【経営者必見!】56歳不動産業社長が語る 事業と「自分らしさ」両立のヒント:楽しみながら事業を成功させる方法
経営者の皆様、
そんなことを考えたことはありませんか?
だとしたら、今回ご紹介する伊藤貴之社長のインタビューは大きなヒントとなるに違いありません。
伊藤貴之社長(56歳)は、家業である不動産業を30歳で継承し、努力に努力を重ねてこられました。
が、55歳のとき、健康面での変化やコロナ禍をきっかけに「自分にとって望ましい生き方、事業のあり方」について深く考えるようになりました。
その結果、たどりついたのは「真の豊かさ」という価値観。
さらに「古民家再生」と「コミュニティづくり」といった事業と「自分らしさ」の融合でした。
以下、「人生後半・経営者の生き方の問い直し 自分らしい事業経営」をテーマに、伊藤社長にお話を伺います(インタビュー時期2024年4月)。
1.「おせっかい大家」を自認 不動産の仕事の半分は人生相談
中川:本日はお時間をとっていただきありがとうございます。よろしくお願いいたします。
伊藤:よろしくお願いいたします。
中川:伊藤社長は、30歳の頃に家業の不動産業を継がれたとのことですが、まず、現在に至るまでどんな想い・お考えで経営されてきたかをお聞かせいただけますか。
伊藤: はい。
当社には不動産業としての二本の柱があります。一つは平たく言うと大家さん。自前の物件を持ち、そこから家賃収入を得ています。
もう一つは一般の方がイメージされるような不動産屋さん。物件の売買や賃借を仲介して、お客様から仲介手数料をいただく。この二つが当社の仕事です。
30代の頃から思っていたことがあります。それは「この商売はいくつになってもできるはずだし、年を取ったら年を取っただけいい仕事ができるんじゃないかな」と。
中川: ありがとうございます。なぜ「年を取るほどいい仕事ができる」とお考えになったのですか?
伊藤: 実は、不動産のご相談にくるお客様の半分は、人生相談なんです。
中川: そうなんですね。
伊藤: はい、住み替え一つをとっても、転勤やお子さんの進学、結婚や離婚など、人生の転機に合わせて不動産のご相談をいただくんです。私は年を重ねて人並みにいろいろと経験してきましたから、お客様とのお話の中で引き出しが多く広くなり、お話を受け止められる幅が広くなったのかな、と自分では思っています。
そしていろんなご相談がありますが、それは全く苦じゃないんですよ。
楽しいんです。本当に。
中川: 楽しいんですね、お客様のお話をじっくり聞いて、お客様に関わっていくこと自体が楽しいんですね。
伊藤: はい。むしろそのために不動産屋をやっているようなものです。だから家内は「おせっかい大家」と自認してます。
中川: 奥様もそのお気持ちがご一緒なんですね。
伊藤: 全く一緒ですね。
2.家が欲しいお客様に、家を売らずに帰した
中川: お客様の人生に関わった具体的なエピソードは何かおありですか。
伊藤: はい。
家を買いに来たお客様に、家を売らずにお帰ししたことがあります。
以前、起業して間もない男性が、お子さん誕生を機に「家を買いたい」と相談に来られました。しかし私は「今は家を買うのはやめた方がいいですよ」とアドバイスし、結局その方は購入を見送ることになったんです。
中川: そうなんですね。どうしてそういう結論になったのでしょうか。
伊藤: 私はその方に、
とお伝えしました。そして「奥さまのお気持ちも考えてみてください」ともお話しました。
中川: なるほど。それでお客様は納得されたんですね。それがお客様の人生と関わるということですね。
伊藤: はい、そう考えています。
3.独り身の入居者のお葬式を執り行ったことも
伊藤: また、当社の所有物件の入居者には、ひとり住まいの方もいらっしゃいます。ご身内がいらっしゃらない高齢の方が亡くなったときに、私たち夫婦がお葬式を出したこともあります。
中川: なんと! まるで後見人のように、入居者と接していらっしゃるんですね。それは驚きです。失礼ですが、そのようなご対応は貴社の「サービスメニュー」に含まれているのでしょうか? 「ひとり暮らしのご高齢の方にはこんなサービスも提供します」と、事前にご案内しているのですか?
