「多国籍人材雇用で強い組織をつくる」ヨンイチ高梨洋一社長へインタビュー
「多国籍人材雇用で強い組織をつくる」をテーマに外国籍人材雇用専門家へインタビューを実施!
株式会社ヨンイチ 代表取締役 高梨洋一氏
日本大学(農獣医学部)卒業後、株式会社セブン・イレブン-ジャパンに新卒入社。3年後、株式会社リクルートエイブリック(現リクルートキャリア)へ転職。法人営業、企画マネージャーを経て、海外事業部へ異動。ファーストリテイリングのグローバル人事部へ出向を経験。同社のグローバル採用の仕組み構築と採用プロジェクトを実施。その後、リクルート海外法人にてシンガポールと上海へ赴任し、当該地域の事業を管掌。2014年日本へ帰国後は、現リクルートキャリアの中途事業本部営業企画部部長として2000名近くの営業組織の売上向上を目的として従事。2015年株式会社ネオキャリアへ転職後は、シンガポール現法社長に就任。海外事業全体の経営企画と経営管理を行う。2019年帰国後、株式会社ヨンイチを設立。『日本を良くする』をテーマに日本企業の働き方の多様性と生産性向上を人の観点で支援すべく、外国人雇用の推進を専門に行う。同時に人事コンサルティングのプロ集団である、株式会社EHRにも参画。また、株式会社ゴーリストでの外国人採用支援事業の執行役員にも就任し、自身も働き方の多様化を目指す。
外国籍人材採用のリテラシーを高め裾野を広げる
CareerFly大野(以下大野): 本日は「多国籍人材雇用で強い組織をつくる」をテーマに外国籍人材雇用専門家の高梨さんにお話を伺います。本日はよろしくお願いいたします。
株式会社ヨンイチ 代表取締役 高梨洋一氏(以下高梨氏):はい、よろしくお願いいたします。
大野:株式会社ヨンイチを立ち上げる前は、ネオキャリアの海外事業部(リーラコーエングループ)にて「外国籍人材採用支援サービス」を提供する側にいらっしゃいました。また、リーラコーエングループではアジアを中心に多国籍チームを実際に牽引し「多国籍チームをマネジメントする」ご経験もしていらっしゃいます。
高梨氏:私はもともと、”超ドメスティック”な人。26歳までパスポートを取得したことがありませんでした。過去の留学経験も、ビジネス上で海外の方々との接点も全くありませんでした。「リクルート出身」と聞いて一般の方が容易に想像できる通り、ゴリゴリの営業パーソンとしてキャリアを積み上げていました。
大野:とても意外です!
高梨氏:これだけは親を恨みました(笑)。せめて、留学経験くらいさせておいてくれよ、と。
大野:外国籍人材との接点をいつ持つことになったのでしょうか。
高梨氏:2010年にリクルートから某グローバルアパレル企業へ出向したことが最初の接点です。グローバル人事部へ配属され、グローバル人材採用を主な業務とし、海外から日本へ優秀な人材を採用しました。年間100名の採用を実施しました。約2年の活動を経て、リクルートに戻ると今度は、シンガポール赴任をして来いと言われました(笑)。
大野:そして、シンガポールと上海赴任をご経験されます。
高梨氏:当時、シンガポールはそうでもなかったのですが、中国上海の現地法人の人材紹介事業の責任者の立場で現地赴任したのですが、現地採用のスタッフは、ローカルスタッフではありましたが、ほぼ日本ナイズされた方々でした。正直、ダイバシティ組織とは言い難いチームでした。
大野:ただ、多くのご苦労があったこと、想像に難くないです。2019年に帰国し現在のヨンイチを立ち上げましたね。
高梨氏:はい。起業した理由は二つあります。
外国籍採用をもっと広げていきたい。
長年企業の採用手段は、「一本足打法」のごとく日本人採用のみに頼っています。少子高齢化が進み、労働力確保が困難な中、従来のやり方を継続することで良いのか考えていました。
二つ目の理由は、採用企業の外国籍採用に関するリテラシーを高めることです。現在、国内の外国籍人材派遣/紹介ベンダーが増えてきました。外国籍人材に関する情報や紹介スキームなどをしっかり心得て企業へ紹介する”良いベンダー”も存在します。一方、あまり知識のないベンダーが「○○国籍のITエンジニアお勧めですよ!」のように押し売りしてくることも度々みられます。
企業は、ある一定の知識や知見を持つ人材エージェントと協業すべきです。それには、採用企業のリテラシーを高める必要があります。
大野:確かにここ最近、外国籍人材を扱うエージェントが増えてきました。
高梨氏:そうですね。だからこそ、エージェントも企業もできるだけ多くの知識やノウハウを得て、外国籍人材採用の裾野を広げていきたい、それが私の思いです。
大野:採用企業にとっては、採用手段の種類を増やす&そのための確かな知識を高梨さんから学びとれることは大変貴重ですね!
