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インディペンデントコントラクターって…キャリア・カウンセリング/キャリア開発のための人事制度講座(31)

 先回は組織を変革していこうとするとニュートンの運動第一法則「慣性の法則」が働いてしまいがちなのですが、このように変革に対して変わらずそのまま進もうとする力にはどのようなものがあるのか-を「組織行動のマネジメント」(ステファン・P・ロビンス、高木晴夫監訳、ダイヤモンド社)から検討してみました。
 個人の変革に対する抵抗を先回は取り上げたので、今回は組織の抵抗を取り上げる予定でしたが、最近(註:2004年11月ごろのこと。なので今にしてみれば古い話なので再録するのは躊躇われるのですが、でも、最近も同じ様なことを感じているので…入れておきました)、ちょっときな臭い感じがすることがあるので、急遽「インディペンデント・コントラクター」について取り上げてみたいと思います。

★インディペンデント・コントラクターって?

 インディペンデント・コントラクター(略してICというそうです)。 9月(註:2004年9月)に日本経済新聞社から出版された同名の書籍(秋山進、山田久著)によると「高い専門性を武器に独立し、複数の企業と契約を結ぶビジネスプロフェッショナルのこと」だそうです。
 「権力志向と言うよりも仕事志向で、自分の腕一本で世の中を渡ってみたいという方には大変魅力的な働き方の一つ」として紹介されます。

 インディペンデントとは独立したという意味、コントラクターとはコントラクト(契約)をする人ですね。
 NPOインディペンデントコントラクター協会というのも設立されていますし、最近ではいろいろなところで取り上げられるようになってきています。

 さて、先の書籍にはICの特徴として以下の3つを挙げています。

1)何を遂行するかについて自ら決定できる立場を確保していること
2)実質的に個人単位で、期間と業務内容を規定した、請負、コンサルティング、または顧問契約などを、複数の企業や各種団体と締結する
3)高度な専門性、業務遂行能力を有している

★正社員ではない労働者とどう違うの?

 この違いを示すために同書では「業務の密度」と「専門とされる専門性、
遂行能力のレベル」の2つの軸で整理しています。

「高い業務の密度=フルタイム必要」でかつ「高い専門性、遂行能力」は、正社員(正規雇用)。
「高い業務の密度=フルタイム必要」でかつ「低い専門性、遂行能力」は、派遣社員や契約社員。
「低い業務の密度=フルタイム不要」でかつ「低い専門性、遂行能力」は、パートタイマーやアルバイター。
そして「低い業務の密度=フルタイム不要」でかつ「高い専門性、遂行能力」がインディペンデント・コントラクターの領域

なのだそうです。
 つまり、先に挙げたように高度な専門性、業務遂行能力を必要とするが、かといってフルタイムで会社にいてもらうほどでもないということです。

 こうした活用を考えることが企業にとっては
   1)必要なときに必要な仕事だけを頼めばよい。
   2)企業に発注するより安くすむ。
 というメリットをもたらします。
 また個人にとっては次のようなメリットをもたらします。
   1)自由な時間を確保できる。
   2)自分のやることを自分で決められる。

★ICの課題

 ただ、同書は以下の点も指摘しています。
 一つは仕事の方の問題。
 会社からしてみれば仕事を外部に切り出すような形になるわけですから、ある程度モジュール化を進めておく必要があります。
 業務の流れの一部分を請け負わせるのですから、仕事上の前後のつながりがスムーズに行くように、仕事の進め方のルールのようなものを決めておく必要があります。
(以上のことはICを一つのシステムと考えればシステム設計上は当たり前のことですけども)。
 逆に言えば、こうした点が整理されないとICとして組織に外から関わろうとした場合、かなり苦労することになります。

 もう一点はやはりIC自身の能力の問題です。
 当然自分の領域の専門性は求められますが、営業力(あるいは人間関係構築力)が求められます。

★個人事業主とどう違うのか?

