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タイマIC 555でのこぎり波っぽい音を出す

はじめに

次の企画の味見実験とKiCad移行の練習を兼ねて、タイマIC 555でスピーカーを鳴らす電子回路を製作しました。555のOUT端子の出力波形である矩形波ではなく、のこぎり波っぽい波形の音を出すことが特徴です。

ArudinoでMozziを使えばよいのではというツッコミはなしで。

555を使ったのこぎり波の生成

下図は555を無安定モードで使う回路です。そのときのTRIG端子とOUT端子の電圧波形をあわせて示しています。面倒なので電源電圧は+5Vです。

タイマIC 555の波形

TRIG端子の電圧が電源電圧の2/3(ここでは3.333V)以下のとき、抵抗RaとRbを通してコンデンサCが充電されます。TRIG端子の電圧が電源電圧の2/3に達すると、抵抗Rbを経由してDISCH端子からコンデンサの電荷が放電されます。TRIG端子の電圧が電源電圧の1/3(ここでは1.667V)まで低下すると、再びコンデンサCが充電されます。この動作を繰り返します。

OUT端子は、充電時にON、放電時にOFFになるように設計されているので、OUT端子の出力はON/OFFの繰り返し、つまり最大電圧が電源電圧(ここでは5V)、最小電圧が0Vの矩形波になります。回路上、充電時間のほうが長くなるので、ON時間はOFF時間よりも長くなります。

さて、ここでRa>>Rbにしてみます。時間をかけて充電して短時間で放電するので、のこぎり波っぽい波形になります。

Ra>>Rbのときの波形

このTRIG端子の電圧波形の差分を取り出して増幅すると、よりはっきりとしたのこぎり波っぽくなります。この波形でスピーカーを鳴らすというのが今回の回路です。

TRIG端子の電圧差分だけを抜き出して増幅する

回路図

今回はEAGLEからkiCadへの移行の練習ということで、kiCadで作成しました。下に回路図を示します。

タイマIC 555でのこぎり波っぽい音を出す回路図

前述の555の説明で述べたように、抵抗R1、R2、R3と可変抵抗VR1でのこぎり波の周波数が決まります。VR1が最小時に801Hz、最大時に1100Hzです。

TRIG端子(555の2ピン)の後のオペアンプ LM358Nが作動増幅回路です。ここでTRIG端子の電圧差を取り出します。作動「増幅」回路なので取り出した電圧を増幅するのが一般的な使い方ですが、ここでは増幅率1です(詳細は後述)。

「差動」の基準となる電圧は抵抗R5とR6で生成します。この抵抗の組み合わせでは1.634Vとなります。のこぎり波の最小電圧1.667Vを0Vまで引き下げることはできませんが、そこは気にしないことにします。

増幅率は抵抗R7と抵抗R8の比で決まります(抵抗R7と抵抗R9、抵抗R8と抵抗R10が同じ値という前提)が、ここではR7=R8=R9=R10なので増幅率1です。増幅は最後のM2047に任せます。

2段目のオペアンプはボルテージフォロワです。なくてもよいような気がしますが、余らせておくのはもったいないと思って入れました。

抵抗R11と可変抵抗VR2が音量調整用の抵抗です。M2073の出力がVcc=4.5V、RL=8ΩでTyp. 0.6Wなので、Vcc=5Vでもそのくらいだと仮定すると、出力電圧の最大値(差分)は6.5V程度になります(のこぎり波では電圧の実効値は最大値の1/√3倍)。M2073の閉ループゲインはTyp. 44dB(1kHz)≒160倍なので、LM358Nの最大出力1.667VをM2073入力側で最大40mVになるように調整するには、このくらいの抵抗の組み合わせとなります。実際には誤差や個体差がありますので、最終的なR11はトライ&エラーで決めています。