伊藤: いえ、そういうわけではないです。
弊社にはそうしたしくみはありません。それは会社としてどうかなのか、とは思いますが、あえてしくみを作り込んでいない会社なんです。
中川: そうなのですね。
今のお話は、お客様の人生と真に関わっておられるエピソードですね。
4. 55歳のとき「この先の10年をどうするか」を考えはじめた
中川: ではここからは、インタビューのテーマである「人生後半・経営者の生き方の問い直し 自分らしい事業経営」についてお聞かせいただきたいと思います。
伊藤様は、実は今回のインタビュー前に「いいタイミングだと感じた」とおっしゃってくださいました。どんな点でそう思われたんでしょうか?
伊藤:私は現在、56歳です。結婚以来、家内と一緒に会社を経営してきました。家内を除いてスタッフが数名程度の小さな会社です。
昨年、私が55歳、家内が52歳のときに「今後、会社をどういう方向でやっていくのか」を二人で考えました。いわば、会社の終活のようなものです。
私は会社の三代目です。
これまでいろいろなことがありましたので、会社を次の代に継承することが100%良い選択とは思えなくて……。子どもはいますが一人娘なんですよ。継いでもらうのはいい面もあるんですが、一方で大変なものを娘に背負わすような気もします。
そこで妻と「この先の人生をどんなふうに生きたい?」と、いろんな話をした一年間だったんです。
中川:そうだったのですね。奥様とはどんなお話になったのでしょうか。
伊藤:はい、結論は「10年間は今のまま、しっかりと不動産屋として収益を上げることを目標にやり切ろう」ということになりました。
10年後に再度考え直すつもりですが、そのときには「私たちが望む生活を実現しよう。たとえば田舎暮らしをするなど、もっとプライベートな生活を大切にしたい。そのためにこの先10年を頑張ろう」という話をしていたんですよ。
そんなタイミングで、今回のインタビューの機会をいただいたんです。
中川:なるほど、そうだったのですね、ありがとうございます。
55歳という節目に今後の10年の方向性を考えはじめたのは、何かちょくせつ的なきっかけがあったのでしょうか?
5. 10年先を考えはじめたきっかけは、健康面・ワークライフバランス・コロナ禍
伊藤:きっかけは、一つじゃないですね。いろんな伏線がありますね。
健康面では、大きな病気はないものの体力の衰えを感じるようになってます。私はお酒が大好きなんですが、ほんの少量で酔っ払うようになりましたし、肩が上がらないとかもあります。独り言のようについ「あイタタタ」なんて言葉が出たり。夫婦でお互いに「おっさんおばさんになったね」という話をします(笑)
中川:つい、言葉に出てしまうのですね(笑)
伊藤:そうです。
そうした衰えのせいもあるのか、ゆっくりした時間に飢えている自分がいます。死ぬまでせわしないばかりなのは嫌だと。
ここ数年、特にコロナ禍以後ですが、YouTubeなどで人生や生き方について発信されている方の動画を見て影響されたのが大きいです。
中川: なるほど、コロナ禍は一度立ち止まって考える時間だったのですね。でも現在は、毎日が非常にお忙しいということですよね?
伊藤:忙しいです。おかげ様で。仕事が好きなので決して嫌じゃないんですよ。楽しくやってます。
が、その楽しくて忙しいことにちょっとずつ気持ちが負けてくるようになってきていて……。
中川: そうなんですね。「気持ちが負けてくる」とはどういうことでしょうか?
