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バレエ感想「カルミナ・ブラーナ」K-BALLET TOKYO


2024年5月24日(金)にBunkamuraオーチャードホールで上演されたK-BALLET TOKYO「カルミナ・ブラーナ」を見に行きました。もちろんお目当ては特別出演の熊川哲也氏です。舞台で踊る熊川氏を見るのは今回が初めてで、ずっと楽しみしていました。

熊川哲也氏の存在感は異次元

今回のカルミナで熊川氏が一体どう出演するのか、誰もが気になったと思います。
結論から言えば熊川氏は最初の「O Fortuna」から出てきて、この一曲のみで一旦引っ込みます。そして最後の「O Fortuna」でまた踊られます。衣装は白シャツに黒パンツなのですが、それでも超カッコいいです。

最初の「O Fortuna」では早いテンポの音楽に乗って演技し、歩くような動きが中心ですが、これがめちゃくちゃ上手いです!歩いているときも存在感が凄すぎて、オーケストラではなく、彼自身が音を出しているかのような迫力がありました。
最後の「O Fortuna」ではピルエットやアントルラッセなど踊る部分もあるのですが、熊川氏が立っているだけで全てがそこに吸い寄せられるようで、鳥肌が立ちました。

立っているだけで観客を一気に惹きつけるような存在感を持つダンサーは滅多にいませんし、やはり熊川哲也氏は昔も、今も、そしてこれからも、Kバレエ一番の大スターだと感じました。熊川氏がいるときはものすごくステージが小さく見えるのに、いなくなったらだだっ広く感じてしまい、熊川氏の求心力と存在感の大きさに圧倒されました。
Kバレエは日本を代表するバレエ団であり、レベルの高いダンサーしかいませんが、今回の舞台を見る限りKバレエから熊川氏を超えるような存在はまだまだ出てこないと感じました。熊川氏というレジェンドの存在は永遠であり、その存在の大きさを再確認した公演となりました。

「カルミナ・ブラーナ」あらすじ

あらすじは正直事前に調べても実際に舞台を見てもよくわからないのですが、ググったところこんな感じです。
ちなみに初演時は中村祥子さんが女神フォルトゥーナを演じられましたが、2回目以降は女神フォルトゥーナ役を人類に置き換えて、その役を熊川哲也さんご自身が演じられています。

あらすじ・ストーリー かつて女神フォルトゥーナは、悪魔ルシファーと恋に落ちアドルフという子を授かった。彼は、人間社会へと紛れ込み可憐に咲く花々やさえずる鳥たち、太陽など接触したものをすべて浸食していく。人類は、悪の象徴となったアドルフに立ち向かおうとするが……

映画ナタリーHPより引用

ざっくり説明すると、この世にアドルフという悪の象徴が生まれたが、アドルフが触れたものは全て悪に侵食されてしまう。太陽や鳥だけでなく、神父ですらも。清純なヴィーナスはアドルフが触れた瞬間淫乱となって、ダビデ達とヤリまくりる(本当にやっているかのようなかなり直接的な表現があります)。元は善良な人間だったサタンもアドルフのせいで白鳥を殺すような凶悪な存在に変貌してしまう。
悪の象徴であるアドルフに皆は立ち向かえるのか?というストーリーですが、結末をネタバレすると、熊川哲也さんが演じる「人類」は、悪の象徴であるアドルフに打ち勝ちます。たぶん。最後にアドルフが消えて熊川さんにだけスポットライトが当たっているので打ち勝ったというストーリーなのでしょう。たぶん。よく分かりませんが、たぶん。

「カルミナ・ブラーナ」を実際に見た感想(5/24)

実際に見た感想ですが、ダンサー達もオーケストラも合唱団も大熱演でした!
セットも凝っていて、照明や、吊り天井の様な装置を使って舞台を巧みに演出しており、見応えがありました。
最初から熊川哲也氏が登場し、パワフルなオーケストラや合唱にも圧倒されてワクワクしていたのですが、割と早い段階で椅子から引っくり返りそうになる衝撃を受けました。

このバレエの主役は「アドルフ」という名前なのですが、なんとこのアドルフが右手を高く掲げるようなポーズを取るのです。まさに「ハイル・ヒトラー」のポーズであり、見た瞬間驚いて呆然となりました。
ハイル・ヒトラーのポーズについては最初だけかと思ったのですが、最後にも全員で中心に固まって同じポーズを取るシーンもあり、まさにナチスのカルトのようにしか見えず、驚きすぎて本気で気絶しそうになりました。パンフレットを熟読したところ、やはりアドルフのモデルはあの歴史上の登場人物と東洋大学教授・舞踊評論家の海野敏さんも書かれており、言葉を失いました。

