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真夏のくるみ割り人形、その前に

コンサート(C)マスターと指揮者のアームタッチ(?)でそれは始まった。あの、握手の代わりに腕と腕をタッチするやつね。

オフ会パねぇっつったら何のことやら?だろう。言うまでもなくデジタル、オンライン体験が増えてる中で、リアルな空間の体験に震えた。そういう事から物語は始まる。

敬愛するピョートル・茶井戸麩好きぃの5つ目の手紙。運命が押し寄せる。バイオリニスト達の弓と繋がったarmの動き、力強い音色に反して柔らかく空間を切り取る。それはシフォンケーキ?ううん、さざ波?

75度時計周りに進んだ先は、大型弦楽器のゆったりとした波。再び視線を戻すと、hummingbirdのように小刻みに忙しく揺れるarms複数形。

Cマスター、身体も揺れる。あたしも揺れる。シンバルの音が少しでも長く空気を波乗りできるようにか、演奏者によって鈍い光が上下左右にゆっくりとゆらめく。あたしも揺れる。うなづく。

それは一つの箱に集約された音が再拡散されるのとは明らかに違う。取り巻く全ての空気に乗ってく音色ちゃんたち。病原菌も乗せちゃう空気けどさ、あたし達が欲しかったのはこっちだよ。

高らかに宣言されるVictory
キンカンキンカン(虫刺されじゃねーぞ)
あたし達は今この一瞬勝った
恐怖に、不安に、悲観的未来予測に

(韻とかなんも踏んでねぇな)

そんな事はどうでもいい。

人々は心の中で口々に叫んだ。
(マスク越しでも叫べない昨今だからこそ余計声高に。)

我々を、波乗り音符で満たしておくれ!
小さな…小さな空間でいい、そう、泡のように一瞬でもいいから、その中で、存分に音符の海を泳がせてほしいんだ。なんなら漬けてくれ。

かくして会場に、その屋外にまでも、いくつもいくつも小さなバブルができた。ピンクの薄い膜。想像の中で赤ちゃんが包まれてそうなイラストチックなピンクの泡。そのそれぞれの中にオーケストラがいる。奏でる、浮き上がる、ゆらゆら。

いつの間にか街は泡だらけだ。バブル再来。タクシー止めるのにも丸太を投げ落とさんと。いやいや泡はすぐさま消えた。大きな大きな音を立てて。

あっちでパーン!こっちでパーン!
パーン!パーン!パパパパパーン!
こどもの鼻の中に入ってパーン!(だからマスクは常にしろといったろが。)
耳からでてきてパーン!
ご婦人、いや、紳士も、身体中の穴という穴から、オーケストラの残滓が垂れ流される。

かくして後世の人々は、この出来事を真夏の狂想曲事件と呼んだ。もちろん教科書に載った。生物じゃなくて、公民な。

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