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政治改革はどこから始まる②SNS社会が変える!? カネのかかる選挙と議員に必要なスペック

SNSを駆使、善戦した神戸市長選

2009年、私が初めて神戸市長選挙に立候補した時、Twitterは「ブームの兆し」が見え始め、情報感度が高い人のツールだった。

自公民相乗り・現職3期目の市長と戦うために、IT企業の経営をしていた私は、急拡大するスマホとTwitterを駆使し、準備期間3カ月で15万6178票を獲得、現職候補の16万4030票まで7852票差まで肉薄したが惜敗した。

2013年の市長選は、落選してから4年間の地道な地域まわりに加え、新たに台頭したFacebookを選挙対策本部の組織管理ツールとして使い、500人を超えるボランティア組織が大活躍した。最終日は「樫野ボランティアチーム」が神戸市内の主要駅を埋め尽くし、相手の自民党選対本部は驚いたと言う。

しかし結果は、自公民が担いだ元官僚の16万1889票に対して15万6214票。5675票差で再び敗戦した。

三分の一に減った選挙費用

ただ、この選挙に負けはしたものの、ネットを利用できるようになり、選挙費用は激減した。

従来の選挙だと、電話を50台敷設して“電話かけ部隊”を編成、チラシ印刷を50万枚、配布を3回実施するだけで費用は1000万円を超えた。それを無料電話とメール配信に切り替え、SNSのPRを駆使、ウグイス嬢や有償スタッフをボランティアにお願いすることで、費用は三分の一くらいまで減少した。

著名な選挙コンサルタントは、神戸市のような政令指定都市なら、1億円は用意しないと勝てないと言った。しかし、私が使用した金額は、選挙以前に使う政治活動資金や事務所代などすべて合わせても3000万円を下回ったのである。

「カバン」がなくても立候補できる社会に

その後、地域政党を立ち上げた時も、擁立した市会議員候補の選挙費用が極力少なくて済むような選挙方法を開発していった。市長選なら500万円、市会議員選挙なら150万円で選挙を戦えるというのが目安だ。

かつて株式会社を設立する際、資本金は1000万円、有限会社の場合300万円が必要だったが、起業する際に必要になる程度の資金があれば、選挙で2回勝負できるのを目安にしたのである。

選挙は、世の中の「風」や「流れ」に左右されることも多く、実力だけではどうにもならない場合もある。しかし、たとえ1回目はダメでも、地道に4年間活動して地力をつければ、2回目は無所属新人でも勝負になるものだ。それゆえ、2回勝負できる手元資金を上記のように設定したのだ。

寺田稔総務相の辞任など、「政治とカネ」の問題が相変わらず世間を賑わせているが、今は以前ほどおカネをかけなくても選挙に勝つことができる。つまり、選挙用語でいう「カバン」(おカネのこと)が大きくない一般の市民でも、立候補できる社会になりつつあるのだ。

政治を志す人にとっては、希望が持てる話ではないだろうか。

地域を走り回っていた議員たち

ネットの進展で変わったのは選挙だけではない。それは、政治の「仕事面」にも明らかに影響を与えている。

これまで、議員たちは市民の意見を聞くために、文字通り地域を走り回っていた。社会課題について知り、政策にいかすとともに、それが「顔」と「名前」を売ることになり、選挙にも効果があるので、まさに一石二鳥だった。

市民の側にとっても、議会で何が話し合われているかを聞くことは、議員からしか得られない“特別な情報”であった。そこで、人によっては、それを少しでも早く入手するために秘書と仲良くし、手土産を持って議員事務所に日参したり、1枚2万円もするパーティ券を購入したりした。

有権者と議員が密に情報をやりとりするためには、直接、話を聴ける程度の人口をカバーできるだけの議員数が必要となる。面積が広い地域では、行動半径を考慮して議員定数が設定されるのは理解できる話だ。
議員を介さずに情報を得られる

それが、SNSの普及で一変した。

知事や市長が有権者に直接、FacebookやTwitterで情報発信するようになり、一度に何万人、何十万人に自分の考えを伝えることができるようになった。

例えば、橋下徹・元大阪府知事のように269万人ものTwitterのフォロワーがいれば、有権者は行政情報を地方議員から聞く必要はない。地方自治体のホームページを閲覧し、首長のSNSをフォローすれば充分だ。

しかも、SNS上では、政策に関して丁々発止の意見交換、時にはバトルも繰り広げられている。専門分野のプロフェショナルが首長に対して直接意見をする場合もある。議員を介さず、政策に関する情報を得ることができるのだ。

そうなると困るのが議員たちだ。
有権者との間に入り込む余地がなくなるからだ。SNSで有権者とダイレクトに意見交換する首長に対して、「そんなことされたら議員の役割が無くなるから、SNSでの発信を控えて欲しい」と直訴した地方議員もいるという。まさに笑えない冗談である。

ネットで分かる国民の本音

「保育所落ちた。日本死ね」というTwitterのつぶやきが国会で取り上げられ、待機児童問題が動き始めたように、今や国民の本音は、ネット空間に溢れるように浮かんでいる。そうした投稿の方が、議員を介するバイアスがかかった「意見」より、よほど「心の声」に近いと私は思う。

これまで地方自治体で行われてきた「公聴」は、自治会長のような町の顔役に意見を聞くことだったり、クレーム電話のような「訳あり系」の対応窓口であったりしたが、今はネットを利用して、「本当の公聴」が実現できるようになってきたのではないか。

私が広報アドバイザーを務める広島県福山市では、大きな争点になりそうな街の課題が起きた時は、Twitterなどで言論の「空気」を読むようにしている。数年前からは、市のコミュニケーションプラットフォームとしてLINEに力を入れ、今や公式の登録者数が10万人を突破し、福山市の人口の約21%をカバーするまでに成長した。

救急医療やワクチン対応、防災情報、ごみ処理や子育て、各種申請まで、従来の紙媒体より速報性があり、双方向性のメディアによって、行政と市民の直接コミュニケーションが加速度的に増えている。事実、行政手続きとしてのパブリックコメントが100前後しか集まらないのに、LINEでアンケートを取ると、1万を超える意見が寄せられることもある。

議員に必要なスペックが変わる

今後、「一般市民の声を代表して」と議会で主張する議員の機能はどんどん小さくなるだろう。その代わりに、地域社会の課題に対する専門的見地による解決策、政策立案をする能力がより求められてくるに違いない。

ある優秀な地方議員が、嘆きながらこんなことを言っていた。
「例えば議員が50人いても、能力があり、きちんと仕事している議員は1割程度。
その50人の議員報酬は年間5億円以上かかる。であれば、公認会計士事務所に1億円、弁護士事務所に1億円、経営コンサルティング会社に1億円で年間契約して行政チェックと政策立案をしてもらった方が絶対パフォーマンスが良い。しかも予算を2億円削減できる」

「顔が広いことを活かした代弁力」から「専門的知見と政策立案力」へ――。議員に必要とされるスペックが大きく変わろうとしている。

参考図書
リクルートOBのすごいまちづくり (世論社)

リクルートOBのすごいまちづくり2(CAPエンタテインメント)

議員という仕事(CAPエンタテインメント)

情報オープン・しがらみフリーの新勢力(CAPエンタテインメント)


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