公式パンフレットより、東洋大学教授・舞踊評論家の海野敏さんのコラムから引用

いくら芸術でも侵してはいけない領域がある

芸術は時にはチャレンジも必要ですが、いくら芸術であっても侵してはいけない領域が世の中に沢山あります。
例えば白人が吊り目のポーズをしたら、何を言い訳してもそれはアジア人差別のポーズと判断されます。どんなストーリーであってもアドルフという登場人物に「ハイル・ヒトラー」のポーズをさせることは、歴史上の過ちを軽んじ、禁じられている表現を選択していると周りに判断されても一切言い訳が許されません。

日本人は本当に海外のタブーや禁忌などに鈍感でそれを破ったときの恐ろしさを分かっていない人が多いです。 平和な日本では想像しにくいですが、海外の過激主義者は本当に危ないです。日本人からしたらちょっとした演出のつもりでも、例えば今回のハイルヒトラーのポーズは、ヨーロッパなら絶対アウトですし、ましてや同盟国だった日本人がやるなんてあり得ません。
以前も「悪魔の詩」の訳者が殺されたこともありますが、今回のハイル・ヒトラーのポーズも、人によっては殺されるレベルだと感じますし、特にイスラエル関係で戦争が起きているこのタイミングでトラブルに巻き込まれないか心配になってしまいました。

「カルミナ・ブラーナ」は既に過去2回上演されていますが、特に「ハイル・ヒトラー」ポーズに関する批判を聞いた記憶はありません。ですがこのポーズは明らかにタブーであり、これだけのタブーを犯しているのに、周りのスタッフ陣、スポンサー、評論家がなぜ何も言わなかったのか理解出来ません。ダンサーは下手に口出したら首を切られる可能性があるので言えないのも分かりますが、なぜ周りがきちんと言わないのでしょうか。
ネットで検索してもきちんと批判しているのはこのブログしか見つけられなかったので、おそらく観客も何も言わなかったのでしょう。(まさか全員身内だったとか?)

Kバレエの今後について気になったこと

さて今回「ハイル・ヒトラー」ポーズがヤバいと言うことについて大騒ぎしましたが、理由があります。

Kバレエは日本のバレエ団の中で一番精力的に活躍しており、作品を見ていると海外進出も絶対狙ってると感じています。熊川哲也氏が作り出した数々の素晴らしい作品は、いずれ海外のバレエ団で踊られるようになると信じていますし、絶対そうなると思っています。
ですがいざ海外のバレエ団で熊川作品が上演される時に、どんなストーリーであっても過去にアドルフという名の登場人物が「ハイル・ヒトラー」ポーズをする作品を作ったことが問題となったら、国によってはKバレエ団員の入国禁止や上演中止になる可能性もあると思います。これはそれだけ重い問題です。そう言う意味で今回のカルミナの振付は今後のKバレエの事業拡大に悪い影響を及ぼすのではないかと感じました。

また、Kバレエは天皇陛下や皇后陛下も見に来るような日本を代表するバレエ団であり、特に皇后様は元外交官です。 宮内庁や外務省とも関わりのあるバレエ団が、アドルフという登場人物に「ハイル・ヒトラー」のポーズをさせたなんて知られたら外交問題になるのではと危惧しています。
なぜ誰も批判しないのか本当に理解出来ませんが、真剣に考えれば考えるほど外交問題になってもおかしくないレベルの内容だと思いました。

印象に残ったダンサー

鳥を演じた吉田周平さんのブリゼはブルーバードのようで眠れる森の美女を思い出しました。ソロのときに両足の間隔を30cmくらい開きながら2回転のジャンプを何回もするという振り付けがあったのですが、とても軽やかで木枯しが舞っているようでした。まさに鳥がさえずりながら跳んでいるようで、この方のジャンプの美しさを考えるともっと昇進してもいいのではと感じました。

以前からKバレエスクールの広告でカッコいい生徒として話題になっていた井上慈英さんは今回スクール生ながら本舞台に出演されました。井上さんは高身長で顔が小さいだけでなく、腕がとても長く、ロングコートのような神父の衣装を着ると存在感が凄く、とても目立っていました。芸術家一家のサラブレッドの今後がとても楽しみです。


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