伊藤: 今までは「ここは行くべきだ、行けー!」みたいなタイミングで走れたのが、「ちょっと忙しいな、しんどいな」という気持ちになってきたんです。もう少し物事がゆっくり流れてくれるといいなと。
ちょっと恥ずかしいんですけど、そう思うようになってきています。
中川: そうなんですね。ありがとうございます。確かに物事が進むスピードがすごく速くてせわしない世の中ですものね。
先ほど「忙しいな。しんどいな、それはちょっと恥ずかしいな」とのお話がありましたが、この「恥ずかしい」というのはどんなお気持ちなんでしょうか。
6. 「忙しくてしんどいな」の背後の「恥ずかしい」気持ち
伊藤:単に「おっさんくさいな」ということです。
昔、そういうことを言っていた先輩方が実際にいましたが、当時の私は「忙しくっていいじゃないの」「しんどいなんて、年寄りみたいだな」と思ってたんです。でも今の自分は、当時の先輩と同じことを言っているなぁ、そんな感覚ですね。
中川:自分も年齢を重ねて当時の先輩の気持ちがわかるようになった、あの頃のご自分の発言がちょっと恥ずかしい、そんな感じなんですね。
伊藤:そうですね。
中川:率直なお気持ちをありがとうございます。
さて今のお話の関連なのですが、40代50代の経営者にお話をお伺いしていると、気力体力に変化を感じていても、伊藤社長のように率直にお気持ちを話される方は比較的少ないように感じます。そこには経営者のどのような心理があると思いますか?
7. 経営者はある意味「役者」、 ありたい姿を見せる「演出」も
伊藤: それは私、すごくわかるんですよ。経営者は、守るべきもの、背負うものが大きいのだと思います。
ある意味強がらないといけない立場にある。
そして経営者はある意味「役者」だと思うんです。
自分をプロデュースして、「こうありたい」という姿を人に見せていく。
従業員やお客様、取引先にとって、経営者の姿は重要ですから、「演出」は必要だと思うんですよ。それは「嘘」じゃない。常に自分を高め、堕落しないように自分を鍛えたい。メンタルの面も。
それはすごくよくわかるんですよ。 私だってこういう話をふだんからしている訳ではありませんが、「自分の気持ちにフタをしたくない」という気持ちがあります。私はもっと楽に生きたいのです。仕事のしかたも、お客様との関係性も、本当にありのままでいたいと思っています。
中川:ありがとうございます。
8.健康でいなくちゃ!決意の8kgダイエット
中川:先ほど「この先の10年」を考えるきっかけとして健康面についてのお話がありました。健康面と、生き方の問い直しのかかわりについて、もう少し詳しくお聞かせいただけますか。
伊藤: はい。この年齢になると、少し上の先輩や同級の友人が若くして亡くなる方がいるんです。そういうときに考えますね、健康でいなくちゃいけないなと。
食べ物もそうですし、住まい・家もそうですし、環境もそうですけど、「自然」が大事だと思います。価値観が変化したのを感じます。
中川: そうなんですね。具体的にはどういうことでしょうか。
伊藤: たとえば食べ物については、私は若い頃、本当に暴飲暴食でした。
しかし数年前、食事を見直す機会がありました。私は痛風持ちなんですが、医療保険に入ろうとしたときに引っかかってしまいまして。そこから食生活を変えました。
その頃の私は、自分の体型にうんざりしていて「なんで俺はこんなに太ったのかな?」と思っていました。今より8kgも太っていたんです。私は若い時分は体を動かす仕事をしていて体型がまったく違っていたので、それを思い返すと情けなくなって……。そう思ったら人間はスイッチが入るのか、食べ物の嗜好が努力なしに変わっていきました。
中川: 本当に嫌だ!というお気持ちでスイッチが入ったんですね。
伊藤: はい。まず、甘いものをあまり食べようと思わなくなりました。
食べる量自体も、無理していないのに「もうこの位でいいや」と思えたり。それでみるみる痩せていったんですよ。痩せるとやっぱり周りからも言われるんです、「痩せたね」って。
僕も男ですから、女性からそう言われると嬉しいわけです(笑)励みになってまた頑張る。もちろん家内が「こういうものを食べた方がいいよ、こういうの食べちゃダメだよ」と勉強してくれて支えてくれたのも大きいです。
中川: そうだったんですね。奥様のサポートもあり、自然と健康体になっていかれたのですね。
9.お客様の健康を守る健康な家の提供へ
伊藤: 家内が食のことを勉強してくれて、食品添加物や農薬、子どものアレルギーの原因についても詳しくなりました。
