卓の上には決して足を出そうとしなかった。

「そうか、もうそんなになるのか。まだ2年くらいだと思ってたけど」

「そうよ。月日の経つのは早いものよ。お父さんが亡くなってパピちゃんが亡くなったのがちょうど二年後だった。2015年よ。だからお父さんが亡くなったのは2013年なのね」

犬が亡くなった年で夫の亡くなった年を覚えているというのは、なんだか複雑な気持ちになる。庭にはお墓もあって、レモンの木が植えられている。レモンの木は実をつけたことはないが、毎年たくさんの葉を出す。出すそばから青虫が食べてしまう。全部食べつくしてしまうが、それでも翌年はまた葉を出す。その繰り返しである。夏になると、母は、毎日のように「ああ、またパピちゃんの葉っぱが食べられちゃった」と言う。

ただ、新型コロナには関係ないと思うが、今年はなぜか青虫が来ない。レモンの木には葉が繁っている。

「今年もレモンの葉がでてきたね」とわたしが言うと、
「今年は虫さんがいないから、減らないねえ」と母はなぜかさびしそうに言って黙ってしまった。

母はなにもいわないが、わたしにはなんとなくわかった気がした。母は、実はレモンの木の葉を食べた青虫がきれいな蝶になって巣立っていくのがいつのまにか楽しみになっていたのである。

最初のうちは、パピちゃんのレモンをダメにする害虫だと言って、こまめに駆除していたが、そのうちにレモンが強い木で葉がなくなっても枯れないことが分かると、だんだん青虫がいとおしくなってきたのである。まるでパピちゃんが、青虫に自分の身体の養分を分け与えているかのように思えてきてしまったのだ。

新しい生命が生まれていくのを見ていると、今でも庭で蝶を追いかけて飛び跳ねるパピちゃんの姿が見えるような、そんな気がするのではないだろうか。

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母が住む実家で週末ごとに過ごす日々。 母との大切な時間を綴る。

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