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[トヨタ86]まだまだシーンを熱くする存在・86の"楽しさ"とは何なのだろう?

発表&発売も間近になってきたトヨタ・GR86。全スポーツカー好きが注目しているであろう新型車だが。今なお高い人気を誇る初代=トヨタ・86も、まだまだ目が離せない存在である。

温故知新の如く「新しき」を深く知る為には、先代を理解しておく必要がある。

そんなインプレッションを兼ねて、GRガレージ宇都宮さんが用意してくれた、貴重な新車コンディションの86に試乗出来る機会を得た。

新車の86に乗れるのは、筆者としては最初で最後になるだろう。その喜びを噛みしめながら、試乗感想をお届けする。

協力店・GR Garage 宇都宮 つくるま工房
https://www.corolla-tochigi.co.jp/file/special/33201/386/gr_garage_utsunomiya_tsukurumakobo/


◾️「誰でも乗れるスポーツカー」というキャンパス

2012年に発売開始となり、瞬く間に21世紀初頭を代表する国産スポーツカーとなったトヨタ・86(兄弟車はスバル・BRZ)。コンセプトの元にもなった往年の名車「AE86(正式車名:カローラレビン・スプリンタートレノ)」の型式番号を車名に冠し、トヨタとしても、実に5年ぶりのスポーツカー復活であった。

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86(写真:上)とAE86(写真:下)

そのプロポーションは、現代のハイスペック化が進むスポーツカー市場の流れに大きく逆行していた。大径タイヤを収めるためのワイドフェンダーが備わるわけでもなく。高いダウンフォースを得るためのリアウイングがついているわけでもない(かろうじてリアスポイラーはついている)。

流麗なクーペフォルムをそのままに、ごくシンプルなエクステリアデザインで世の中に登場した。

これも後述する車両スペックと同様に、「自分だけの1台を楽しみながら育てる」というコンセプトに沿った結果だ。この車がプレミアムスポーツカーでは無く、ユーザーに寄り添ったスポーツカーである事を現している。メーカー側はユーザー側に"誰でも乗れるスポーツカー"というキャンパスを提供したのだ。

オリジナル状態でそのまま乗るにも十分楽しめる。さらには、各種アフターパーツでユーザーの個性を足していく楽しみも用意されている。車好きを楽しませる懐の深さを有した車だった。

◾️こだわりが詰まったFRスポーツ

今回試乗したのは、後期型モデルの最上位グレード・GT “Limited BLACKpackage”だ。

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外観の随所にブラックアクセントが追加されていて、最大のトピックはブレンボ製ブレーキが標準装備となり、走りの面でも磨きをかけている事だ。

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ブレンボ製ブレーキ&専用ホイール

さらに試乗車にはTRD製のエアロキットが装着されている事により、車体デザインを活かしながらレーシングイメージが違和感なく追加されている。メーカー直系のワークスだからこその、流石の造形美。且つレースからのフィードバックを受けた空力特性の向上もお墨付きな事だろう。

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「超低重心FRパッケージ」と銘打たれたプラットフォームを持ち、全長4240mm×全幅1775mm全高1285mm(アンテナ除く)というロー&ロング&コンパクトな外観。そして約1300kgの軽さも相まって実現される460mmという重心高は、名だたるスーパースポーツモデルにも匹敵するポテンシャルを兼ね備えている。

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また、内装面でもキープコンセプトが垣間見える。無駄を取り除いたシンプルな構成ながら、簡素さは感じない。適材適所、必要なところに必要な物が配置されている。

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試乗車はタン×ブラックの内装だった

乗り込むと、その低床さに驚く人も居るのではないか? それもそのはず、現在までのトヨタ車の中で最も低いヒップポイント(400mm:2021年10月現在)を達成しているのだ!