多国籍チームを率いるために「仕組みつくり」はマスト
大野:そんな高梨さんに本日ずばり訊きたいことがあります!これまでのご経験上、「多国籍人材雇用で強い組織をつくる」ことができたと思う企業はどこですか?
高梨氏:(迷いなく)先述した某グローバルアパレル企業ですね。
多国籍=多様性と捉えるならば、間違いなく多様性のある組織作りに成功したと言えます。
2010年、当時同社社長が「2020年には国内と海外の売り上げ比率を反転させる」とおっしゃっていました。その計画のもと、国内組織がグローバル化する動きとなりました。
多様性のある組織を牽引するには、「仕組み」を整えることが重要です。
これまでの仕組みのほとんどは、日本国籍社員雇用の基準をもとに定められ運用されてきました。そのため、給与、報酬、評価制度をグローバルスタンダードへ変えていくこと、これは外国籍人材採用において欠かせない取り組みです。
某社の場合、当時でざっくり全世界の社員数1万名の内7000人が日本国籍社員、そのうち3000人がマイノリティである外国籍社員、その中で日本国内で働いている外国籍社員は200人ぐらいだったと思います。これまでは、日本式の制度運用がなされており、グレードが一番下のスタッフが執行役員まで上り詰める、また海外の駐在は、日本側から日本国籍社員が駆り出されるなど、大体の企業が行っているやり方で運用されていました。海外の社員が日本に来るなんてことはなかったわけです。
これを続けてしまうと多国籍社員が混在する組織では、ポジティブな人の流動も見込めない。そこで某社は人事制度を変えました。例えば、メンバークラスのスタッフの階級はローカルルールに則った制度運用とし、それ以上のマネジメントのグレードはグローバル統一の制度を適用しました。
大野:いまだに日本の大手企業では、グローバルスタンダードルール策定すらできていない印象です。某社はさすが事前予測と決断が早いですね。
高梨氏:大手であればあるほど「大方針の転換」は大変です。これは理解できます。ただそのような企業ほど、過去の経験から学びがあるはずです。某社に関して言うと、2010年ごろから、10年後の売上変容に加え、「多少英語ができる日本国籍社員を駐在させる特別扱いに意味はない」という判断をしていました。
社内で英語教育が施されるようになり、出向者である私も含め全員が英語の勉強を課せられていました。当時、半年でTOEICの点数を50点以上毎回あげ続けることを求められていました。もちろん良い取り組みではあるのですが、点数を獲得することが目的化してしまう。
本質とは何かを考えると、現地で事業を成功させるために、語学力を備えた日本国籍社員が通用するかというと、そうではないです。華僑コミュニティに入り、馴染み現地でビジネス展開することを考えると、例えば、シンガポール国籍社員をシンガポール法人のトップにした方が成功する近道と思います。現地の法律やルール、慣習など心得ていることは事業展開のスピードに影響があります。
このような人材を日本側で採用し育成するには随分と時間がかかってしまう。
それならば、シンガポール国籍の方を採用し日本に来てもらい、育成して国へ戻ってもらう方法が良いと思うのです。
大野:そうですね。人事評価や給与体系がある一定のグローバルスタンダードになっていれば、自国へのUターン採用もうまく運用できますね。
高梨氏:そうです。そもそも駐在という概念をなくしてしまうためにも、グローバル共通の制度設計を行った方が運用も楽になる部分もありますし、グローバルでの社員循環もしやすい状況が作り出されます。
また、先進国の優秀層を獲得したい企業であれば、尚更その対応をした方が良いです。
ニューヨーク勤務の方がシンガポールへ異動する際、異動先の物価に合わせた係数に乗じて支給する、そこに役員手当などを含めていくなどの対応です。
外国籍社員定着は”特別扱いしない、一人にしない”ことが大事
大野:グローバルスタンダードの仕組みつくりについて、大変勉強になりました。
少し話題を変えます。多国籍チームの中で多くの外国籍人材の方が活躍いただくため、受入企業が意識高く取り組んだ方が良いことはありますか?
