『聴けずのワカバ』(キャリコン資格取得編)-15
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相談者よりたくさん話してしまうキャリコン(1)
イチジョウとワカバは駅のすぐ近くにあるビルの前に立っていた。古びた感じで少し薄暗いエレベーターもない旧式のマンションのようだ。昭和レトロといえば聞こえはいいが、女性が一人で来るには躊躇してしまうかもしれない。
「ここだ。奥の階段から上がるぞ」
「えー、ちょっと怖いなー。なんか探偵事務所ありそう」
「いいから早く来い」
急いで階段を駆け上がると3階にあるイチジョウの事務所に着いた。
「とりあえず入れ」
(おっ、中は結構キレイだなー。ちょっと意外)
扉を開けると奥にホワイトボードがあり、試験会場と同じように机と椅子が向かい合わせに設置されていた。
「なんか、試験の時、思い出すなー」
「そうだろう。練習の時から試験慣れしてもらう目的で同等の環境にしてある」
「へえー、いつも仲間内でやってる勉強だと大勢いてザワザワした中で雑然とした感じだったから、これなら集中できそう」
「そうか。今はほとんど使ってないけどな」
「それはもったいないなー。でも初めての人は来づらいかもね」
「もともと事務所ありきで勉強会の会場としても使ってたんだ。まあ、優先順位を元に戻しただけさ」
「そうかー。外観は怖かったけど、中は結構気に入ったよ」
「仕事ではほとんど外出してて、ここは普段使っていないから今日は特別だ」
「じゃあ一応、お礼いっとくかな。ありがとー。んで、これから何すんの?」
「(こいつは・・・)ロープレを一度見ておこうと思ってな」
「ロープレ?!」
「さすがにカフェじゃ難しいと思ったから、わざわざ移動してやったんだよ」
「気を使ってくれたんだ。いいとこあるじゃん。【わざわざ】はいらないけどね」
「(こいつは・・・・)まあ、慣れてきたらカフェだろうが、ファミレスだろうが、居酒屋だろうがどこでもやるけどな」
「でもなー、ロープレか。まだ心の準備が・・・」
「きっとそういうと思ったから、まずフルの15分じゃなくてショートバージョンの5分でやってみよう」
「5分か・・・それなら何とかできるかも」
「そうか。じゃあ時間を測るから早速やってみるか」
「ああ、緊張してきたな・・・」
「緊張してるのか。あまり考えずいつも通りやってくれ」
「考えずに・・・いつも通り・・・どうしよう」
「まあ、そう言っても考えちまうだろうから、考えてもいいぞ」
「ええと、考えてもいいのか・・・どうしよう」
「あっ、悪ぃ悪ぃ、ちょっといろいろ言い過ぎたな」
「うん、ロープレ久しぶりだし。今までもあんまり上手くいったことないから・・・」
「そうか、上手くいったことないと思ってるのか・・・ムリはしなくていいぞ。今日はやめとくか?」
「いや、せっかくの機会だからやるよ!こんな良い環境でロープレできることもないだろうし、5分なら何とかなるかもしれない」
「そんなに気負わなくてもいいから、まずは気軽にやってみよう。まあ、ダメだと思ったら途中で止めてもいいからよ」
「そうだね、とりあえずやってみよう。それにムリだと思ったら止めていいなら安心だよ」
「あと相談者役の【話す分量】は応答しやすいレベル7~8にしといてやるよ」
「よし!気合い入ってきた。相談者カモン!」
「(こいつは・・・)でもいい感じだな。相談者の名前は【イチジョウ】でいい。相談者の情報は俺がアドリブで進める。では始めるぞ」
「はい、お願いします!」
そういうとイチジョウはストップウォッチを押下した。これから5分間のカウントダウンが始まる。そしてワカバが応答した。
「イチジョウさん、本日はどのようなご相談でしょうか?」
次回の更新は9/5予定です
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