見出し画像

人事考課って… キャリア・カウンセリング/キャリア開発のための人事制度講座(4)

★コウカ・フコウカ・ジンジコウカ~人事考課がないのはまずいことか?

「今度入った会社、人事考課表もないんですよ。どうやって処遇を決めるんですかね。信じられませんよね」 
 昨年転職したAさんが、語気荒く話します。
−どうやってって、採用面説の時には聞かなかったの? カウンセラーとしてではなく、友人としてついこのように聞いてしまいました。
「あのねぇ、採用面接でそこまで聞けるわけないだろう。昇給がどうなっているかとか、どんな人材を評価するかくらいまでならなんとか聞けるけど、人事考課の中身までは聞けないよ。時間も限られているし・・・。それに、まさかないとは思わなかった」
−なるほど、そりゃそうかもしれない。ちなみに、私が3つ目に勤めた会社は人事考課表がありませんでした。人事のコンサルティングをしている会社でもあったので、社長に聞いてみました。
−うちの会社って、人事考課表ないですよね? 作らないんですか?
 「え? だって、正社員は君だけだろ。社員が増えたら考えるよ。考課表なんか付けなくても、僕が君をどう評価しているかは、いつも口頭で言っているから分かるだろう」
−・・・確かに。そりゃそうだ・・・。

 なお、退職することには社員数は20人近くになっていましたけど、人事考課表はありませんでした(メモみたいなものはありましたが)。それであなたは納得していたのかって? 実は・・・その答えは最後に・・・。今週は、人事考課表についてです(前振りが長いな・・・)

★人事考課表って何?

 「えぇっ!! うちも人事考課表なんてないぞ~ なんなんだそれは~」と笑えないでいる気分の方のために、人事考課表について説明しておきましょう。人事考課表とは期間中にそれぞれの社員の働きぶりがどうであったかを考課者(普通は上司)が記入するシートです。通常は、いくつかのジャンルで構成されていて、それぞれで得点化され、集計した総合得点によってS、A、B、C、D等の評語に置き換えられます。そしてその結果が昇給額や賞与支給額などを決定するのに使われます。人事考課表ではなく、「査定表」といわれたり「評価表」と呼ばれたりすることもあります。
 中身はどんなことを書くのでしょう。ジャンルといいましたが、どんなものがあるのでしょうか? 積極性や協調性など仕事をする上での「取り組み姿勢・態度」や、企画力や指導力など仕事をする上での「能力」、あるいは具体的な「数値目標の達成度」なども見られます。実際にどのよう内容かは会社によって大きく違います。また同じ会社でも職種による格差があるとことも少なくありません(違う仕事なのに同じ内容だったら変ですよね。ここで「えっ?」と思われた人事の方、もしどの職種でも一緒なのでしたら、見直した方がよいかもしれませんよ)
 運用の仕方も会社まちまちです。最も多いのは半年間に1回上司が記入するというタイプでしょう。最近はもっと早いタイミングでやろうとしているところもあるようです。またこれをつける上司は直接の上司が一人でつける場合と、そのまた上の上司も一緒につけるという形式もあります。この場合最初につける上司を一次考課者、上司の上司を二次考課者と呼ぶことが一般的です。
 結果の活用についても会社によって違います。先に触れたように、昇給(最近は降給も)や賞与の額を決めることに使うほか、昇進や昇格を決めるのに使うところもあります。逆に、考課はするけれど、こうした金銭的な処遇には関係させないというところもあるようです。