またその延長線上で、新築住宅に使われるホルムアルデヒドなどの化学物質や、新建材と呼ばれる工場生産の建材についても考えるようになりました。そういう自然由来じゃないものは便利なんです。ローコストでコスパがいいんですけど、本当に人間にとっていいものなのか? と考えるようになったんです。
中川: 不動産屋さんならではの視点ですね。そうしたお考えはお仕事にどう生かされたのでしょうか。
伊藤: はい。化学物質や新建材を極力使わない住宅を提供したいと思いました。いつも肌に触れるもの、口にするものって思う以上に大事ですよね。まさに「衣食住」です。
豊かに暮らすためには、まず健康であること。誰しもそう考えるはずです。 ですから大事な家を買っていただいたお客様や自社の社屋を持った社長さんには、健康でいてほしいと思うんです。
不動産屋は、お客様とは一時的にご縁があって手数料をいただいてありがとうございます、という商売ですけど、そのご家庭の大黒柱が大病したり、社長さんが脳梗塞で倒れたりなどいうことになったら、嫌じゃないですか。
中川: たしかにそうですね。
伊藤: そうです。だから不動産屋としていい物件を提供して、お客様が元気で健康でいてくださる。そして「家を買って、社宅を買って本当に良かったよ」と言われたら、本当に一気通貫というか、非常にいいものを提供したっていう思いがするんです。
中川: 全部がつながっているんですね。
10.真の豊かさの条件:心と体の健康
伊藤:はい、そうです。
弊社はずっと「お客様の人生を丸ごと丸抱え」という考えで、不動産屋という枠をはみ出してお客様のさまざまなご相談に乗ってきました。
そうした立場で今後10年を考えると、自分がやるべき仕事は、真の意味で豊かな暮らしを実現するサポートだと思うんです。
そのために不可欠なのが心身の健康。お客様が健康で幸せに暮らすために、商売として何ができるのかを考えたいのです。
中川: なるほど、真の豊かさの根本、心と体の健康を実現するということですね。具体的にはどんな取り組みをされているのでしょうか。
11.古民家の再生を通じて、「傷」への寛容な心持ちを
伊藤: はい、現在、古民家の再生に取り組んでいます。古民家を保全するNPO法人の理事もやっています。
中川:古民家の再生は、豊かさや心身の健康とどうつながるのですか。
伊藤:日本人の価値観では、新しいものやツルツルピカピカなものが好まれます。家も車も、新築新車のときが一番価値があるじゃないですか。そのあとはどんどん価値が下がります。
実際に新築物件のご案内をするときに目にするのですが、お客様は本当にくまなく見ます。一部の傷や汚れも見逃すまいと。
中川:たしかに、新築物件を購入するならそうなりがちだと思います。
伊藤:はい。大事な家、念願の家なので、わかるんです。わかるんですけれど。
でも、そういう価値観やものの見方が、「人に対する見方」にも影響しないか? と思うんです。
たとえば他者に対して、何か少しでも自分と違うところを見つけると、攻撃的になったり、「受け入れない」という態度をとったりしてしまうのではないか。
一方、世の中にふつうにある「傷」に対して寛容な心を持つことができれば、私たちはより幸せになれるように思うわけです。
古くてもっさい古民家を再生することで、そのようなものの見方を変えていきたいと考えているんです。
中川:なるほど。古民家の再生を通じて、より幸せなあり方を伝えていきたいのですね。
12.コミュニティは、自分にとっても家族にとっても大きな財産
伊藤: はいそうです。
あと具体的な取り組みのもう一つは、コミュニティづくりです。
街の日常の中にコミュニティを根付かせ、人と人のつながりを作ろうと、2016年に地元有志でまちづくりプロジェクトを立ち上げました。
その活動の一つがご当地カルタ(三ツ川カルタ)で、地元の図書館の郷土資料にもなっています。
中川:なるほど、以前から地域との関わりを大事にされているんですね。
伊藤:そうなんです。
ほかにも私は自称「地元飲食店の応援団長」でして。
時折、「一人ではお店に行きづらいから一緒に行ってほしい」と頼まれるんですよ。また、元スタッフや近所の方が「赤ちゃんが生まれた」とおいでくださることもあり、家内が目を細めながら赤ちゃんを抱っこしています。
中川:本当に地域に溶け込んでいらっしゃるんですね。
伊藤:はい。人口減少が進む中で、皆が暮らしたいと思えるマチを維持することはとても大事ですよね。地域、マチあっての不動産屋ですし。
それに僕は、健全なコミュニティは有事のセーフティネットだと思ってます。
夫婦でよく話をするんですよ、「絶対にどちらかが先に逝くよね、どちらか残っちゃうよね」と。また、年を取って自由が利かなくなったり、認知症になったりしたらどうするのか?