高梨氏:「特別扱いしない、一人にしない」ことを念頭におき、それぞれの取り組みを推進するべきだと考えています。これは、私の原点でもあります。
大野:一つずつお伺いできますか。
高梨氏:外国籍社員の方は、置かれる環境に対してマイノリティの立場となります。受け入れる企業も、マイノリティである外国籍社員の方に対してどのように迎え入れれば良いか戸惑うことがあると思います。
ファーストステップとして、「特別扱いしない、一人にしない」これを徹底していただくようお伝えしています。日本国籍社員の方と同じように接することです。特段問題なければ制度面も同じように運用する、などの対応が大事です。
それがあれば、受入企業と外国籍社員の方との距離感が縮まります。その距離感が実現できた状態で、異文化理解や言葉の教育などを推進するとより良い効果を見込めると考えています。
繰り返しになりますが、外国籍社員の受入の大前提として「特別扱いしない、一人にしない」ここを徹底することが受入に欠かせないポイントです。
大野:大切ですね。それを踏まえ、他に取り組むべきことは?
高梨氏:外国籍社員の方はキャリアパスが明確になっている企業をより好む傾向にあります。それなのに、企業はここまで(基準と評価項目)の評価があれば、必ず次は課長、部長になれるよ、みたいなことは断言しません。これは日頃、日本国籍社員に対してもしていないです。外国籍社員の方の傾向を踏まえると、過去のロールモデルや事例を示すなどの対応をした方が良いかもしれません。現在の部長は、どのような業務経験をして何年たったら現在のポジションについた、などの事例です。このような可能性を示すことは外国籍社員の方へ意図的にした方が良いですが(日本国籍社員へも同じくですが)、それ以外は日本国籍社員と同様の対応で良いと思います。
特別扱いしないことは難しいという企業の声もあります。
今の制度のままだと満足してもらえないから変えなくてはいけないのでは、帰国させるための休暇制度、住宅手当を特別付与しなくては振り向いてもらえないのでは、などです。
こういったことが特別扱いです。一体何を目的にこのようなことを外国籍社員に対して行うのか、しっかり検討し目的を定義した方が良いです。
大野:特別扱いをできるだけ回避する方法はありますか?
高梨氏:ジョブ型とメンバーシップ型の業務区分をすることです。
ジョブ型:アサインする職務に紐づいた業務をできるだけ細分化、明確化し、それを企業と社員間で合意する。その上で雇用関係が成り立つ。
メンバーシップ型:所属する企業の一員として関連する業務は時に担当業務を飛び越えて対応する雇用関係。
多くの日本企業が後者のメンバーシップ型をとっています。
外国籍社員の場合、ジョブ型雇用に慣れている背景からメンバーシップ型の業務を求められたときに戸惑うことが多いです。
ジョブ型雇用の場合、求められていることや配属する業務など事前に合意することとなるので、上述した特別扱いを特段行う必要がないです。
大野:ジョブ型のほうが外国籍社員雇用によりフィットするかもしれませんね。昨今、大手企業でも年功序列制度からパフォーマンス制に切り替える報道を目にします。良し悪しはさておき、自身がアサインし合意した業務で成果を出す、それを正当に評価する会社であれば十分魅力的ですし、上述した特別扱いの必要はないですね。
高梨氏:日本企業はメンバーシップ型文化に慣れすぎてしまっており、これを変えないと今後若い世代の採用に苦労すると思います。メンバーシップ型は日本型雇用としてメリットも十分あります。一方、外国人雇用においては、雇用段階で与える職務と業務を明確にしておくことは、グローバルスタンダードです。営業ポジションの求人票をみると「業務:営業全般」以上。みたいな求人をみかけることがあります(笑)。これでは、何を業務として行うのか、評価は何でされるのか全くわからない。
弊社で採用支援をする際、このような企業に対して、ポジションに何を求めるのか、実際の業務は何かをヒアリングした上で落とし込んでいくことも、併走して行うことがしばしばあります。
大野:採用支援のやりがいがあります(笑)!
ななめ上のメンターをつける!
高梨氏:次に「一人にしない」ことについて、取り組みとしてのお勧めは”メンター制度”を導入することです。外国籍社員に対し、入社当初からメンターを付けることで一人にしない状態を作りだします。
大野:どのようなメンターを付ければ良いですか?