 細かいことを言えば個人事業主と、法人組織でやっているけれど実質1人だけの会社経営者は異なるのですが、敢えてこれらを個人事業主と呼んだとき、これに該当する人たちはすでに日本に山ほどいます。
 言うなれば、彼らもICなのです。
 敢えていうなら、個人事業主とICに違いはないと思います。

 この本では、ICについて前述の3つの特徴を挙げていました。
 この視点から見ると峻別できるのかもしれません。
 では、ICなら、本当に「自分で自分の仕事を選べる」かというと、この本でも取り上げられていますが、なかなかそうはいきません。
 食べるためには不本意でもやらなければいけない仕事があります。
 またこの人のために、この会社のために、本当はいやだけれどもやらなければならないというのもあるでしょう。
 「そうしたことも自分でやろうと決意してやっているんだから、自分で選んだと言ってよいのだ」といわれればそうかもしれません。
 しかし自分で決めたかどうかが基準になるのなら、逆に自分で決めないというのもあるかもしれません。敢えて言えば、自分では決めない、すべて他人のいうとおりにしていこうと思うことも、それ自体は自分で決めているのですから。もう少しきれいな言い方をするなら「ご縁あってのお話。だからきたお話は断らないのですよ」という方針で臨むということでもあります。
 2つ目の「個人単位」で「複数の契約」という点も、個人事業主かICかを峻別するポイントにはなりません。
 3つ目の「高度な専門性、職務遂行能力」ということになると、それは当人の能力の問題に過ぎないということになりますから、これまでの個人事業主でも専門性の高い人はICに含まれることになってしまいます。

 先の3つの基準では、ICは特に新しい概念であるとはいえないようにも思います(本にも定義は定まっていないと書いてありますが)。

★なぜ今、ICなのか?

 冒頭で「きな臭さを感じて」と申し上げました。
 何を言いたいかというと、ICというなんだか格好良さそうな言葉に迷わされないようにしていただきたいのです。

 そもそも「IC」という言葉自体は、著者の秋山氏は1998年から使っているとおっしゃっているように、それほど新しい言葉ではないのです。
 著書の中でもでてくるように米国では以前から使われていたカテゴリーなのです。
 そうした言葉が、今の時代にクローズアップされてくることにきな臭さを感じるのです。

「個人事業主」というとなんだかかっこわるい、古くさい、でも「インディペンデント・コントラクター」というとかっこよさそう。
自分で自分の仕事を決める、「雇われない・雇わない働き方」! いいじゃないか!

 このような思考、つまり言葉を換えることで目新しくして本質の部分を隠してしまうようなことがあってはならないと思うのです。

 なぜそんな心配をするかというと、ICという言葉の登場の仕方が、フリーターという言葉の登場の仕方とどうしてもだぶって見えてしまうからです。
 フリーターという言葉、今はどちらかというと否定的な響きを持っています。
 しかしリクルート社がこの言葉を世に出したときは、「自分の目標を達成したいから、何かと拘束の多い正規雇用ではなくて、アルバイトという働き方を選ぶ」という、働き方、さらには生き方を提言していたはずです。
 そうした雰囲気におされて、当時、フリーターはかなり輝いていた存在でした。
 しかしそのうちアルバイトとどう違うかというと、言葉を選ばずにいえば玉石混淆だったわけで、ピカピカ光っていた「フリーターというバッチ」が、実はブリキのバッチで、しばらくしてさびてしまった。
 そんなイメージがあります。

 ICが同じ経路をたどるのではないか-と、とても心配です。
 単なる「専門職志向のホワイトカラー系個人事業主」ではないか。
 新しい存在でも何でもないじゃないか。 

★個人ではたらく事業者全般にセーフティネットを

 個人事業主(および1人で会社を経営している人)は労働法では保護されないし、資金調達の面でも非常に厳しい位置付けです。
 例えば労災の適用はありません。たおれたらそれまで。
 融資面では同じ800万円の年収でも、小さな会社でも勤めていれば(この場合は年間報酬額800万円)融資を受けられる可能性は高くなりますが、個人事業主の場合(この場合、狭義の個人事業主であれば利益800万円、法人を設立している人であれば自分の設立した会社からの報酬が800万円ということになるでしょう)は、可能性がきわめて低くなります。
 こうした実態がNPOを設立して、ICを支援しようという動きにつながったのでしょう。

