『聴けずのワカバ』(キャリコン資格取得編)-10
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面談の進め方~「けラ自」って何?
「ではこれから面接試験での面談の進め方を話してくぞ。まずはこの図を見ろ」
そういうとイチジョウは手帳に不思議な文字が羅列されている図を書き、ワカバに見せた。
「なんだこれ?」
「左側の縦に伸びてる矢印が【時間軸】だ。面談が0分から始まって、終了は仮に60分としておこうか。右側は面談の15分間で進めるべく手順だが、最初の【け】は何を示しているか分かるか?」
「け?って突然言われても・・・」
「面談が始まってからすぐやるだろ」
「ああ、挨拶か」
「違う」
「じゃあ、本日はどのようなご相談で・・・」
「違う!その後やるだろ」
「えー、なんだろう?【け】から始まる言葉なんて山程あるじゃん」
「キャリコンといえばと言ってもいいくらい代表的な言葉、いや技術か」
「け・け・け・けいちょ、傾聴だ!」
「そうだ。意外と出てこないもんだろ。あれだけ学校でも重要だと言われていたのに。普段から意識してない証拠だ」
「いたたたた・・・」
「相談者は何らかの話したいことを抱えてご来談いただいている。それを聴かずして話は進まない」
「最初から聞き流してしまってたら、相手も本音を話してくれないよね」
「そうだ。じゃあ、次の【ラ】は分かるか?」
「ラ・ラ・ラ・♪ラララ~さっぱり」
「ふざけてるんじゃねえよ。傾聴の先にあるものだろ」
「ラ・ラ・ラ・・・」
「次歌ったらたぶん手が出る」
「はいはい。ちゃんと考えますよー。ホントに信頼ないんだから・・・って【ラポール】じゃん!」
「そうだ。【ラポールの構築】だ。受験要項には書かれていないが、試験は【インテーク面談】のはずだからな。
「・・・インテークって何だっけ?」
「(こいつは)・・・初回面談ということだよ。お互い初めて会う面談。試験制度上、もし2回目以降の面談なら前回の面談記録がないとおかしい。それに2回目以降の継続面談はキャリコンの高い技術が問われる。まさか実務経験もない受験生がいるのにそこまで酷な設定でやるほど受験団体も無能じゃないだろう」
「最後にまた何か皮肉ったけど、それで何故ラポール?」
「インテーク面談である以上、相談者もキャリコンを本当に信頼できる人材か見極めながら話している。その信頼を獲得するために傾聴するわけだ」
「そう考えると傾聴って大事だね」
「今更だけどな。でも本来は信頼の獲得を目的にするより、相談者の話を必死になって聴いた結果、信頼してもらえるってのが理想なんだけどな。やってることは同じだけど、後者の方が相談者に寄り添ってる感じがしねえか」
「確かになー。獲得を目的にされちゃうと何かキャリコンが自分のためにやってるみたいだし」
「この辺はキャリコンも人間だから難しい。でも結果的に相談者のためになればいい。それで最後の【自】は何だと思う?」
「自か・・・自自自自・自から始まる言葉もたくさんあるなー」
「自は一つだけじゃない。いくつかある」
「えっ、そんな・・・ええと」
「自・自・自・自・自・自・自・自・自・自・・・・・」
「そんなタイマーみたいに言うのやめてよ!プレッシャーかけないで」
「あるだろ、自己・・・」
「あっ!【自己概念】!」
「はい正解。他には?」
「いや、今考える・・・うーん、自己・・・」
「自己りか・・・」
「ああ、【自己理解】ね。ヒントの出し方下手か」
「他にも【自己探索】、【自己認識】とかな。つまり相談者が【内省】するってことだよ。」
ワカバはこの時『それじゃあ【自】じゃなくて【内】じゃないの!』と思ったが、その言葉をそっと飲み込んだ。そしてイチジョウは気づかず話を続けた。
「面談の途中になって相談者が「うーん、そういえば昔に・・・」とか、考え込んで黙ってることがあるだろ。それが内省だ」
「こっちが変な質問しちゃって相談者がしゃべらない時もあるけどね」
「それは技術の問題だ。でもよく考えてみろ。相談者が内省するためには本音を話してくれることが条件になる」
「話してくれないと困る」
「実際困ってるのは相談者なんだけどな。本音を話せないと表面的な事柄ばかりの情報しかないから、堂々巡りになって話が進まない」
「私の時はいつもそんな感じだ」
「相談者のこのプロセスを理解したうえで面談に望まないと苦労するわけだ」
「なんか返す言葉がないよ・・・」
「まあ、そう落ち込むな。これから頑張りゃいいんだ。それではもう一度このプロセスを整理するぞ」
「(1)面談が始まったら相談者の話に集中して全力で傾聴【け】する。(2)その結果、相談者から信頼に足るキャリコンだと認識してもらい、ラポールを獲得する。(3)本音を話してもらうことで相談者が自己理解、自己探索他するように内省を促す。おそらくこのあたりで15分だろう」
「そうか、そう考えるとクロージングなんて絶対ムリじゃん」
「実務でも難しいことを試験でやらせるわけがない。あと時間軸で考えても仮に60分程度の面談なら冒頭の15分なんて全体の4分の1に過ぎないんだから、成果をあれもこれも出すなんてまず出来っこない」
「都市伝説怖っ!」
「それに試験当日は【複数ある相談者の設定x役を演じる人】の数十パターンの中からランダムにあたるんだから、当然話が全然進まない場合もある」
「私もすごい意地悪な人にあたった」
「そうか・・・残念だったな。前にも言ったように面接試験における不確定要素の多い理由がここにある。もっと言うならさっきの掛け算に加えて【試験官のタイプ】も増えるからな」
「そういえば私、試験官も感じ悪かったよ」
「・・・目も当てられないな。未だに公平・公正さを謳いながら試験のレベルが一定に保たれてないんだから受験生は可愛そうだよ」
「そうだよね・・・(あれっ、また息を吐くように皮肉ったけど、このせいで私もいつか何かに巻き込まれちゃうんじゃないかしら・・・)」
ワカバはそんな不安を抱えながらまた言葉を飲み込んだ。
次回の更新は8/31予定です
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