バレエ感想「マーメイド」K-BALLET TOKYO(2024/09/08 世界初演)
(最終更新:2024/09/15)
※かなりネタバレを含んでいます。
もし見に行かれる予定のある方は、絶対にネタバレを見ない方が楽しめると思いますのでご注意下さい。舞台を見に行くか迷っている方は、このnoteを読まずにさっさとチケットを購入して見に行ってから読んでください😂
9/8 K-BALLET TOKYO「マーメイド」世界初演を見に行きました。
Kバレエと言えばゴージャスなセットや衣装が毎回話題になりますが、今回もまさに大スペクタクルショーのような豪華な舞台で、とても楽しかったです。
今回は「子供向け」と銘打たれたこともあってか観客に子供が多く、普段バレエを見にこなさそうな層も多かったですが、終演後に沢山の観客が「楽しかった」と言っていたので、Kバレエは新たなファン層を沢山取り込めたのではないかと感じました。
マーメイド感想 ※ネタバレあり!
マーメイドの原案となったアンデルセンの「人魚姫」は世界中の人が知っている童話です。基本的には原作をベースにしたストーリーになっていますが、舞台の中で重要な役割を担うシャークやマーメイドの叔母などのオリジナルキャラクターもたくさん活躍します。
幕開けはなんと海の中では無く、陸上の酒場のシーンから始まります。ドンキホーテの酒場のような雰囲気で、さすがKバレエということもあり男性達がテクニックを見せる場面が多いです。プリンスは友人2人と共に登場し、周りの仲間達や娼婦達も交えてどんちゃん騒ぎです。女性も男性もとにかく踊りまくり最初からかなり盛り上がっていました。
その後海のシーンになるのですが、シャークは本当に海の中を激しく泳いでいるようです。振付も大技が多くて早いのですが、衣装についているフワッフワのケープがまさに服を着ながら泳いでいるかのような絶妙な揺れ方で、水中で泳いでいる様子をこのように表すのかと驚愕しました🦈
シャークだけでなくイルカも沢山出てきますが、衣装が円錐を半分に切ったスカートというのか、タイツの後ろ側というのかふくらはぎ側にマントのようにスカートが縫い付けられているような衣装で、動きやすく、それでいて布のゆらめきで海中であることを表現していました。色合いも体の中心に向かって薄くなっていき、実際のイルカのような綺麗な色合いでした🐬
プリンス達が船に乗っているシーンは海の住人達が大きな布を何枚も持ってきて波打つ様子を表したり、そこでマーメイドが飛び跳ねている様子を見せたり、大きなクジラの尻尾を見せるなど、とても見応えがありました🐳
乱入してきたシャークに向かってプリンスは槍を投げますが、それに怒ったシャークは嵐と雷を巻き起こし、船は難破してしまいます。この時海中に投げ出される様子は沢山のダンサーがプリンスを持ち上げて表現していたのですが、前述の波を表す大きな布で下で支えるダンサー達を隠していたので本当に波の中を彷徨っているようでした!
遭難したプリンスをマーメイドが助けて海岸に運びますが、人の気配を感じたマーメイドは海に戻ってしまいます。灰色の地味な洋服を着たプリンセスとお付きは修道院で教育されているという設定らしいのですが、プリンセスは最初倒れている王子に無関心です。しかし彼の剣の入れ物にあった紋章から身分の高さを知り、自分が助けたとアピールします。もちろんプリンスは信じますし、プリンセスのあざとさと嫌な女感がバレエっぽくなくて面白かったです😂
さて海中に戻ったマーメイドは姉妹、仲間のロブスターやクマノミ達と楽しい日々を過ごしますが、王子へ恋焦がれています。クマノミ達の踊りは事前公開された映像でも、本公開された初演映像にも出てくるので多分Kバレエ的にイチオシのシーンなのだと思います。私は見ながらプリセツカヤとワシーリエフの「せむしの仔馬」の海中シーンの魚たちを思い出しました。
他にも海中のシーンの表し方が面白くて、最初大きな石を置いたのかと思っていましたが、なんと中からヤドカリ役のダンサーが出てきて、大きな貝を被って地面を這う様子がとてもリアルでした。
周りにはサンゴ役のダンサー達もいたのですが、黄色をベースにピンクや水色など色々な色合いで珊瑚の美しさが表現されており、うっとり。クマノミも珊瑚の間を舞うようにチョコチョコ動くなどとても楽しいシーンでした。
