きっと私は不器用なままで生涯を終える
いつまで経ってもゆで卵の殻を剥くのが苦手だ。それは魚の身をほぐすこと、蟹を解体して身を取り出すこと、りんごや桃の皮を剥くこと、プリントをまっすぐ半分に折ること、はさみや包丁で等分すること、色んなことに置き換わる。ことさらに不器用な子供だった私はそのまま大人になってしまった。そもそも己の身幅をいまいち理解していないから普通に歩いているのにあちらこちらにぶつかる、物をなぎ倒す、落として壊す。不器用なのがわかっているのだから慎重に動けばいいのにがさつなのだから手に負えない。
食べ物をきれいに食べれないのはしょんぼりしてしまう。くいしんぼだから。全部残さずきれいに食べたい。さんまと目があったりするとなおさら、卵の白味がぼろぼろになるたびにひよこの羽をうっかりむしってしまった気持ちになったりする。もともとひよこはいないのに。
好きだから毎年りんごを買う。力が入りすぎて、刃があらぬ角度で食い込んでしまったりうっすら掌の熱が移ってしまったりんごは正直美味しさが欠けてしまったように感じる。自分の体の使い方が下手くそだ。思っているのと手とか足とかまるで別物だ。これは実は私の腕じゃなくて回路の切れた機械の腕かと思うくらい明後日の方向に動いたりする。なんで?と言いながら斜めに紙が切れていくのを軌道修正することもできずに見つめているだけ。ああーーーと嘆きながら欠ける果肉にごめんよと言うだけ。剥いた皮からこそいで食べたりもするけど。
中学生の頃まで家庭科の授業があった。高校生もあったかな?座学はあったような気もする。中学の家庭科の先生が強烈であんまり覚えてない。一年生のとき隣のクラスの担任の先生だった。よく行事ごとがあるたびに警報が出るから登校できるかの段階で微妙になる私たちの学年を総じて「あんたたちは警報女なのよ!!」と命名したのはその人である。まあね、入学式の日も大雨暴風警報出た。真新しい制服もピカピカの革靴もぐちょぐちょ。球技大会とか文化祭とか、修学旅行はどうだったか、雨と曇りではあった気がする。
その先生に不器用すぎて怖いと言わしめたのはこの私で、ミシンの成績はEマイナスだった。そんなに低い評価って存在としてあるんだ。ミシンとりんごの皮剥きと玉子焼きの実技試験があったのと、2年生ではクロスステッチの時計を作ろうキットと3年生でレース編みでコースターを作ろうの回をやったのは覚えている。りんごはガッタガタで玉子焼きは真っ黒に焦げた。だって最初に見たその道の匠が教える美味しい玉子焼きの焼き方ビデオで強火にしろ、玉子焼き器から火がちょっとはみ出るくらいって言ったから。もたくさしているうちにジャリジャリの焦げ焦げになってしまった。3つ分の卵…いのち…ひよこ…無精卵だけど…。焦げをごっそり取り除いて中のかろうじて茶黄色のところを食べた。これで卵何個分なんだろうと思った。そこから毎年りんごの皮剥きとか玉子焼きを巻く練習とか1回はやっている。りんごは好きだから結構続けている。十年以上やっているけどあんまり、一向に上達しない。どうして。多分何かしらのやり方が悪い。
家庭科の成績は全部座学でカバーして5、中学の頃は十段階評価だったからまあいわゆる3。90点以上ペーパーで取っても実技がハチャのメチャだから。レース編みはなんかできたからその年はちょっとよかったかな?コースターしか編めない。
家庭科壊滅、ボタンもつけられん(なんとかつけられても裏見るとひどいし若干ずれている)。まっすぐ縫えない。ボビンはもう絡んで絡んでだめになる。ボビンって久しぶりに口にした。
そういう私が手芸屋さんでかわいいタグを買った。出先でたまたま見つけたリボン屋さん。かわいいタグ。そもそもタグを飾りとしてつける楽しみ方があるって知らなかった。へぇーー!!とめちゃくちゃ感心してしまった。家庭科壊滅不器用人間からはひっくり返して振ったってそんな発想は転がり出ては来ないから。すごいなぁ、そんなことができるんだ。そういうことができて、自分の好きとかかわいいとか素敵とかを形にして、それ自体を楽しむってそんな世界があるんだ。知らなかった。
ドイツの絵本作家さんが描いたというとてもかわいいタグは150円から高くても300円400円くらいで、まあもうかわいい。私が家庭科がそれなりで絶対に使いこなせますって人間だったら端から端まで買いたかった。迷って悩んで2個買った。ロバの小さい長方形のと、牛とアヒルが仲良くフレームに収まっている中くらいの大きさのと。ワンコインでお釣りが来る。
「2回すくってたまどめ、2回すくってたまどめでできますよ!!」
お店のお姉さんが教えてくれた。裁縫ののりでもつけられるって。ハンカチとかならできるかな…2回すくってたまどめ…2回すくってたまどめ…。でもぶっつけ本番は絶対に失敗する。私は私が不器用の底の底の人間でそれでもいっちょ前にできなかったって落ち込む人間なことを知っている。
