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小説:遊撃サバイバル5_悪戦苦闘

夏休みの宿題は7月中に済ませたいタイプだった楠田は休み明けにとっとと対応することにした。シブヤ管轄の知り合いはいるが、役職が上過ぎても、小さい情報は入ってこない。

「おはようございます。高瀬さん、いますか」

楠田は、どう聞いたものか、頭を悩ませながら、シブヤ管轄の知り合いに電話をかけた。

他区へ応援に行った際に知り合った。入署年次は近いが、同期といえば、同期だが、高瀬は一流大学の院卒。博士号。転勤がヤダ、という理由で、警視庁に入った変わり者だ。

「おお、くっすー久しぶり!元気?」

学歴の高さを鼻にかけない人の良さが、高瀬にはある。

「ご無沙汰してます。おかげさまでぼちぼちやってます・・・」

年次が近いとはいえ、同期とはいえ、年上、しかも、今では役職も上、当然、楠田は丁寧語で話す。

「相変わらず、くっすーは堅苦しいな」高瀬は声を立てずに笑う。

「なんかあった?」

「ええ、まあ、ちょっと・・・」

どう、聞いて良いものか、まだ悩む。

「まあ、いいや、久しぶりに夕飯でもどう?」

久しぶりにかけてきた電話が、久闊を叙するものでも、仕事の話でもないと、すぐ察するあたりが只者ではない。

店も適当に高瀬が決めてくれ、じゃ、今夜。と電話を切った。

まったく、有能な人間は、無駄がない。

「で、何があったの?」

適度に混みあった居酒屋で、喉を潤し、つまみを食んだところで、高瀬が口を開いた。

「何かあったように見えますか」

「いや、くっすー自身は変わっているように見えないけど、何かなきゃ、遠慮して連絡してこないからな、くっすーは」

「す、すいません」マメにコンタクトを取る如才のなさは楠田にはない。

「実は・・・・」

まだ事件ですらない、そもそも事件性があるかすら分からない上、又聞きなので、情報が少ない。

どうにもあいまいで聞きにくいのだが、と前置きをしつつ、楠田は知った限りの情報を出した。

「あしながおじさんを求める女子高生ねえ」

高瀬が焼酎を口にしながら、笑う。

「なかなか情緒的で、オヤジ心をくすぐるねえ。くっすーがあしながおじさんってこと?」

「いやいや、勘弁してくださいよ。知人の話です、知人の」

「まあそう、ムキにならんでも」

面白がっても、こちらの希望は的確に聞いてくれる。

おっさんにとって、女子高生は鬼門だからねえ。子供と大人の中間で。恐ろしいほどの計算高いのに、どこか無邪気で、だからこそ、残酷。

高瀬はなかなかに詩人だ。

「ちょっと聞いておくよ」

常習なら引っかかるでしょ。それ以上その話には突っ込まず、話は最近の同期の動向などに移った。

3日後に高瀬から連絡があった。

「女子高生っていうから、探すのに手間取ったよ」

高瀬は前置きもなく本題に直ぐ入る。

詳しくはメールしておいたから。言わずもがなだけど、手を出す余地がない。民事不介入の典型。

じゃ、また。とあっさり高瀬は電話を切った。忙しい中、メール送信連絡の電話をわざわざくれた高瀬に、楠田は頭が下がった。

「今度、お礼します」とだけいい、早速メールを開いた。

楠田は、添付ファイルを見て、頭を抱えた。

幸坂 真由里、26歳。

26歳! 

なにが、女子高生だ。マルちゃんより、上じゃないか。すげえな、女って。26歳の女が17歳の振りして男をだまくらかすのか。制服マジックなのか、化粧マジックなのか。

未成年時代にカツアゲで補導歴あり。昔カツアゲで今、あしながおじさんなら、更生した、と言ってもいいのだろうか。しかし、26で、なにやってんだ、コイツは。顔もそこそこで、歌もそこそこなら、そんな生活しなくても、いくらでも生きていく方法があるだろうに。

とりあえず、マルちゃんが手を出したとしても、合意の上なら、犯罪にはならない。その点に関しては、ほっ。

しかしなあ。マルちゃんがいくら貢がされたとしても、それも、犯罪にはならない。

別に脅迫されたわけでもなんでもない。マルちゃんが望んで金を出しているんだ。

返してくれと言っても、相手には返す義務はない。

民法第550条

書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りではない。

つまり、「家、買ってあげるよ!」と口約束しておいて、「やっぱりやめた~」と撤回することはできるけど、「履行の終わった部分」、「あげちゃったもの」に関しては、それには該当しない、ってヤツだ。

そもそも、警察の扱う話ですらない。警察が扱うのはあくまでも「刑法」。「民法」の分野になると、弁護士紹介しますよ、くらいしか言えない。

それもあくまでも相談に来られた場合、の話で、あげた本人が「返して欲しい」とも思っていないものを、他人が「返せ」と言うのはお門違いだ。

あえていうなら、将来性のある高校生だと聞いたから、投資したのであって、26歳だと知っていたら、投資しなかった、というくらいか。どちらにしても民事の話だ。

楠田はどうするか頭を抱えた。

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