そんなとき、「どれだけ周りに友達がいて、安心できるコミュニティの中にいられるか」が大事だと思うんです。コミュニティは将来きっと助けになる。でも急にできるものじゃない、今から育てていく必要がある。
だから、子に残す財産はコミュニティじゃないかと思ってるんですよ。
中川: なるほど、コミュニティは財産なのですね。
13.事業継承後の体調不良
伊藤: そうです。
財産といえば、相続について私はだいぶ苦労しました。会社の相続も、会社を継いでからとても大変でした。
中川: 大変だったのですね。プラスばかりではなかったんですね。
伊藤: はい。僕は40代半ばまでは、会社を整える仕事が常に半分あって、前向きな仕事に全力でアクセルを踏めない、そういう時期が続いてました。45歳以降にようやくアクセルが踏めるようになったんです。その過程であまりにも大変な頃に、私はしばらく体調を崩してしまいました。
中川: おつらい時期があったんですね。
伊藤: そうでしたね。実は家内が全くそういうことに対して無遠慮な女なので、そんな時でもいわゆる病人扱いはしてくれませんでした。
中川: そうだったんですね。
伊藤: はい、もうスパルタでしたから。でもそれは結果的に良かったんです。
体調がついてこないという経験を通じて、自分をどうやって組み立て直すかということに考えが向いたんです。この経験は、きっとこの先、自分がやりたいことの一助となるために与えられたと思っています。
中川: なるほど。そうなんですね。 いつ頃からそう思えるようになったのでしょうか。
14.マイナスを払拭できるようになったのはここ2年
伊藤: どうですかね、ここ2年ぐらいじゃないですか。
マイナスのものを拭えたのは。
それまでは、何かしら自分を責めたり、環境を恨んだり、そんなふうでした。でも今はきれいにぬぐえた感じがしますよね。
中川: そうなんですね。なぜそれがここ2年で起きたと思いますか?
伊藤: これ、わからないんですよ。理由は一つじゃないでしょうね。この間、家内の親との死別がありました。寂しかったですよ。そして仕事のことやいろいろなことに整理がつけられた、踏ん切りがつけられたような感じですかね。
中川: なるほど。さまざまな経験が重なる中で、気持ちが切り替わったんですね。
伊藤: そうですね。
15.すべてにおいて自分が幸せを感じることに首を突っ込んでいる
中川: 少しお話が戻ります。先ほどコミュニティのお話がありました。コミュニティづくりには社会貢献的な意味合いもおありなのでしょうか。
伊藤:よく「伊藤さん、いろんなことやってますね、すごいですね」って褒めていただくのですが、私自身には社会貢献という意識はないのです。
実際に、地元の公園の夏祭り実行委員会・事務局長を務めたり、かつて町内会長を三期続けたり、現在は地元の要職に就いてほしいと打診されたりもしています。
でも実は私、全部自分のためにやってるんですね。
私は慈善家じゃないので、本当に好きでやってる。逆に嫌なことは全部断ってきました。
中川: あ、そうなんですね。
伊藤: はい、ただやりたいことをやってるだけです。
僕は「こうなった方が、自分が幸せだから」って思うことに首を突っ込んでやってるっていう感じです。
中川: そういうことなんですね。結果として、それを人は社会貢献と呼ぶかもしれないけれども。
伊藤: そうなんです。
社会貢献かどうかはどっちでもいいんですよ。褒められるためにやってる訳ではないので。
たまに親しい方から「伊藤さん、それちょっと言いすぎ、嫌われるよ」と指摘されることもありますが、 嫌ってもらって構わない。嫌われないように黙るんだったらやらないよ。全部自分のためにやってるんですから。
中川: 自分のためなんですね。 自分がいいと思うもののために動いていらっしゃるんですね。
伊藤: そう。わがままです、本当に。