マーメイドや姉妹達は後ろ側がゆらめく特徴的な衣装を着ており、人魚の鱗もついていたり、髪の毛もダウンスタイルで衣装と同じ色のメッシュが入っていて、本当に美しかったです。ですが、マーメイドの叔母は年齢の高さを表現するためか珊瑚礁のような形のカツラを被っていて、落ち着いたトーンの色合いだったことが印象的でした。
マーメイドがプリンスに会いたいという願っていることを知った叔母はシャークのところにマーメイドを連れて行くのですが、海中は海中でもマーメイド達の海中とシャークのいる海中は色合いが全然違い、危なそうな色合いに変化していたことが印象的でした。具体的にはマーメイド達のシーンでは淡い色合いを多数使って明るい色合いを表現していましたが、シャークのシーンでは全体的に暗く、赤や緑などのドギツイ色合いが使われていていかにも危険そうで、この演出は面白いと思いました。
シャークがマーメイドに足を授ける表現ですが、上から垂らされた輪を掴んだマーメイドが水面に向かって泳いでいくシーンで、彼女のロングスカートをシャークが剥ぎ取って足がよく見えるようになります。ノイマイヤーの「人魚姫」でも人魚役のダンサーのロングパンツを脱がして足をよく見えるようにしていましたが、やはり衣装が無くなって足をよく見えるようにすることは分かりやすい演出だと思いました。そしてここで1幕は終わります。あっという間の60分でした。
2幕は陸に上がったマーメイドが一生懸命立ち上がり王子と出会って酒場に行くのですが、大きなロブスターが出てきてみんな大盛り上がりの中で、海の住人のマーメイドは悲しい表情をしロブスターを海に帰してしまったので周りはガッカリします。他の人とマーメイドは踊り方も違うなど、マーメイドと他との差を描いていると感じました。
マーメイドは必死にアピールしますが声が出ないためプリンスには伝わらず、プリンスはプリンセスが自分を助けてくれたと信じ結婚してしまいます。結婚式のシーンはライモンダのようなグランパドドゥがあり、プリンスとプリンセスだけでなく、友人やお付きも踊るかなりクラシックバレエの王道感溢れるシーンでした。男性も女性も大技があって、Kバレエのダンサー達のレベルの高さを感じました。
個人的に面白いと思ったのが、マーメイドなど水中の登場人物の衣装は複数色を使って水中のゆらめきを表現していたように見えましたが、陸上の人物達の衣装はトーンも暗く、ラメ等も無い単色ベースでした。結婚式のシーンはもう少しキラキラしていましたが、それでも単色かつ寒色ベースで華やかな素材であっても海中の人物との違いをよく表していたと感じました。
さて、プリンスの結婚を嘆くマーメイドの元に心配した叔母がやってきて「短剣で王子を刺して返り血を浴びれば泡にならずに済む」と助言します。
ですがプリンスのことが大好きなマーメイドには刺すことが出来ません。寝室に忍び込んできて嘆くマーメイドをプリンスはなだめますが、マーメイドは大泣きして海に戻ってしまいます。そして王子はマーメイドが置いていった短剣が自分が海で落としたものだと気づき、彼女が自分を助けてくれた人だと気づきますが時はすでに遅し。
最後は舞台の最初に表示された深海のセットに沢山のシャボン玉の泡が吹き出され、マーメイドが泡となって消えてしまったことを表現されて終わります。まさか本物の泡を使うとは、説得力がありますし、最後に王子がやっと気がつくシーンも泣けます😭
Kバレエの舞台は明るくて楽しいものが多いですが、マーメイドはストーリー的には悲劇でKバレエのラインナップでは珍しいような気もします。新鮮な演出が多く、とても楽しかったです。
印象的だったダンサー
マーメイドを踊った飯島望未さんは恋する様子がとっても可愛く、プリンスの愛を得られないと知った時の慟哭がとてもわかりやすく表現されていて見応えがありました。特に1幕の海中のシーンは本当に楽しそうで、その幸せそうな様子がとても印象的で可愛かったです。実は今日はテレビ収録が入っており、なんと飯島さんメインの番組だそうです!可愛いバレリーナだなと思っていましたが、人気もすごいですね😊
他にもマーメイドの叔母を演じた大久保沙耶さんは、マーメイドを心配する様子がよく表現されており、他にも「王子を刺せ」とマーメイドに伝える様子は力強かったです。海中で他の生物と関わる様子も生き生きしていて、彼女の周りからはあいさつのセリフが聞こえてくるようでした。どちらかと言えばマイムが多い役柄で、大久保さんが今回叔母役にキャスティングされたということは、彼女は今後キャラクテール枠になるのでしょうか…。もっとたくさん踊って欲しいと思いますし、いつか熊川版「眠れる森の美女」のカラボスとかも演じたら似合いそうだなと思いながら見ていました。
