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最高の「結び屋」を目指して

私の仕事は、結び屋である。
おむすび屋さんではない。
人と人とを結ぶのが、日々のメインの業務である。

結ぶ仕事と言っても、世の中には幾つかジャンルがある。一般的に、初めにぱっと思い浮かぶのは、結婚を前提にした男女の縁結びあたりだろうか。人と人とではなく、人と仕事とを結ぶとなると、派遣会社になるのかもしれない。

私が結ぶのは、教える人と学ぶ人。
勤務先は、家庭教師の派遣会社である。

教える人として登録しているのは、現役大学生を筆頭に、日に2〜3コマ✕週に5〜6日(時には7日)の生徒を受け持つ社会人のプロ家庭教師、フリーの塾講師、学校を定年退職したベテランの元教師など。
一方で学ぶ人として問い合わせや申し込みをされるのは、志望校受験を目指す小中学生または高校生、あるいは日々の授業の予習復習を希望する小中学生や、時には公務員志望の高校生など。

そしてそれぞれに、相手に望むことは様々である。
教える側なら「片道30分程度まで」「地下鉄沿線のみ」「○区のみ」「小学生のみ」「中学生以上のみ」「英語のみ」などなど。
学ぶ側なら「現役大学生のみ」「○大生のみ」「経験豊富な社会人のみ」「男性のみ」「女性のみ」「スポーツマンのみ」「○曜日のみ」「土日のみ」などなど。

学ぶ側からの申し込み直後から、早速ベストなマッチング探しがスタートする。提示された希望条件が複数に亘ると、通える範囲内に全てを満たす登録者が見つからない場合もある。また、仮に条件ぴったりの教師を見つけたとしても、必ずしもすぐに決まるとは限らない。

「すみません。○曜日は他社紹介の家庭教師の仕事が入ってしまって」
「後期の大学の授業が出たら○曜日はダメになって」
「その場所だと微妙に行きにくそうで」
「数学メインはちょっと…」
「受験生はちょっと…」
「他のバイトを始めてしまって」

言ってみればここからが、まさに自分達の本当の出番である。
そのご家庭までの意外にも通いやすい交通経路を示したり、生徒さんは真面目でやる気がある、ご両親が優しくて協力的など、この案件のアピールポイントをさり気なく強調しつつ、「△曜日だったら出来るとか、何か指導可能な条件はありませんか」と聞いてみる。そして「そうですね、□曜日なら」と引き出せたなら、今度はご家庭へ「こちらとしてはお勧め出来る教師がいるのですが、ご希望の○曜日でなく□曜日であれば担当させて頂けるのですが」と提案する。

この時に大切なのは、本当に‘お勧め出来る教師’であること。だから私の勤務先では、案件紹介に関しては未だに一斉メールではなく、1人1人に電話をかけて、‘声を聴く’ことを基本にしている。
「出来ますよ」と応えるものの、その後のやり取りから「飽きたら辞めればいい」程度に考えていると感じる声があるかと思えば、「ちょっと難しいので」と断りつつも、何かすごく迷っているような声もある。
だから、声を聴きたい。話したい。

少しくらい効率が悪くても、選び抜き考え抜いて紹介し、やがて指導開始から数か月経った頃、ご家庭から「本当に良い先生にきてもらえてラッキーだったねって話してるんですよ」なんて言われるご褒美が、度々待っているからやめられない。

成果が、必ずしも数字になって表れる仕事ではない。
だけど、それなりにちょっとの誇りと、しっかりめのやり甲斐がある。

だから、これからも変わらず愚直に。
最強で最高の結び屋を目指したい。

もしもサポートして頂けたなら、いつもより少し上質な粉を買い、いつもより少し上質で美味しいお菓子を焼いて、ここでご披露したいです🍰