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やりたいことを仕事にしたいという幻想

やりたいことを仕事にするのが正解なの!?

最近の風潮として、やりたいことを仕事にするというのがあります。

SNSを見ているといろいろな人がやりたいことでフリーランスになったり、独立をしたりしています。

経営者や管理職の皆さんから受ける相談として、最近増えているのが若手社員の取扱かたである。

経営者や管理職も不満を取り除くことができないのと、若手社員もその不安、不満をどのように解消をしたらいいのかわからず、お互いにもがき苦しむ状況になっています。

いきなり退職届けが届く前にお互いに歩み寄る必要があります。

なぜ!?若手社員は不満を募らせてしまうのでしょうか!?

「若い人たちはどうも不満が多くてね、なかなか定着してくれないんですよ。仕事のできない若手をゼロから育てて、ようやく戦力になり始めたと思ったら、突然辞めてしまう……。そんなことの繰り返し。本当にどうしたらいいのか対応に困ってるんですよね」というのはとある大手企業の子会社の人事部長。

「『自分がやりたかったのはこういう仕事じゃない』ということですね。中には『私はこんな仕事をしたくて就職したわけじゃありません』というようにはっきり言う人もいて、ほんと参りますよ」

これは、最近流行りはじめている「やりたい仕事」病の症状だ。

さらにその人事部長は続けて、「誰だって不満があるのはわかりますし、できることなら不満を解消できるように職場環境を変えてやりたいとは思っています。でも『やっぱり自分が本当にやりたいって思えるような仕事を探したい』『まだ若いし、仕事を変えるなら今のうちだって思うので……』などと言われると、もう何も言えないですね」

そこまで言われると、職場環境の調整などで対処できる問題ではないため、お手上げ状態になってしまうというわけだ。

「自分がやりたかった仕事と違う」といった不満を持つ若手社員はどの職場にも溢れており、その扱いに苦慮している経営者や管理職が少なくない。

やりたいことへのこだわりは成長をとめる!?

だが「やりたい仕事」病は、若手社員自身をも苦しめている。

「やりたい仕事」へのこだわりのない時代であれば、就職して研修が終わり、現場に配属されて、先輩や上司から仕事の手ほどきを受けると、ほとんど抵抗なく与えられた仕事に専念することができた。

ところが、「やりたい仕事」にこだわる時代になると、どんな仕事をしていても、「これがやりたかった仕事なのだろうか?」といった疑問が湧いてくる。

そこで自問自答をするうちに何かちょっと違うような気がして不満を感じるようになる。

不満がたまってくると、専念していた仕事にも雑念が入り、手がつかなくなる。

「やりたい仕事」へのこだわりは、とりわけ当人の気持ちが強いほど、さらなる悪影響を及ぼす。

「やりたい仕事」にこだわることの一体、どこが問題なのか、あるいは「やりたい仕事」にこだわるのは当然のことだろう、などと多くの方は思われるかもしれない。

でも、どんな仕事であれ、それなりに極めていかないと、その面白さもやりがいも実感できないのではないだろうか。

最初のうちは「つまらない」と思っていても、「仕事だから仕方ない」と割り切って、いろいろ工夫していくうちに、多少はやりがいを感じられるようになる、というのもよくあることだ。

あるいは自分には向いていないと思っていた仕事でも、やっていくうちに「この仕事は面白い。もしかしたら自分に向いてるかもしれない」と前向きな気持ちに思えるようになり、自分の適性を再発見する、ということもある。

さらに「できること」が変われば、「やりたいこと」も変わってくる。 
となると、仕事力が高まってくれば、「やりたい仕事」も今自分が思っているものと変わる可能性が高くなるのである。

だからこそ、今「やりたい仕事」にこだわるよりも、とりあえず目の前の仕事に没頭して、仕事力を身につけていく方が大事なことではないだろうか。逆に言えば「やりたい仕事」へのこだわりを強く持ちすぎてしまうと、そうした自分の成長の妨げになる、といった側面がある。

やりたいことをやるのはキャリア教育の弊害!?

