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見てはいけない?逆コンピテンシー キャリア・カウンセリング/キャリア開発のための人事制度講座(39)

★コンピテンシーとは

 ここ数年、よく使われた人事用語の一つに「コンピテンシー」があります。
 いつも使っている経営戦略・組織辞典(東京経済情報出版)によれば

 単に能力という意味から、特定の人事評価手法を指すものまで、多様な使われ方をする。いずれにしても、経営の分野で用いられる場合は、人事評価の際の職務能力評価に用いられる概念である。広い意味では人事考課での潜在能力の評価(能力評価)をコンピテンシーとして表現している。
 狭い意味では、これは成果主義と結びつけられて用いられる。そこでは、有能だと評価されている従業員の行動特性を職務ごとに抽出し、それらをコンピテンシーと呼んでいる。具体的に、どのような行動が高い成果をもたらしているかが分かれば、ほかの従業員にも同様の行動をとらせることで、高い生産性が確保できるという考えに基づいたものである

 う~ん。なんだか何でもありな感じが…
 コンピテンシーの概念を持ちだしたのは、ハーバード大学の心理学者、マックレラン教授です。
 1973年の論文で、学校のテストや成績は、仕事上の業績や人生の成功を必ずしも予測するものではないとして、職務遂行の達成度を事前に予測しうるものとしてコンピテンシーの概念を打ち出したのです。
 では、コンピテンシーとは?
 それは、高い業績をもたらす(であろう)行動特性を表します。
 平たくいってみればよくできる人の行動パターンで、この中にはどんなときに行動を起こそうとするかという「動因」や、一貫して示される行動の「特性」、価値観や自画像といった「自己イメージ」、その領域について持っている「知識」、そして具体的に行動化するための「スキル」が含まれています。
 ただ、これらの動因や特性、自己イメージなどは外から見て分かりません。
 そこでこうしたものが発現したものとして行動に着眼し、「さまざまな状況を超えて、かなり長期間にわたり、一貫性を持って示される行動や思考の方法」(L.Mスペンサー、S.M.スペンサー『コンピテンシー・マネジメントの展開』、生産性出版)を明らかにしようというのがコンピテンシーの発想です。
 コンピテンシーについては別の機会にきちんと触れることにして、ここでは先を急ぎましょう。

★「逆」コンピテンシー

 ところで、先日、人から貰った人事系の雑誌の中に「逆コンピテンシー」というのを見つけました。
 普通のコンピテンシーが「好業績を導き出す行動」に着眼するのとは逆に、よくない結果に結びつく行動を明らかにしようというのだそうです。
 なぜ?
 それは、そうした行動をとらないようにすれば(たとえばお互いに注意しあうなどして)、危険なこと、よくないことを防げるではないかということのようです。
 お客様からご不興を買うような行動も防げるということのようです。
 なるほどねぇ~。
 同じことを考える人もいるもんだと思いました。

 実はまだコンピテンシーという概念がでる前に、あるお客様のところで同様のことをしたのです。
「お客様の前でやっちゃいけないことをやってしまう人がいる。これをどうにかしたい」というところから話がスタートして、「じゃぁやっちゃいけないこと集」を作ってみようということになりました。
 で、実際に作ってみると、これも人事考課に使えるのではないかという話になり、実際に使ってみることにしました。
 逆コンピテンシーではなく、その名もズバリ「減点考課項目」。
 効果はありました。
 でも、ご想像の通り、なんにでも使えるというわけではなく、有効な場面(あるいは職種)は限られていました。

★やっちゃいけないことを書き出す2つの無意味さ

 まず、やってはいけないことを書き出そうとすると、山ほどでてきてしまうんです。
 そうすると、それを覚えるのが大変(指摘するのも大変)。
 減点考課項目は、誰もやらなくなったら外すことにして、あまり項目を増やさないでやろうということにしてこの点は回避しました。

 でも、もっとまずいことがあります。

 話が急に変わりますが、F1ドライバーの方はどこ見て走っているでしょう?
 これは又聞きなのですけれど、割と先の方を見ているそうですね。
 そしてクラッシュしそうなとき、壁にぶつかりそうなときは、間違ってもその車両や壁の方向を見てはいけないのだそうです。
 そこから脱出するルートの方を見るのだそうです。
 なぜかというと、見ている方に車が進んでしまうからなのだそうです。
 「わー」と思いながら壁の方を見ていると、そのまま壁に突っ込むことになってしまうそうです。

 これは体験することができます。
 自転車でも一緒ですから、試してみてください。
 脇見をして運転をしていると、そちらの方へふらふらと自転車が進んでいきます(よく、漫画でもそういうシーンが出てきますよね。きれいな女の人に見とれてふらふらと自転車がよっていくという…)

 あまり人に言えない経験なのですが、大学生の時、大学構内で車を縁石にぶつけて動けなくしてしまったことがあります(ここで修理代を使わなかったら楽器買えたのに・・・)。
 このときも、車をのろのろ運転させながら、右斜め前方の生協の開店時間をよく見ようと目を凝らしていました。
 ゴン! と車が止まったときには反対車線の縁石でした。
 夕方で、しかももともと車通りが少ないところでよかった・・・。しかも学内(つまり私道ね)。

★やるなといわれると…見るなといわれると…

 これやっちゃいけないんだよなと頭に入れれば入れるほど、そのことを強烈に意識するから、ついやってしまうという結果を生むことになります。
 とっさの時なんか如実にでます。
 やっちゃいけないことが先に頭に浮かんで、やらないといけないことが出てこなくなってしまいます。

 人前で話すときも、上がったらどうしよう、上がっちゃだめだ-と思うほど上がってしまう。

 もう今月は小遣いがないから、本買っちゃだめだと思えば思うほど買ってしまう(これは違うか・・・)

 逆コンピテンシーも減点考課項目も、やりすぎると逆効果になってしまいます。
 やってはいけないことをあれこれいわれるよりも、やっていいこと、期待されるゴールイメージ、うまくいっている様子をイメージすることの方が、精神衛生上もいいですよね。

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