練習用にハンカチと別のタグとついでにボタンつけとか練習しようかとかわいいボタンも買った。あとのり、裁縫ののり。これさえあれば最終なんとでもなる。100均のちっちゃい応急処置セットみたいな裁縫道具はかろうじて持っていたようだ。未開封だったしいつなぜ買ったのか思い出せない。ボタンとれちゃったのかな。開けてないってことは実家に持ち帰って母にお願いしたか諦めて処分した可能性ある。
とりあえずものは試しと練習用のものでやってみた。
で、できねぇーーーーーーーーー。もうびっくりするくらいできない。
たまどめができない。なんか作りたいところにたまが留まってくれなくて中途半端に遠いところでだまになっている。たまじゃない、だま。きったない。まっすぐ縫えない、えっ裏見るとどうなってんのこれ。足跡が悲惨。運針どうなって…???あとそもそもハンカチに縫うのが難しい。普通の布と違って、タオル地が縫い糸と絡んでぼろぼろになっていく。でもタオル地じゃないハンカチは信用できないから、汗かくし手も洗うしタオル地じゃないハンカチはハンカチじゃないから。
そして糸が白いと見えない、私どこ縫っているんだ。1回ほどいて再チャレンジしてみたがまるで変わらない出来栄え。あれかな、りんごみたいに十年やっても上達しないコースかな。りんごは好きだけど縫い物は食べれないし正直好きではないから十年も練習できない気もする。
こ、こういうときの裁縫ののりーーーーーーーーー。やってみた。これなら勝てると思ってやってみた。
のりがタグの方にめちゃくちゃ滲むしタオル地のハンカチにタグがつかない。つかないーーーーーー。あれかな、アイロンしたら別なのかな、アイロン持ってないよぉーーーーーーワッペンつけるときもシールタイプ選んでドライヤーでつけたんだよぉーーーーーーーーー。リュックのポケットにリアルな柴犬のワッペンがあったからつけたのだ。めちゃくちゃかわいいリュックになった。二度見されるくらいにリアルな柴犬リュック。
ドライヤーでチャレンジしてもよかったが、お腹が空いたのでひとまずごはんを食べながらこれを書いている。ドライヤーやってもつかない……で空腹が加速すると辛いので。のり…信じてたのに………やり方が悪いのかな。タオル地がのりに向かないのかな。でもタオル地じゃないハンカチはハンカチじゃないから……。
これは、まっすぐ縫えるようになるしかないかもしれない。頑張るしかないかもしれない。
私はとりあえず唯一できるレース編みのコースターを作り始めた。これはできるぞ…を挟まないと悲しいままなので。立ち直りたい。
だってこのかわいいタグ絶対にどこかにつけたい。お姉さんができるよがんばってって言ってくれたし、やりきりたい。距離が遠くて気軽に行けるお店じゃないしこのタグは多分二度と出会えない予感がしているから稚拙な私が挑むには荷が重い。だってこのタグかわいいんだもん。大事にしたいんだもん。
レース編みも図面の読み方とかそもそもの編み方を忘れているので世界一簡単なレース編み!!みたいな本を見ながらちまちまやっている。コースターしか編めない。丸いのしか編めない。ボタンつけの練習もやってみたけど、やり方忘れていたから検索してやってみたけど、あんまりよくわからなくてできなかった。動画で見たらわかるかな。練習で買ったものだけど100均の鳥さんウッドボタンかわいいからどこかに飾りでつけたい。練習のものもかわいくないとやる気が出ないからかわいいのを選んで買う。己を鼓舞するの変化形だ。いい加減この年になれば自分の操縦法を多少理解する。
自分の不器用に打ちのめされてうなだれて笑っちゃうしかなくて、でもやりたいからウギーーーと嘆きながら立ち向かってまた凹むの繰り返し。そういうやつだよ、私って人間は。きっとこのまま不器用なままこの先もウギーーーって転がりながら生きて、そうやって生涯を送るのだろう。この年にもなれば自分が一番よくわかる。ゆで卵然り、りんごや玉子焼きや、なみ縫いたまどめ然り。
たまどめが苦手なの初めてやったときに勢い余って掌に突き刺したからこわごわしているのが一因な自覚はある。たま押さえてたら針抜けなくない?どうやって安全に抜けばいいんだ?もう先に糸切って固結びした方が早い気がする。でもみんながそうして来なかったのなら何か不都合があるのだろう、固結びには。それじゃだめなんだろう。やるしかないたまどめ。できるまでやればできるって田中龍之介も言ってたし、できるまでやるしかない。私がやりたいから私が頑張るしかない。
できるようになりたいなーーーーーーーかわいいタグもかわいいボタンもつけたいなーーーーーー
この先一生不器用であったとしても、やりたいこともできるようになりたいこともあるから困るのだ。そしてそれなりに見えるくらいにはできるようになりたいのだ。困る。やらなきゃできないままだ。やってもできないかもしれないけど、でもやらないと何も変わらないままだ。困る。
俺はやるぜ俺はやるぜ俺はやるぜ。こういうときに唱えるおまじない。あのかわいい絵が思い浮かぶからフフってなる、私なりのライフハックだ。俺はやるぜ。
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