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蟻の生活~キャリア・カウンセリング/キャリア開発のための人事制度講座(27)

 レストランなどで食事をしていると、聞くとはなしに近くの席の会話が耳に入ってくることはありませんか?
 それは私のMBTIでいうところのタイプがE(外向)だから?
(MBTIをご存じではない方すみません。私にMBTIを教えてくださった方にもすみません、何でもタイプのせいにしてはいけませんよね)

 それはさておき、先日も食事をしていると、2つ先の席で、コンサルタントとおぼしき方が二人で話をしていました。
 どちらかというとお年の方「あなたね、独立をするんだったら1000万円くらいは準備しておかないと」
 どちらかというと若い方「え、そうですか? 当面必要な資金として会社を起こすのに300万円くらいあればよいのかと思っていました」
 どちらかというとお年の方「それでは家族を養っていけないでしょう。半年分くらいの生活費は確保しておかなければ」
 どちらかというと若い方「‥‥‥‥」

 その後話はどうやって仕事を確保するのかという話に移っていきました。
 う~ん、それも聞きたい!-とは思いましたが、人の話に聞き耳を立てるのは品がないですし、私の方も同席していた方から話しかけられたので、その後の成り行きは分からずじまいです。

 コンサルタントも独立するときはキャリア・カウンセリングを受けてみるんだなぁ~と妙な納得をしました。
 その一方で、コンサルタントなんだからもう少ししっかりしていてもいいんじゃないの? とも思いました。
 コンサルタントさんにもピンからキリまであるので、注意が必要ですね。

 コンサルタントの方が、時々使うせりふに「2:6:2」というのがあります(2:3:2や2:4:2というバージョンもあるらしいですが)。
 何を意味しているかというと、人材の集団をみるときに、優秀な人、普通の人、優秀ではない人の比率が2:6:2であるということです。
 この後につながるのは、「だから下の2は辞めてもらえばいいんです。そうすると優秀な集団へと変わっていくんです」
 ホントかな?
 今回はコンサルタントにだまされまいぞ~がテーマです。
 (それって自分の首を絞めていないか? 他人事か? いや、大丈夫なはず!!)

★蟻の生活

 さて、先の2:6:2の話、それを引用して話をしている人にその根拠をいちいち確かめてはいないのですべてがそうであるとは限らないのですが、多くの場合、蟻の生態観察から得られたもののようです。
 昨年、北海道大学大学院農学研究科の方が発表したときには、新聞でも取り上げられていましたね。(註:昨年とは2003年のことです)

 蟻は、どの個体も一生懸命に働いているようだけれどそれぞれに役割分担があります。
 えさを運んでくる蟻、出入り口のあたりを警戒する蟻、穴を掘る蟻、女王様のお世話をする蟻‥‥‥。
 ただそのどれもが一生懸命働いているかというとそうでもなくて、よく働く蟻、普通に働く蟻のほかに、ぶらぶらしてまじめにやらない奴もいる。で、このよく働く蟻、普通に働く蟻、不真面目な蟻の比率が2:6:2
だというのです。
 そうした「分業」や「ぶらぶらしているのもいる」というところが人間社会を彷彿とさせるのでしょうか、人間社会にもこの比率を持ち込んで、「組織の中をみると2:6:2の比率になっている」ということになるようです。
 実際に、「幼児園児にお片付けをさせて観察すると、作業をしている園児
は約2割、他の8割はサボっていた」とか(http://diary.jp.aol.com/vufpmudjvfdj/184.htmlから引用←註:今はこのページありません)。であれば、この一番下の「2」を排除すれば組織の生産性は上がるというわけですね。

 ところが、この蟻の話には続きがあります。
 2:6:2のうちの一番下の2を取り除くと、のこった「2:6」の部分が、改めて「2:6:2」に分かれてしまうのだそうです。
 今まで「6」だったところの一部が一番下の「2」へと移っていくというわけです。

