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なぜ日本にマシュー・ボーンのような振付家が現れないのか考察

マシュー・ボーンの作り上げる舞台を見て、考えさせられることがとても多かったです。
その一つが「なぜ日本にマシュー・ボーンのような振付家が現れないのか」という疑問です。日本は世界有数のバレエ大国であり、世界で活躍する日本人バレエダンサーが沢山います。幼少期から海外のバレエ学校に留学するダンサーも増えてきており、かなり高度な教育を受けた日本人ダンサー達が爆発的に増えています。

しかし、日本人の有名なバレエダンサーはパッと思い浮かびますが、マシュー・ボーンのように振付家もしくは演出家として名を馳せる日本人は誰がいるのでしょうか。私はいないと思っています。
なぜ日本はこれだけのバレエ大国であるにも関わらず、マシュー・ボーンのように世界中から尊敬される日本人振付家が現れないのでしょうか。

「ロミオ+ジュリエット」を見ながらそんなことを考えていたとき、私の頭の中に答えが一つ浮かんできました。それは日本人が社会に対して無関心だからではないかということです。

マシュー・ボーンの作品はエンタメ要素が多く、私にしてみると「バレエ」というよりも「劇団四季」や「宝塚」のようなショーに近いと思います。ショー的要素が多いため誰が見ても楽しめるだけでなく、舞台の内容には様々な社会問題が取り込まれており、観客への問題提起もしていると思いました。

例えば今回の「ロミオ+ジュリエット」にはゲイやクィアなど、いわゆるLGBTQと呼ばれる性的少数者がかなり出てきますが、今でこそゲイは一般的に認知されるようになりましたが、激しい差別も未だに存在します。ロミジュリの舞台中には、ゲイであることを嘲笑って公衆の面前で無理やりキスさせて侮蔑するようなシーンも出てきます。
そしてマシュー・ボーンもインタビューで述べているようにメンタルヘルスや暴力の描写もかなり出てきており、そこは舞台なのかリアルの世界なのか分からなくなる時もありました。

現代社会において、心の健康と暴力はとても大きな問題です。

新書館「ダンスマガジン」4月号より

マシュー・ボーンは自身も社会のマイノリティーとして沢山の差別を受け、苦しんで来たのだと私は考えています。メンタルヘルスや暴力、そしてマイノリティへの差別などの社会問題をこれだけバレエ作品に組み込めるのは、マシュー・ボーン自身が様々な社会問題に向き合い、深く考えているからだと思いました。

日本人振付家にも著名な方は何名もいらっしゃいますが、マシュー・ボーンほど社会問題に向き合っていると感じさせてくれる作品は見たことがありません。楽しい作品は多いのですが、どれも浅いのです。マシューの作品が世界中で受け入れられて、熱狂されているのは、その面白さや創造性だけでなく、社会問題に向き合う彼の姿勢も評価されているからではないかと考えます。

今後日本人の振付家が世界で活躍していくためには、ただテーマや音楽に合った振付を考えるだけでなく、周りや社会の問題にも目を向けることが必要になってくるのではないでしょうか。そのトピックについて議論を重ねた上で、深い思考力と想像力によって作り上げられることによって、彼らの作品は世間に受け入れられていくのだと思います。



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