小説:遊撃サバイバル2_招集命令
基本、朝5時半起床。楠田の1日は30分ランニングから始まる。宿直でない限りは、どんなに眠くても起きるようにしている。
寝起きはそんなに悪くない方だ。しかし、仮眠を取る暇がないほど忙しい宿直明けで、そのまま超過勤務、ようやく解放されたのが夜9時。運悪く先輩に捕まり、そのまま飲みに連れて行かれ、寝たのが2時。その上で朝4時に電話でたたき起こされると、話は違う。
ものすごく不機嫌そうな声で取ったのに、まったく気にせず、あっかるい声がする。
「くっすー、おはよう~。オレオレ~」
おのれはオレオレ詐欺師か。激しく殺意を覚えるが、楠田はぐっと堪えた。こいつにはこういうところで怒っても無駄だ、と知る程度には付き合いが長い。
福田は大きなガタイに似合わず、細やかな神経をしている。気配り目配りも抜群で、一般企業に入っても結構優秀なサラリーマンになったのではなかろうかと思わせる。
・・・親しくならなければ。
親しき仲にも礼儀あり、という言葉をこいつは知らないんじゃないか、と思えるほど、楠田に対しては、傍若無人だ。
致し方なく、福田から会のリーダーを引き継いで2ヶ月。福田は思った以上にマメな男で、会員ひとりひとりのプロフィールから性格、愛用銃器などが一覧になってメールでやってきた。
過去に生じた問題点、解決方法、今後の課題。よくもよくもここまで緻密に分析するものだと感心しきりだ。
考えてみれば、場所手配も日程調整も、会計報告も全て福田1人でやっていたのだ。
こいつ、会社経営者としてもやっていけるんじゃないかとすら思わせる。
結構すごいやつだったんだな、と思ってしまうのが、悔しい。
くそ、こんなヤツに負けるか。
兎にも角にも、マメな福田のおかげで、とりあえず、2ヶ月は大過なく過ぎた。そしてマメにメールと電話でやり取りした結果、この2ヶ月で急速に親しくなったのだ。
どうせ急速に親しくなるなら、女の子がいい。楠田は眉間と鼻に皺を寄せながら思った。
できれば、かわいい子。
この2ヶ月のメール受信の7割がサバゲ仲間なんて、哀しすぎる。2割は仕事だ。
くっすー、聞いてる!?
朝の4時に電話してきて、こちらも同じテンションで応えると思っているところが、こいつのすごいところだ。
来月の初めに研修で東京へ行くので飲もうという誘いを、なぜ、朝の4時にする。
楠田はまだぼんやりする頭で、適当に相槌を打っておいた。
「くっすーひさしぶり~」語尾にハートがついていそうなあっかるい声でハチ公の前で男に抱きつかれるなんて、心からごめんこうむりたい。楠田だって鍛えてはいる。ほぼ毎日・・仕事の関係で「毎日」とは言えないが・・・最低5キロは走るし、休日は1人でもくもくとラックサックマーチをしたりもする。寝る前にはプロテイン摂取もする。でもやっぱり現役自衛官には敵わない。つうかそれでなくても、こいつは190センチ近い大男なのだ。
その上でマッチョな男に抱きつかれたら、引っぺがすのに全力だしても足りないくらいだ。
「やめろ。離せ。テメエ、ぶっ飛ばすぞ」つぶれそうになりながら、みぞおちに一発入れると福田はようやく離してくれた。
「なんだよ、つれないなあ、くっすー。もっと久闊を叙そうよ」にやにや笑いながらなので、福田は何がどこまで本気なのか、分かりにくい。結構本気でみぞおちに入れたのに、大して堪えてないらしい。このやろ。
「男同士で抱き合うなんて、勘弁してくれ。しかも渋谷のど真ん中で。つうか、なんだって、ハチ公前で待ち合わせなんだよ、まったく」
抱きつかれた衝撃で落ちた帽子を被りなおしながら福田は言った。
「だっておれ、ハチ公、一回も見たことなかったんだもん。すっげー心残りでさあ。せっかくだからこの機会にと」
「男同士でハチ公前待ち合わせなんて、しょっぱすぎるだろうよ。あと、『だもん』はよせ、『だもん』は」
「俺とくっすーの仲じゃんか」
誤解を招くような言い方はやめてくれ。どんな仲だっていうんだ。楠田は眉間に皺を寄せて福田を睨んだ。
「相変わらず、硬いなあ、くっすー」福田はうひゃひゃと楽しそうに笑った。
応援いただけたらとてもうれしいです!いただいたサポートはクリエイターとしての活動費にさせていただきます♪ がんばります!