センターに86ロゴを冠した純正ハンドルも、明らかに小ささを感じる。これも走りを意識したアンサーだ。操作性向上を狙ったハンドル径を探り、テストドライバーと確認を重ねて導き出した最適解=362mmという。こちらも2019年2月時点ではトヨタ車最小径のハンドルだった。

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◾️ドライビングを楽しむためのクルマ

今回は、街中がメインとなる試乗コースを走行した。

先に感想を述べると、日々の常用域においても走りの楽しさを実感できるドライバビリティの高さ&「スポーツカーを運転している」高揚感を味わえるクルマだった。

それを感じさせる理由としては、車が有している運動性能の高さと、扱いやすいスペック特性のエンジンが考えられる。

この86に乗ってコーナーリングすると、いかに低重心と軽さが車の運動性能に影響するかを実感できる。フラット感を損なわず地面を這う様に、車体が軽やかに向きを変えてくれる。

またダイレクトながらクイックへの応答性も良いハンドリングも相まり、ライントレース性能も高い。決して速くないスピードであっても、連続コーナーを走り抜けた時に爽快感を感じられるのは、いかにも"走りの楽しいクルマ"である証拠だろう。

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横のミニバンと比べると低さが際立つ

86に搭載されているエンジン・FA20はスバルとの共同開発による代物。その中身はノンターボで最高出力207PS・最大トルク212N・mという、ごく一般的なスペックだった。しかし、あえてハイパワー化しないからこそ得られる楽しさもある。リニアな特性のノンターボは、アクセルレスポンスもとても良く右足の操作に瞬時に反応してスムーズな加速を見せる。

ハイパワー車と違い、ドライバーの手中に収まる範囲のエンジン出力だからこそ、車とのシンクロを実感しやすいのだろう。

とはいえ、筆者が唯一の不満を感じてしまったのも、このエンジンだった。

加速自体はスムーズで不快感は無かったものの、やはり低回転域でのトルク不足は感じた。吸気音を室内に送り込む"サウンドクリエータ"の効果も合わさってなのか、リニアな加速感と同時に"どこか余裕の無い、振り絞ってる感"を覚えてしまったのも事実。

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トヨタ開発の直噴技術「D-4S」とスバルの特有の水平対向技術を掛け合わせ完成したFA20

余談だが、次期型であるGR86の搭載エンジンが2.4リッター化&低回転トルクの向上が図られた点を考えると、課題点ではあったのかもしれない。

◾️あえて"伸びしろ"を残す=ドライバーに愛される1台へ

冒頭でも軽く触れたが、現代におけるスポーツカーは、年々ハイスペック化が進んでいる。

「パワーは何馬力?」「ニュルでのタイムは?」

その他諸々のスペックアピール合戦が続き、さらに自ずと価格も上がっている。

国産・外車問わず"スポーツカー=プレミアムカー"という立ち位置になってしまった。

そんな中、時代に逆行したロースペック&求めやすいプライスで登場した86がここまで支持を得たのは、ユーザーから離れていく一方だったスポーツカーをグッと身近に感じられる存在だったからだ。

速く走るための車より、ドライビングを楽しむためのクルマを求めるユーザーが、時代が変わろうと世界中に多数いる事を、改めて証明した結果とも言えよう。

そしてメーカーがあえて"伸びしろ"を残している事が、この車がさらに愛される所以だろう。

前述の通り、ハイスペック化・プレミアム化が進んでいるスポーツカーは、車としての完成度もかなり高い(そりゃ勿論だ)。

その性能やデザインに憧れる&実際に所有した時の喜びは格別なのだろうが。同時に、ユーザーが手を入れる隙が無さ過ぎて、中々個性を出しにくくなったとも思う。

では、いざ86はどうか?

エンジン含むパワートレーン系、外観・内装、足回り。全ての面に対してユーザー好みに仕上げるための余白があり。それを埋めるための豊富なアフターパーツが、各パーツメーカー・ショップからリリースされている。

「自分で運転して、クルマを育てていく」

ただのマイカーから相棒と呼べる愛車へと変わる要素が、多数散りばめられているのだ。

ユーザーのみならず、チューニング&カスタム業界に新しい活気を与えたという点も、86&BRZの大きな功績だ。

そして今後は、中古車市場を賑わしていく存在になる事だろう。メーカー自身も語っているシナリオそのままに。この先長い時間をかけて86に触れていくドライバーは、もっと増えていくはずだ。

トヨタ・86が紡ぐストーリーは、まだまだ序章なのかもしれない。

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頭文字Dの続編となる「MFゴースト」では、主人公がトヨタ86で格上スポーツカーに挑む、藤原拓海&ハチロクを彷彿とさせる熱いストーリーが展開されている。この先、MFゴーストを見て「86に乗りたいっ!」と思うユーザーも出てくるのだろう。










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