 「IC」を使う側にとっても課題はあります。
 企業にとって、ICのメリットは、先に示した「企業に発注するよりコストが安くなる」ことよりも、自社の社員をインディペンデントさせることにもあります。
 これにより社会保険料や退職金の積み立ては不要になります。
 また、社員のキャリアを考えたとき、その仕事で生き生きと働けるのなら、そこで身を埋める覚悟でやってもらった方が、本人も異動を気にしなくて良いので、お互いにいい関係でいられるという点もあります。
 ところが、インディペンデントしているか、税務上の基準がまだ曖昧なままだったりします。雇用契約ではなく請負契約が結ばれていたとしても実質で判断されてしまうことがあります(実質で判断するというと聞こえは良いですが、見る人によっていかようにも異なった結果になるということでもあります)。
 これでは、なかなか使えません。
 さらに嫌な言い方をするなら、ICのメリットの一つとして「企業に発注するよりコストが安くなる」というのをあげること自体、なんだか価格競争を促しているだけのようでちょっとね…。そうなるとICの誇りというのはどうなっちゃうんでしょう…

★まとめ

 ICという概念を、実態を伴わせてきちんと構築していくことは、企業にとっては社員のキャリア上の選択肢を増やすことになります(社会保険料の負担軽減という側面も当然ありますが)。
 一方、国の方から見ると、新たな事業創出、ひいては雇用の拡大の「種火」となります。正規雇用社員が減ることは、従来型の雇用の安定と社会保険基盤の維持という面から見るとマイナス効果なのですが、雇用のセーフティネットという面から見ると、会社に所属していなくても、相応の能力があればやっていけるということは決してマイナスではありません。

 インディペンデント・コントラクターという言葉がはやりそうです。
 はやるときは本質論が積み残しになったまま言葉が使われ始め、使い古されて消えていくというのがこれまでのパターンです。
 第2の「フリーター」になりませんように。
 そして、ICでも、個人事業主でも、働く人のキャリア上の選択肢として、うまく活用できるように法律上も社会的な位置付け上も整備されて欲しいと思います。

 ところで、相談に来た人が「インディペンデント・コントラクター」という働き方を考えていますと言うとき、あなたならどうしますか?
 どうであれば支持できますか?

★2021年の追記

 さて、冒頭の註で「最近も同じ様なことを…」と記しました。多くの方が「あぁ、あれね」とお考えの通り、副業/複業のことです。
 ようやく厚生労働省のモデル就業規則でも副業を是とする記述が記載されるようになりました(以前は競業避止義務と兼業の禁止の記載だったかと)。
 当時も記したように、会社勤めの方が本業だけで、しかも同じ会社で定年までやっていくというのが当たり前のような風潮は未だに根強いのですが、実態としては定年まで一つの会社というのはそれほど多いわけではありません。一方で、働く期間も、定年が70歳を視野に入れるくらいと長くなっています。とすれば、生涯に職を変わることが「ふつう」ということになるのはそれほど遠い将来ではないように思うのです。
 そう考えると、次の職が決まるまでのつなぎの期間が発生することを見込んでおく必要も出てきます。その間は失業給付を受けて凌いで行くという方法だけでなく、副業を持っておくことは、選択をより豊かなものにすることになるのではないかと思います。
 それは副業でやっていたものを本業にするということもできますが、副業の方で当座の生活費をまかなっていくということも含めてです。それがあるというだけで、本業との向き合い方も変わってくると思います。
 そう考えると副業/複業はキャリア(仕事人生)上の主導権を個人が改めて取得するための方策の一つといえるのではないでしょうか。だからこそ、ICもそうですし、副業/複業がうまく定着していってほしいと思うのです。

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