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外国語をネイティブのように話せたらかっこいいけれど、ネイティブのように話せないことがかっこ悪いなどと言われる筋合いはない。

“不完全な英語”

数日前の話。
私は10歳ほど年下の友人Tとテキストメッセージでやり取りしていました。
彼は私が大の酒好きにして大の鳥好きであることを知っており、近くの動物園で行われる、園内でワインやバーボンを飲めるというよく分からない企画を教えてくれました。

なんだよその面白い企画は、と思った私は、"I will check it"とグラスに入った酒の絵文字を添えて返信。

すると彼が、"そこは Check it out だよ。キミもキミの妻も、いつも不完全な英語を使うね"と返答してきました。

……何?

いつも不完全だと?
その上、キミの妻もだァ?
言ってくれるじゃあねえか、小僧。

この瞬間、彼は見事に私の逆鱗に触れたのです。それも二つ同時に。
揶揄とは言え、彼としてはあくまで我々を軽くからかったに過ぎず、それは親しみの裏返しであることは理解できました。
頭ではね。

さて、余談ではありますが、私より数ヶ月遅れて米国にやってきた妻は、その時点では英語はまったくダメでした。文法知識は中学一年生レベルでストップ、英語を聞いていると眠くなると言ったり、形容詞と副詞の違いが分からないと言って苛立ったり、"th"の発音中に舌が口から2回出ることがあるなどよく分からないことを言ったりしていました。言語という、例外だらけで得体の知れないものに、恨みさえ抱いていたのです。

それから3年半が過ぎた頃。
妻がとうとう、TOEICスコアで私を抜きました。私がようやく860点を取った時、妻は900点を取ってしまったのです。
彼女は英語に対し憎悪の炎を燃やしつつも、相当に努力してきました。
今では多くの友人たちに囲まれて、持ち前の人間力を発揮しています。

そこへ来て、Tによる揶揄です。

今お前が彼女と普通に会話できてるのが、彼女が重ねてきた努力の証であることを理解しているか?
お前は我々に“英語を教えてあげてる”つもりかもしれないが、所詮は母国語で母国語を説明してるだけなんだぜ!?
俺らはお前に合わせて英語でコミュニケーションを取り、お前の英文を読んで理解してるんだからな!!!
こちらが日本語を教える時だって、お前が分かるように全部英語で説明してんだからな!!!!

ところでTは、大学で日本語を学んでいます。ついこの前も、会話のテストがあるからと言って妻に助けを求めていました。
彼の日本語能力は未だに講義で習っているレベルであり、日常会話など到底不可能です。

そのキミが、我々の英語力をからかうのかね?
"I will check it" は文法的には何一つ間違っていないのに、不完全などと言ってのけるのかね?

心の中は、もはやカーディナルを通り越してマジシャンズ・レッドでした。

マジシャンズレッド。ジョジョの奇妙な冒険第三部 モハメド・アヴドゥルのスタンドです。

しかしクロス・ファイヤー・ハリケーンを放つような真似はしません。

I know well that most native speakers can say "It's wrong/It's not perfect", but no-one has given us any perfect explanations why it's imperfect.
Maybe no-one can understand a language perfectly, even if it's their own one.
“不完全とか間違ってるとかネイティブスピーカーは簡単に言うけど、何が不完全で何が間違ってるのか、完璧に説明してくれる人って誰もいないんだよね。母国語でも、実は完璧に理解している人って誰もいないんじゃないかな(汗かいて笑ってる人の絵文字)”

くらいに留めておきました。

Check it と Check it out の違い

とは言えもちろん、ネイティブの言語感覚を教えてもらえるのは助かるし、喜ばしいことです。

彼は、Check it と Check it out の違いを例文を使って説明してくれました。一言でまとめるなら、以下のような感覚です。

Check it out: 見てみる
Check it: しっかり確認する

A: Hey, the internet doesn't work. I guess the router is down.
(インターネットが止まってる。ルータが落ちてるのかな)
B: OK, I will check it. (この場合、Check it outでも可)

"Check it" が調べてみるという感覚に対し、"Check it out" は ちょっと見てみるというニュアンスになるようです。

あるいは、例えば話題の本をオススメされたからちょっと検索してみるという場合、"Check it"ではなく"Check it out"が使われるし、銀行の口座情報など重要なものを確認する場合、"Check it out"とは言わず"Check it"となるそうです。

他にも、動物園の話を聞いたからネットで調べてみる、というような場合には"Check out the zoo"、動物園に行きたいから自分のスケジュールを確認する、というような場合には"Check my schedule"となるそうです。

彼が挙げてきた具体例がかなり分かりやすかったのが、むしろ余計に腹立たしい。マジシャンズレッドもカーディナルに戻ってしまいました。

カーディナル。この写真では冠羽が降りていて、特に気持ちが昂ってはいないようです。

そもそも彼は、私が楽しめるだろうと思って有益な情報(動物園で酒)を提供してくれたわけで、クロス・ファイヤー・ハリケーンなんか間違ったって撃てやしなかったんですけどね。

ネイティブの発音に近づけられたらかっこいいけれども

英語系インフルエンサーの人たちが、“こんな言い方はネイティブに嫌われる”とか“そういう言い方、ネイティブはしません”とか、その手の発信をしているのをたまに目にします。

いや、うん。まあそうなのかもしれないですね。
日本語にだってそういうのはいくらでもありますからね。

でもさあ、そもそも第二言語学習者の我々が、第一言語話者と渡り合おうとしてる時点で、それって結構凄いことじゃねえの?

日本語を第二言語として頑張っている人に、“そんな言い方は日本語ネイティブに嫌われるよ”などと言う人がいたら、私なら放ちますけどね。

何をって、クロス・ファイヤー・ハリケーン・スペシャルですよ。

いや、かわせない。

ネイティブの会話レベルに近づきたいとか、今の発音は惨めだからもっと良くしたいとか、それは学習者本人が自分に向けて発するための言葉であって、ネイティブの感覚と違うからダメだとか、その言い方はかっこ悪いとか、外野からしたり顔で言われる筋合いなんかねえよって思いませんか?

いやいやそうは言ったってネイティブに近づこうとする以上、そういう指摘はあったほうがありがたいし、むしろ欲しいくらいではあるのですが。

は?何それ矛盾じゃん、と言われれば、そうです、と答えるでしょう。
ネイティブの友人から英語を直接教えてもらえる恵まれた立場で、あれこれ贅沢言い過ぎでは?と問われれば、ちげえねえ、と返すでしょう。

お察しの通りこんなもの、結局は感情論に過ぎません。
しかし感情なくしてモチベーションなし。
感情論を侮ってはいけません。

とりあえず、日本に帰国する前に妻のTOEICスコアを超えるのが喫緊の課題です。妻には負けたくない。いや、いくら語彙力や会話力では私の方がまだ勝ってるなどと言ってみたところで、数字は既に私の敗北を示しているのですが、それを認めたくないのです。彼女は生涯のライバルなのでね。

そして見ておくがよい、Tよ。お前が真っ青になるようなかっこいい発音と語彙力を、必ずや手に入れてやるからな。

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