ところで、若手社員がこうした「やりたい仕事」への過度のこだわりを持ってしまう責任は、企業側にもある。

企業に応募してきた学生(就活生)はエントリーシートで「やりたい仕事」について書かされる。

その上に、採用面接で「当社に入ったら、どんな仕事をしていきたいですか?」といった類いの質問をされるため、彼らは「自分はどんな仕事をしたいのだろうか?」と「やりたい仕事」を強く意識せざるを得ないのだ。

実は、ここに落とし穴がある。

就活生が面接で「やりたい仕事」について意欲的に語り、その後めでたくその会社に入社したとする。現場担当者は果たして、本人が望むようにその仕事をやらせるのだろうか、ということだ。

そうでないなら、採用担当者はなぜそんなことを面接で質問するのだろうか。

特に新人は仕事の現場を直接見ていない以上、その会社の現実を知る由もない。

仕事の世界にどっぷり浸かる前から、必要以上に「やりたい仕事」を意識させたりするために、新人は現実から遊離した「やりたい仕事」像を膨れ上がらせるのだ。ところがいざ就職してみると、「やりたい仕事をやらせてもらえない」「こんな仕事をやりたかったのではない」というような不満が出てくるのである。

その責任は企業にとどまらない。

大学や高校で行われる教育にも責任がある。

なぜならキャリア教育では「やりたいことを探そう」「そして、それを仕事に結びつけよう」というように、学生は「やりたい仕事」探しに追い立てられ、病の素地が作られていくからだ。ところが「やりたい仕事」が見つからないという学生が非常に多い。そこで、こんな学生が出てくる。

「『やりたい仕事』が見つからない自分は社会の落ちこぼれになるんじゃないかって、不安でいっぱいです」
「『やりたい仕事』がどうしても思い浮かびません。『そんなことではまともな就職ができない』って先生から言われて、ものすごく焦ってます」

私も、このように悩んでいる学生たちの相談に乗ることが多い。

そんな悩みを抱える学生に対し、私は発想の転換を促し、「『やりたい仕事』探しなど上手くいかなくてもいい。

そして、就職したら目の前の課題に没頭して、知識を深め、能力を高め、経験値を高め、できることを増やすようにしなさい」とアドバイスしている。

次のような学生たちの声は、若手教育の参考にもなるのではないだろうか。

「私は、やりたいこともないし、これをしたいという仕事もありません。周りの人たちが『こういう仕事がやりたい』って、はっきり言っているのを見て、やりたいことがない自分はおかしいのかと思い、自信を失くしていました。こんなことでは就職なんてできるわけないと落ち込んでいたのです。ところが、今日の授業で『やりたい仕事がなくてもいい』と聞いて、ちょっと安心しました。自信喪失から脱出できそうな気になれました」

「『できることや経験が増えるとやりたいことが変わる。やりたいことや好きなことは頑張って探すものではなく、頑張った先に出てくるものではないか』っていう先生の言葉が心に響いた」

「今まさに、自分はやりたいことをいくら探しても見つからない状態で、とても不安でした。でも、先生の言葉を聞いて、無理に探そうとせずに、いろんな経験をしていけばいいんだと思うと、気持ちが楽になりました」

キャリア教育によって生み出される「やりたい仕事」へのこだわりは、多くの若者をかえって苦しめているのである。

以上のようなことを踏まえて、企業側の面接の仕方が変われば、キャリア教育を正常化することもできるのではないだろうか。

さらに言えば、企業が面接で「やりたい仕事」へのこだわりを重視するあまり、結果的に目の前の仕事に没頭する力のある有望な人を意外にも見落としているのではないか。

経営者や管理職は「やりたい仕事」病の感染が疑われる若手社員の不満に対し、社員教育や個別の相談を行うにあたって、「やりたい仕事」病の呪縛を解く姿勢が求められていることを強調したい。


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