最後のオペアンプ M2073はオーディオアンプです。小型音響機器等向けの電力増幅器で、今回のようなスピーカーを鳴らすためのICだと思ってください。ここでは深く考えずに、M2073のデータシートに記載されているBTL動作の回路をそのまま使っています。

回路の製作

回路図から基板を設計します。前回の記事で作成したライブラリを使いました。幅66mm、高さ42mmの基板になりました。この基板を完成させるころにはKiCadに慣れてしまい、EAGLEの操作を忘れてしまうほどでした。KiCadへの移行という目的は果たしたといえるでしょう。

KiCad PCBエディターで作成した基板

基板の製作はPCBWayに依頼しました。ガーバーデータの出力方法はPCBWayのWebサイトにあります。

注文の翌日に出荷のお知らせがあり、それから2日後に私の手元に届きました。週末に注文すると次の週末には部品実装ができるので助かります。

基板(部品実装前)

EAGLEを利用していたときと同等の完成度だと思います。基板の発注という点でもKiCadへ移行できたと判断してよさそうです。

さて、基板に部品を実装して完成です。左下から出ている2本のすずめっき線は、動作確認のためにオシロスコープを接続する端子?です。

基板(部品実装後)

ちなみに、いつも発注している基板は厚さ1.6mmですが、この基板は厚さ1.2mmにしました。右上のUSBコネクタの足が短く、基板が厚いと基板の裏面に足がほとんど出てこないためです。

検証

可変抵抗VR1とVR2をそれぞれ中点付近に設定して電源を入れます。写真をよく見るとVR1は中点よりやや下ですが、ざっくりということで。

可変抵抗VR1とVR2を中点付近に設定

オシロスコープの波形はのこぎり波っぽく見えます。狙い通りの動作ですね。周波数が961kHz、Vppが4.20Vで、設計値の中に収まっています。

可変抵抗VR1を最大にしてみます。設計上は801Hzになるはずです。

可変抵抗VR1最大

測定値は806Hzです。まあまあ設計どおりですね。

可変抵抗VR1を最小にしてみます。設計値は1100Hzです。

可変抵抗VR1最小

測定値は1086Hzです。こちらもおおむね設計どおりです。

次に音量を上げてみましょう。可変抵抗VR2を最大にします。

可変抵抗VR2最大

Vppが7.36Vと大きくなりましたが、のこぎり波の山と谷が潰れており、M2073の動作範囲を超えているようです。そこでVR2を少し小さくします。

可変抵抗VR2を小さくする

Vppが7.18Vに下がりました。山は鋭くなりましたが谷が若干潰れているよう見えますので、VR2をさらに小さくしてみます。

可変抵抗VR2をさらに小さくする

Vppが6.16Vまで下がり、谷が鋭くなりました。これくらいがのこぎり波の波形を崩さない最大音量となるようです。Vppの最大値を6.5Vで見積もっていたので、これもおおよそ設計どおりです。

最後にVppについて考察します。ボルテージフォロワの出力が1.667Vppだとすると、これを抵抗R11 1kΩと可変抵抗VR2 50Ωの中点25Ωで分圧した場合、M2073への入力は1.667Vpp×25÷(1000+25+25)=0.04Vppになります。M2073の閉ループゲインはTyp. 44dB(1kHz)≒160倍なので、出力は0.04Vpp×160=6.4Vと見積もられます。写真ではVR2が中点から少しずれていますが、これもだいたい設計どおりとしてよいでしょう。

実際の音を公開できないのがもどかしいですが、下記のWebサイトで公開されているのこぎり波の音に最も近いです。まったく同じかと問われると微妙ですが、少なくとも正弦波や三角波、矩形波よりはのこぎり波に近いです。たぶん。

おわりに

KiCad移行とタイマIC 555でのこぎり波っぽい波形の音と出すという目的は両方とも達成することができました。

「はじめに」で述べたように今回の製作物は味見実験なので、これをベースに次の製作物へと発展させていこうと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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