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マシュー・ボーンの「ロミオ+ジュリエット」を見て気になったこと

マシュー・ボーンの作品を今回初めて見て、その斬新さに心の底から魅了された。あまりにも感動し、既に何本も賛辞の気持ちを込めたnoteを書いている。
マシュー・ボーンの作る舞台に心を奪われてしまったのだが、私自身は「大絶賛するなら、気になる点もきちんと言う」をポリシーとしている。と言うわけで今回は私が「ロミオ+ジュリエット」を見て、心の中でツッコミを入れた描写4つについて書いていこうと思う。

なおネタバレも含む上、人を殺すシーンの描写もあるので、見たくない方はこの時点でそっとブラウザを閉じていただきたい。




①ロミオ格好良すぎ。あれだけのイケメンが政治家の両親に見放されるとかありえない

マシュー・ボーン「ロミオ+ジュリエット」において、ロミオは「有力政治家の両親から見放された子ども」という設定である。初演でもロミオを演じたパリス・フィッツパトリックはチック症や神経過敏症などを巧みに表現したと評判であり、実際に舞台で見ても確かに弱々しかった。ジャクソン・フィッシュは感情を出すことが苦手そうでコミュニケーションに支障がありそうなロミオを演じており、ロリー・マクラウドはオドオドした感じを出そうとしていた。
しかし!全員なんだかんだ言って超格好いいのである!超イケメンだし、本当にセクシーである!こんなハンサムを誰が放っておくんだ!?

選挙というものはイメージ戦略が大切である。一家の息子のロミオは風変わりで言動がおかしいという設定ではあるが、政治家は家族のイメージも大事である。ロミオの父は上議員議員で妻はトロフィーワイフという設定とのことで、妻の美しさにこだわる夫なら、これだけ美しい息子についてももっと有効活用して票集めに生かすだろうと思ってしまった。
私なら、こんなハンサムな息子がいたら、絶対に選挙カーに乗せまくったり、家族写真見せまくって周りにイケメンを自慢して票集めに最大限活用する!

②女性の司祭はまだまだ珍しく、ローレンス牧師が聖職者だと分からない

※キリスト教聖職者の呼び方は司祭、神父、牧師と色々あるが、この項では司祭を使う。

マシュー・ボーンの「ロミオ+ジュリエット」に登場するローレンス牧師(神父/司祭)は女性である。女性が男性役を演じているのではなく、女性の司祭が登場するのである。
私はこれを舞台で見た瞬間「あぁイギリスだな。アングリカン(聖公会)の国だなぁ」と1人で納得していたのだが、普通の人は「司祭=男性」という固定観念を持っていると思う。

キリスト教において司祭や聖職者は男性が多いが、プロテスタントやアングリカンは女性の司祭も多い。私は大学時代にローマンカラーをつけている女性を見て驚愕したが、新教(プロテスタントや聖公会)では女性の司祭や牧師が増えてきていると聞く。日本ではキリスト教というとまだまだカトリックや正教会など旧教のイメージが強く、その世界では司祭は男性しか認められていない。しかしヨーロッパやイギリスに信者が多い新教では女性司祭も多い。マシューが司祭を女性の役にしたとしても、それは彼の周りに普通に女性司祭がいるから違和感がなかったのだと思う。

もちろん今回はマシュー・ボーン自身がインタビューで語っているようにあえてローレンス牧師を女性にしたそうだが、普通はパッとわからないのではないかと感じた。

どうして女性にしたか、もう思い出せないんだけれど、彼女はロミオとジュリエットにただ1人優しく接し、面倒を見たりもする役。だから女性が演じるに相応しいのではないかと考えたんだと思う。

新書館「ダンスマガジン」4月号 マシュー・ボーンのインタビューより抜粋

ちなみにローレンス牧師は原作だと、男性のローレンス神父である。プロテスタントや聖公会では「司祭」もしくは「牧師」と呼ばれるが、「神父」と混同されることも多い。女性に「神父」は使われない上、彼らの宗派で使われる「牧師」ときちんと翻訳したのは流石である。
ちなみに聖公会の女性司祭のニュースや、カトリックの聖パウロ修道会が女性司祭について述べているページを見つけたので、興味がある方はぜひ調べてみて頂きたい。

③LGBTQの登場人物の割合がかなり高いことに興味を持った

マシュー・ボーンの「ロミオ+ジュリエット」は性的少数者(LGBTQ)の登場人物が非常に多く、彼らのクローズアップも多い。これはマシュー自身もゲイであり、彼が率いるカンパニー(New Adventures)には、LGBTQが非常に多いため、彼の周りの環境を考えると自然である。
今回の「ロミオ+ジュリエット」を見ていると、マキューシオがゲイだったり、クィアの男性がいるだけでなく、全員で乱痴気騒を起こす時は男性同士、女性同士の描写もあったため、出演者の半数はLGBTQなのではないかと感じた。

私も周りにゲイやトランスジェンダーが結構多いのだが、やはり「性的少数者」と言われるだけあって、世間的に見てもその割合はかなり少ないと思う。東京には非常に多いと言われるが、それでもLGBTQは半数どころか、5%以下もいないのではないかと思う。
「ロミオ+ジュリエット」のLGBTQのクローズアップが多い点については、批判したいのではなく、マシュー・ボーンの周りに実際にこれだけの割合のLGBTQの人々が集まっているのかとても興味が湧いた。

④首を絞める演出が危険すぎる ※ネタバレ

これは私だけでなく、「ロミオ+ジュリエット」を観劇した全員が思ったはずだが、ティボルトを首に締める演出に驚愕した。
もう少し具体的に説明すると、マシュー・ボーン版ティボルトは首を絞めて殺される。マキューシオが殺されたことにより若者達が激昂し、ティボルトのベルトを外してそのベルトで彼の首を絞めてしまうのだ。何よりも驚愕したのが、ただティボルトの首を絞めるだけでなく、ベルトを首にかけてそのまま全員で彼を後ろに引きずる描写があったことだ。
もちろんティボルトを演じるダンサーはきちんと首元を押さえて絶対に首を絞められないようにしているが、あまりにも演技が上手で若者達が怒りのあまり殺してしまったことがよく伝わってきた。とてもリアルであったが、動きが早い上に、何かの間違いが起きて頚椎が圧迫されてしまったら本当に死ぬ可能性もある危険な演出だと感じた。またもし子供が見た場合、真似をするのではないかと危惧してしまっった。

首を絞めて相手を殺すバレエは前例がないわけではなく、ローラン・プティ作品で何度か見たことがある。例えば「ノートルダム・ド・パリ」ではカジモドが自分の腕でフロロを締め殺し、エスメラルダは絞首刑となる。他にも首吊り自殺の描写は「若者と死」にも出てくる。どちらも初めて見た時は驚きのあまり息が止まりそうになったが、マシュー・ボーンが作り上げたティボルトの絞殺シーンは、ローラン・プティの作品に出てくる絞殺よりもずっと恐ろしいものを感じた。

最後に

考えに考えて気になった点を振り絞ってみたが、どう考えてもあの舞台は素晴らしく、批判点はあまり浮かばなかった。これだけ楽しい舞台を日本で見せてくれたマシュー・ボーン、そして出演者や関係者の皆様に感謝!

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