そういう意味では利己的です。ただ、自分の利己が人を傷つけちゃけないと思ってますし、そのぐらいのまともさは持ってるので。
中川: ありがとうございます。 伊藤様のおっしゃる「利己」は、自分さえ良ければという利己ではありませんよね。そうではなくて、周りの人もひっくるめた幸せの実現が、伊藤様のおっしゃる「利己」なのかと。
伊藤: そうですね。
誤解を恐れずに言うと、人の幸せのために生きてる訳じゃありません。
人の幸せの前に、自分がハッピーでないと、と思います。
たとえば家族関係で置き換えたら、僕がハッピーな顔をしてなかったら目の前でご飯食べてるカミさん、ハッピーなわけないやん。仏頂面でご飯食べられたら絶対嫌だと思うんで。でもこれは今でもよく家内に叱られることでもありますが(笑)
中川: なるほどそうなんですね。それが「利己」なんですね。まず自分が幸せになるということですね。
16.しっかり収益が上がる事業と、自分の楽しみとの融合
伊藤:古民家の事業についても、僕が思う「こういう世の中になったら楽しいな」というものがあります。
中川: それはどんなものですか。
伊藤:インバウンドの外国人の方に日本をもっと理解してほしい、そして日本の子どもたちに、外国人に触れる機会をたくさん作ってあげたいなと思っています。
そこで古民家です。
インバウンドで日本を訪れる方は富裕層が多いので、彼らに満足してもらえるようなサービスを提供したい。今ある古民家を仕立て直して、地域住民と触れ合えるような提案をしたいんです。
また私自身の楽しみとしては、私がホストとして外国人ゲストを案内したい。一緒に赤提灯や銭湯に行ったり。そういう日常の中で日本を理解して体験できるサービスを提供したいんです。
中川: それは楽しそうですね。
伊藤:そうなんです。
でも、この事業はボランティアではありません。
どれだけお客様のお役に立てたかが売上に直結すると思います。
なので売上が最終的な評価基準です。
ちゃんと売上目標を立て、10年間で事業を成長させ稼いでいこうと。
その収益を持って、その後は好きなように生活を送りたいなと。
そして、家内と振り返ったときに、「私たち、よくやったよね、頑張ったよね」と互いにねぎらいたいですね。
中川: 楽しみながら事業としても成功させるのですね。
伊藤: はい。
また、日本のあちこちに田舎のボロ家でいいので安価なのをたくさん所有して、多拠点の暮らしをしたいなと。寒い時期は暖かいところで、暑い時期は涼しいところで暮らしたい。 そして外国人の方を家に招いて、ホストファミリーとして暮らすのもいい。そういう暮らしができたらハッピーだろうなぁ。
中川: そうなんですね。ご自分の楽しみと事業が一体化していますね。素敵なビジョンですね。
伊藤: ありがとうございます。
中川: ありがとうございます。そろそろお時間になりますが、最後に何かおっしゃりたいことはありますか?
伊藤:本当にやりたいこと、本当に望むのは何だろうってこの先ずっと考えると思うんです。自分が求めているものは何なんだろう? どうしたら本当に幸せを実感できるんだろう? このテーマはいつも脇に置きながら仕事をやろうと思います。この話は家内としたことはないけど、多分同じように考えているんじゃないかと思うんです。
中川: なるほど、そうなんですね。ありがとうございます。
伊藤様の場合、そうやってご自分を見つめたり考えを深めたりできるのは、奥様とずっとご一緒に仕事をされてきて、奥様という存在が大きいんでしょうね。
伊藤: 大きいですね。はい、本音は妻にだだ漏れてますから(笑)
中川: ありがとうございます。そしてごちそうさまでした(笑)
伊藤:こちらこそありがとうございました。
(了)
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