あと客席の空気が変わったのが1幕の酒場の場面で護衛役の井上慈英さんが出てきた時です。短い時間だったのですが、井上さんが出てきた瞬間周りがバッと双眼鏡を彼に向け、後ろから「あの人だよね?」という声も聞こえてくるなど、注目されている方なんだなと思いました。長身で目立つので以前から凄い目立つ人がいるなとは思っていましたが、本当に格好良いです。間違いなくKバレエの次世代プリンス候補だと思いますので、今後が楽しみです。
あとお名前は分からないのですが結婚式のシーンのコールドにいた女性で、プリンスやプリンセスのヴァリエーションの時に下手側の後ろから2人目のバレリーナがとても綺麗で印象に残りました。出てきたときから綺麗で、ソリスト達が真ん中で踊っている時も決して笑みを絶やさないで、ずっと華やかな宮廷の雰囲気に華を添えていて本当に素敵でした。誰なんだろう…🤔
舞台装置や照明の美しさ
今回は水中を表現する必要があるということで、かなり全体的な演出に工夫が凝らされていました。海中の舞台装置は豪華で深海の深さを表現しているだけでなく、さまざまな色の照明を当てることによって暖かな色合いも表現しており、本当に美しかったです。海中は海中でもマーメイド達のシーンと、シャークのシーンなどは色合いが全然違ったり、嵐の際は波の激しさや暗さを表現するなど面白かったです。
特に幕間の舞台装置の転換の際は薄い紗幕にゆらめくような照明を当てて、マーメイドの世界観を壊さないようにしていたり、照明が落ちて場面転換する際などは登場人物達が舞台袖にすぐ走るのではなく、黒い布で覆って袖に戻るシーンが見えないようにされているなど、沢山の工夫をされていると感じました。
個人的に一番面白いと思った演出が最後のシャボン玉です。マーメイドは泡となって消えるので、その泡のシーンをどう表現するのかと思っていましたが、物理的に泡を用意するとは思っていませんでした。単純ではありますが、一番インパクトがある表現方法で、そしてバレエ界では滅多に見ない新鮮な表現方法ということもあり、とても印象に残りました。
先ほど調べたところ舞台装置は日本人の二村周作さんが担当されたそうです!今回のマーメイドの世界観は子供にも訴求するだけでなく、大人の心も掴むものだったと思います。ぜひまた二村さんの舞台美術をバレエの舞台で見たいと思いました。
舞台衣装デザイナーのアンゲリーナ・アトラギッチ氏について
今回衣装デザインを担当されたアンゲリーナ・アトラギッチさんはセルビア共和国出身で、現在は世界中のバレエ団の舞台衣装をデザインされています。有名どころだと2023年にKバレエで新制作された「眠れる森の美女」や、ミハイロフスキーバレエ団の「白鳥の湖」「ラ・バヤデール」などがあります。また以前はセルゲイ・ポルーニンがアトラギッチさんに衣装制作を依頼したこともあるなど、まさにバレエ衣装デザイン界のレジェンドです。
昨年彼女がデザインしたKバレエ「眠れる森の美女」で披露された美しい衣装は日本バレエ界に衝撃を与えましたが、デザインが綺麗なだけでなく、個性的で、そしてダンサー達を美しく見せる素晴らしい衣装です。
私は彼女の衣装の大ファンなので今回のKバレエ「マーメイド」はアトラギッチさんが衣装をデザインすると聞いて「絶対チケット買うぞ!」と決意しました。5月に行われたKバレエの「カルミナ・ブラーナ」公演ではアトラギッチ氏による「マーメイド」のデザイン画も展示されていて、完成をとても楽しみにしていました。
今日ようやく舞台を見て、色彩や質感など衣装に随所のこだわりを感じ、アトラギッチさんがデザインした衣装を着て踊るダンサー達が今まで以上に美しく見え、涙が出そうになりました。これほどまでに美しい衣装を見たのは初めてで感動しました。彼女の最初のアイデアであったロングスカートなどは踊りにくいので熊川哲也ディレクターと協議しながら細かいアップデートを進めていったそうです。劇場のロビーには実際の衣装も展示されていて、その美しさにため息が出ました。
Kバレエのゴージャスな雰囲気と彼女の美しい衣装は最高のコラボレーションなので、ぜひまた近いうちにタッグを組んで欲しいです💕