★「会社(上司)は私のことをどう思っているんだ?」

 さて、ここまでの話で、そんなの当たり前じゃないの−と思った方、そう、あなたの会社では当たり前ですね。ところが、これが当たり前でない会社も少なくはありません。そうでしょ、へぇ~人事考課表ってそうなんだ~と思いながら読んでいたみなさん。
 さて、人事考課表を知らなかった方には3通りの方がいらっしゃるはずです。一つは本当に人事考課表がない会社に勤めていた場合、二つ目はあるんだけど一般社員には公開していない場合、もう一つは会社勤めをしたことがない場合です。冒頭のAさんがいいたいのは、実は、考課表がないことそのものよりも、自分のことを会社(というよりは上司)がどう評価しているのかを知りたいということです。
 人事考課表がない場合、自分の評価をどうやって知るんでしょうか? 残念ながら人事制度上は知る手がかりは少なさそうです。「上司は俺のことをきちんと分かってくれるさ」「天網恢々粗にして漏らさずというではないか。きちんとやっていれば誰かがみていてくれるものさ」。そう思って黙々と、こつこつと取り組んでいくか、ひとおもいに上司に聞いてみるしかありません。
 これは2つ目の考課表はあるのだけれど一般社員には公開していないという場合にも言えることです。「上司に聞く? そんなことできない」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、本当に知りたいならそれ以外に方法はありません。
 このときにカギを握るのはコミュニケーション能力です。いかにうまく聞くか−聞き出す技術も必要ですし、聞いたことをきちんと受け止める技術も必要です。給与に納得できないから評価を教えろ! ではうまくいきそうにありませんね。なぜ知りたいのか、知ってどうするのか−をきちんと伝えることが必要です。さらに教えてくれたらそれをまずは受け止めることも大切です。
 「そうはいっても納得できない評価もあるぞ!」 確かにそうでしょう。でも、それがお互いの間を一層良くするための糸口ではありませんか? 上司の認識と自分の認識−これまではすれ違っていたというのがここでようやく明らかになったのです。このすれ違いを何とかすれば評価も変わってくるかもしれないのです。きちんと受け止める技術というのは、いわれたことはそのまま受け入れて納得しろというわけではなくて、まずはいったん受け止めないとそこから先の話し合いにはなりませんよということです。
 そのように考えてみると、人事考課表がないというのもまんざら悪いものではありません。人事考課表があって社員にも公開されているけれど、「じゃぁこれが君の評価だから」と言って渡されるだけで、何のコメントもくれないというところだとか、「人事がやれって言うから仕方なくやっているんだけれど、中身が良くなくて実態を反映できていないんだよね。まぁつじつま合わせだから」というところもあります。人事考課表があったからといって、自分の評価が分かるわけではありません。結局は「上司に聞いてみる」というのが一番確実なんですよね。人事考課表がなければ、かえって聞きやすいです。何せ無いのだから、「教えていただかないと分からないので・・」と言いやすい。まんざら悪いものでは無いというのはこの意味で悪くはないと言うことです(本業のコンサルタントとして言うなら、人事考課表があって、さらに上司と本人で話ができるというのが一番良いのですけど)。人事考課表がない=だめな会社というわけではないのです。
 ちなみに、カウンセリングをしていると、「会社が自分のことをどう評価してくれているのかが分からない」ということをおっしゃるクライアントは少なくありません。「それって、聞いてみてますか? 上司に」と伺うと、「いや、聞いてません」だとか「聞かなくても分かります」という答え・・・。聞かなくちゃ分からないことも世の中には多いのですけど・・・。実は「聞いていない」「聞かない」のではなくて、「聞けない」「聞きたくない」だったりすることもあります。

★今回のまとめ

 人事考課表とはその人の働き映えを写し取るものです。結果は処遇の決定にも用いられますが、それをきっかけとして今後どうしたらよいのかを上司と本人が話し合えるようになることが、将来指向という面からも大切です。その意味では人事考課表はあるに越したことはありませんが、無かったからといってそれが致命的であるということではありません。
 要は上司と話ができるかどうかということです。
 そのためはコミュニケーション能力を磨くということも必要です。

★おまけ

 ちなみに私が3つ目に勤めた会社、人事考課表がなくても社員数が少なかったせいもあって、どのように思われているのかはよく分かりました。
 だからことさら考課表はなくても良かったです。
 でも、人数が増えてきて、自分と同じくらいのレベルの人が入社するようになってくると、「あいつと比べて一体どうなんだ?」ということは気になりました。
 でも報酬が透明だったんです。
 評価が分からなくても報酬額でどう評価されているかが分かるようになっていたんですね。
 だから人事考課表がないということそのものは気になりませんでした。
 ただ、人事・組織のコンサルティング会社でしたから、お客様から「で、あなたの会社の人事考課はどうなっているんですか?」と聞かれたときには困りましたけど・・(正直にお答えしていましたが)。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?