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『麒麟が来る』配役の妙

NHK大河ドラマ『麒麟が来る』の放送も残すところ、あと4回。

あまりに寂しいので、2月7日以降、録画したのを第1回目から毎週観なおそうかと思うくらいです。

このドラマ、謎の多い明智光秀を描くという着眼点の良さ、脚本の面白さもさることながら、俳優さん達が役にぴたりと嵌り、まさに適材適所の配役の妙も大きな魅力でした。

今回は、主役の長谷川博己さんと後半の主要人物を演じる3人の俳優さん達について、私の思い入れも含めて書きたいと思います。どうぞ、お付き合いください。

ずっと、あなたが好きだった 長谷川博己さん

透明感のあるハンサムでスタイルが良くて、お芝居も上手い。アクションもできる。

長谷川博己さんは、言うことのない俳優さんですが、順風満帆に俳優となれた訳ではなかったそうです。

NHKのトーク番組で話してらしたのですが、まず、日本大学芸術学部を二浪するも合格せず、中央大学文学部に進みます。その後、文学座研究生を経て、座員となるのですが、座員となった人たちの中で長谷川さんだけ役がもらえなかったそうです。

今の活躍からすると信じられませんが、長谷川さんが持つ「透明感」が当時は「個性がない」と受け取られたのかもしれません。

ただ、役がもらえなかったお蔭で体が空き、蜷川幸雄さんの舞台に立つことができたということなので、これも運命だったのかもしれません。

ちなみに、私が初めて長谷川を知ったのは、2008年に放送された『四つの嘘』という大石静さん脚本のドラマでした。長谷川さんはこの作品がドラマデビューで、高島礼子さん演じる女医をストーカーする後輩医師という役どころでした。チョイ役とはいえ、無名の俳優さんにしては大抜擢だったと思います。ドラマの短いスポットCMでも全く無名の長谷川さん一人で写ってましたから。

ドラマ『ずっと、あなたが好きだった』の冬彦さんを彷彿とさせるような気持ちのわるーい役を長谷川さんはかっこよさを封印して演じていました。このため「気持ち悪い、こんな人、絶対好きにならんわ」と思っていたのですが、ドラマのラストで、高島さんの恋人に昇格し、その時は、かっこよさを解き放っていましたので、

  ズキュン

撃ち抜かれてしまいましたね、心を。また、気持ち悪いストーカーと、ラストのかっこよさとのギャップにもやられてしまいました。

その後も大石さん脚本のドラマ『ギネ 産婦人科の女たち』では、藤原紀香さんの元夫役を、そして鈴木京香さんの年下の恋人役を演じた『セカンドヴァージン』。このドラマによって長谷川さんは私生活の鈴木京香さんとの関係も話題となり一躍有名となります。

これらの大抜擢、大石静さんの意向もあったようです。長谷川さんは大石さんの好みのタイプで、長谷川さんの魅力を「見えなくなってしまいそうな透明感」とインタビューで答えてみえました。

『麒麟が来る』での本木雅弘さん、吉田剛太郎さんの「あなた様が主役でしたっけ?」という遠慮のない演技を可能にしたのも、この「透明感」のなせるわざだったのでしょう。

長谷川さんは、最初から主役になるようなデビューをした訳ではなく、努力と実力によって、少しずつ登りつめ、大河の主演俳優となった人なのです。

たまたま観たドラマに出ていて好きになった長谷川さん。ずっとあなたが好きだった……。もちろん、今も。

大河主演を務めるまで順風満帆とはいえなかった長谷川さん。能力がありながら長い不遇の時代を過ごし、その後、足利義昭や織田信長に見いだされ歴史の表舞台に躍り出た明智十兵衛は長谷川さんにぴったりです。

まさか、売れると思わなかった…… 滝藤賢一さん

足利義昭役の滝藤賢一さん。

2013年の『半沢直樹』で、注目を浴び、その後の活躍は目を見張るものがあります。それもその筈で、滝藤さんは仲代達也さん主宰の無名塾出身です。仲代達也さんが週刊文春の林真理子さんとの対談で言ってみえたのですが、才能のある人しか無名塾には入れないそうです。仲代さんの見込み違いだった場合は、本人にその旨を伝えて謝り無名塾をやめてもらうとのこと。

実は、私、滝藤さんがここまで売れるとは思っていませんでした。

前からよくドラマなどでお顔は拝見しており、それが何のドラマで、何の役だったかは思い出せないのですが、滝藤さんが画面に現れると、そっちに目がいってしまい、その理由が