 もう少し詳しく解説しますと、当初は全体で1000匹の蟻がいたとしましょう。
 「2:6:2」にすると、よく働く蟻が200匹、普通600匹、不真面目な蟻200匹になります。
 不真面目な200匹をのぞいた、800匹にすると、その800匹が「2:6:2」に再び分かれて、今度はよく働く蟻160匹、普通480匹、不真面目な蟻160匹になるというわけです。
 さらにこの不真面目な160匹の蟻を取り除くと、のこりの640匹の蟻が再び2:6:2に分かれ、128匹、384匹、128匹に‥‥。
 2:6:2というのは全体の比率のことをいっているんだから、一番下の「2」(最初の段階の200匹)を取り除いた後は、相対的に2:6:2に分かれているのであって、ここでの一番下の「2」(2回目の160匹)は、当初の一番下の「2」(最初の段階の200匹)とは働きっぷりは違う
のではないか-と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、そうではなくて、働きっぷりそのものが変わってしまうのだそうです。
 つまり一番下の「2」を取り除くと、その上の「6」の中から新たにこれまでの一番下の「2」に該当するような働き方をする蟻が出てくるのだそうです。
 不思議ですねぇ。
 蟻も、中くらいの成績の時には下に落ちないように頑張ろうと思うけれど、相対的に下の方のグループになると開き直ってしまうんでしょうか?

 ちなみにこれは逆のことも言えるそうです。
 よく働く蟻の方の「2」を取り除くと、「6」の中からよく働く蟻が出てくるのだそうです。
 先の幼稚園児の場合も、さぼった8割の子供達だけにお片付けをしてもらうと、その結果、1回目同様8割がさぼって2割が片付けるのだそうです。

★蟻と人間は違うのか?

 こうなると、2:6:2という話を「蟻」の世界から引用して、人間の組織に当てはめて考えた場合、ちょっとおかしなことになってきます。
 そう、先のコンサルタントの提言によって一番下の2を取り除くと、「2:6:0」になるのではなくて「新たな2:6:2」になるわけで、生産性が上がるどころか、全体で見ると平均値は変わらないということになってしまうからです。

 また「取り除く」といっても蟻ではないんですから、そう簡単にはいきません。
 希望退職を募ったり、指名解雇すれすれ、ぎりぎりのことをやったりするということになると、全体のモラールは低下してしまいます。
 結果的に頭数は減ったけれど、業績も悪くなってしまったということになりかねません。

 それでもアウトプットが従前と変わらないというのであれば、人数が減った分、一人あたりの生産性は伸びたではないか-ということになりますが、そのためにやるのであれば「2:6:2」の一番下の「2」だけを取り除いて生産性向上という元々の発想はなんだったんだ-ということになってしまいますね。
 蟻の世界の話をそのまま人間の世界に持ち込んだところからどうも怪しくなっていると思いませんか?

★年功序列は悪か?

 先週も書きましたが、バブル崩壊後しばらくしてから成果主義の導入がブームかと思えば、ここ1、2年は不要・見直し論議が巻き起こり、ここにきて再・再度見直されていますね。
 本当に忙しいかぎりです。

 その中でどうしても引き合いに出されてくるのが「年功序列」です。
 年功序列は間違っている、古い-成果主義導入の一方でこんな論調が展開されていました。
 年功序列の前提は年々人の技量は向上するのだから、勤続年数に応じて処遇を上げていこうという発想です。
 習熟までに時間がかかるような職務であれば、このことは妥当性があります。
 またそうでなくても、採用や一定レベルの技量になるまで育成するコストなどを考慮すると、多少の人件費増があっても長期勤続してもらった方がやりやすいということもあるかもしれません。

 そうした事情をいっさい考慮することなしに、「世の中」だとか「コンサルタントのいうこと」に従ってしまうと、いろいろすったもんだした挙げ句の果てに、2:6:2に戻ってしまうようなことになりかねません。
 新しいものに飛びついてはいけないとか、コンサルタントのいうことなんか聞くとろくなことにならないと言うつもりでは、決してありません。
 大切なのは人事サイドできちんとした基本認識を持っておくことですね。

★後日譚

 中で触れている北海道大学農学部での研究ですが、その後さらにいろいろな研究報告がされていますね
https://www.tv-tokyo.co.jp/tankyunokaidan/backnumber/?trgt=20200430
https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20160219_01/index.html


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