高梨氏:斜め上のメンターです。
上司でもなく、先輩でもない。その社員の方を評価する立場の方だとダメ。
評価する立場でない、さらには対象社員が属さないラインの少しだけ上の先輩メンターがベストです。
本来メンタリングとは、傾聴、コーチング、フィードバックなどを活用して、本人から話をしたいことを吐き出させる。それに対し、整理して、本人が答えを導き出せることが理想です。対象者のメンタルが軽くなり自走することにつながっていくために、業務ジャッジをしない&押しつけのない立場の社員をメンターとしてアサインさせます。
話したことは、絶対口外しない。特に対象者の所属部署に絶対に言わない、でも必要あれば人事部へ伝えることはできる。このように、心理的安全性を高め、安心安全な場所を提供するルール運用を浸透させることに努めます。
プラスアルファがあるとすると、アジェンダを用意することです。メンタリングする側がいつも部下に接するよう話をしてしまうのはNGです。とにかく聞くことや、相手を詰めないよう、アジェンダを本人に用意してもらうこともポイントです。
大野:弊社クライアントのケースでよくあるのが、一人の外国籍社員を雇用するなら二人入れた方が良いと考え一気に人数を受け入れるケースがあります。これも、一人にしない状態を作るには有効なやり方でしょうか?
高梨氏:これは、とても有効だと思います。特に初めて外国籍社員を受け入れる企業の人事の方へ、
「一気に二人受入に対して何を躊躇するのか?」と問うています。
一人の受け入れももちろん労力はかかりますが、一気に二人受け入れることと変わりはないはずですし、少し時期がずれても同国籍の社員の仲間を作ってあげたいですね。
大野:外国籍社員の方にとっても、マイノリティで同じ立場の方がいることは心強いですよね。
この「特別扱いしない、一人にしない」という考え方は、わかりやすい上に素敵な考え方です。
そろそろお時間少なくなってきたので、最後の質問とさせてください。
高梨さんにとって、外国籍社員の雇用メリットとは何かを教えていただけますか?
高梨氏:外国籍社員の雇用メリットは、”残念な転職をゼロにできる”ことでしょうか。
要は会社経営や事業運営のレベルがあがるというか、経営陣のマネジメント力があがるということに尽きると思います。
”残念な転職”とは、予期せぬ転職、あるいは自社でも提供できるはずの機会や職務を担えるのに他社へ転職する社員を出してしまうことです。隣の芝は青い、みたいな状況を生み出してしまっていたことで引き起こしてしまいます。
多国籍チームを牽引すると、キャリアパスを明確にしたり、評価基準を明確にしたり、ジョブディスクリプション(職務記述書)が明確になったりしていきます。これに加えて、ダイレクトに風通しの良いコミュニケーションができる風土醸成ができることで、残念な転職が減り、結果としてマネジメントレベルがあがっている、という状態になります。その強制的な環境が作れることが外国籍社員の雇用のメリットの一つかと思っています。
私の経験でも、経営者自身が成長できることだと思っています。”良い点はイノベーションを生み出す”、みたいなカッコ良いこと言いたいのですが(笑)。
私自身、外国籍社員から多くの刺激を受けて、マネジメントスタイルが180度変わりました。Theリクルート式マネジメントスタイルで通してきた20代のやり方を変えたのは、これまでに触れてこなかった外国籍社員の価値観や思考などがきっかけでした。「そんなふうに考えるんだ!」という視点をたくさん導き出してくれたました。
これは余談ですが、日本が改めて好きになったこともプラスでしたね。
大野:母国への想いが高まったとは、素晴らしいです!最後に「多国籍人材雇用で強い組織をつくる」ことを検討されている方々へメッセージをお願いします。
高梨氏:一歩踏み出そう!びびるな!恐れるな!です(笑)。
大野:力強いメッセージ有難うございました。
多国籍人材雇用で強い組織をつくるための、仕組みつくりに関して詳細に伺うことができ大変勉強になりました。多くの日本企業が外国籍社員雇用に乗り出すきっかけとなると嬉しく思います。
Career Fly
多様性ある文化形成を目指し、海外女子の人材紹介ビジネスを2015年にスタート。”日本ではたらく”を目指す理系海外女子を85カ国5000名をプール。海外女子の「越境転職をもっと身近に、気軽に」するための就業支援、および日本企業の優秀人材採用強化に貢献する。
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