「幸薄そうな顔だな。不幸な役が似合うな。」

というものでした。大変、失礼なのですが、こういう感じの人は売れないのじゃないかなと思っていました。

ひとえに、私の眼が節穴だったのです。

ちなみに、主演の長谷川さんとは同学年です。

滝藤さんも長谷川さん同様、売れるまでに時間がかかった俳優さんです。

そのお二人が大河で共演し、第36回『訣別』での、足利義昭と明智十兵衛とのラスト5分の二人のやりとりでは、お互いが今まで培ってきたものを全て出し切った!という演技でした。ドラマ上の義昭と十兵衛の関係の破たんするクライマックスと共に、花開くまで時間がかかった二人の実力のある俳優の演技の応酬としても楽しめました。

リアル北島マヤ 染谷将太くん

同学年の43歳長谷川博己さん、44歳滝藤賢一さんの向こうをはって立ちはだかる織田信長を演じる染谷将太くんはまだ28歳。ただ、2001年に9歳でデビューしていますから、キャリアは長く、今年で20年を迎えられます。

長谷川さんが文学座の研究生になったのが2001年で、滝藤賢一さんが無名塾に入塾したのは1998年ですから俳優としてのキャリアはほぼ変りません。

それどころか、国際的な評価を受けてからはお二人よりも長いといえます。2011年には、主演映画『ヒミズ』で共演した二階堂ふみさんとともに、日本人で初めてヴェネツィア国際映画祭最優秀新人賞にあたるマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞しているのです。

この時、まだ19歳。

その後も、主演も含めて映画、ドラマに多数出演されていますが、天才役が多いなという印象です。映画『バクマン。』では天才漫画家・新妻エイジ、連続テレビ小説『なつぞら』では宮崎駿がモデルと思われるアニメーター・神地航也(染谷将太)など、今回の信長も狂気と紙一重の天才として演じています。

これは、映画『寄生獣』で共演した東出昌大さんが『SWITCHインタビュー 達人達』出演時に言ってみえたのですが、染谷君は、撮影中はいるふりして演技をする寄生獣が「見える」ことがあったそうです。

そういう人、知ってる。それは『ガラスの仮面』の主人公演技の天才北島マヤです。

北島マヤがリアルにいた。

染谷君は演技の天才「リアル北島マヤ」といえるでしょう。

武士の棟梁足利家という出自は良くても苦労の上将軍になった足利義昭と、土岐源氏の流れをくむ明智家に生まれ、能力がありながら長い不遇の時代の末、歴史の表舞台に躍り出た明智十兵衛。その二人の前に立ちはだかる狂気と紙一重の天才織田信長。

これらの役を、無名塾出身で実力があるにも関わらず、なかなか日が当たらなかった滝藤賢一さん、名門文学座出身で容姿にも恵まれているのにも関わらず、大河主演まで順風満帆ではなかった長谷川博己さん、この二人に相対するのが、子役時代から主演を務め、10代で国際的な賞を受賞した天才染谷将太さんというのは、役柄ともあいまって、演技の仕方という視点で観ても面白いなあと思います。

天上の人 坂東玉三郎さま

この3人の魅力的な俳優さんたちを凌駕する人が演じなければ務まらない人物が登場しました。

それは、美しいものを象徴する存在として登場する正親町天皇。

凌駕する人、いました。

人間国宝そして「奇跡の女形」と称される歌舞伎俳優坂東玉三郎さまです。

ドラマ初出演の玉三郎さま。歌舞伎の世界から下界に降りてきてくださいました。

歌舞伎好きの私は、10代の頃から玉三郎さんの芝居、舞踊、トークショー、監督された映画に親しんできました。

コロナ禍で、ここ1年お芝居には行けていませんが、最後に劇場に足を運んだのが、昨年1月の玉三郎さまの舞踊公演でした。演目は「雪」、「阿古屋琴責」、「鐘ヶ崎」だったのですが、玉三郎さまは清らかな、でも妖艶な美しさで、踊りも踊っているようにみえないというと、変なのですが、違う世界に誘われるような感じなのです。

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ボケボケですが、会場の写真です。

玉三郎さんは、歌舞伎の舞台上でも、もちろん美しいのですが、トークショーの時の素の玉三郎さまも、美しくて優しいのです。心から、魂から美しい人、という気がします。

あまり知られていないかもしれませんが、玉三郎さまは梨園ー歌舞伎役者の家ーの生まれではありません。

小児麻痺に罹った玉三郎さまを、リハビリをするのには、好きなことが一番いいだろうと思われたご家族が、玉三郎さまの好きな日本舞踊を習わせたのが、歌舞伎役者になるきっかけでした。その後、才能を見込まれ、お子さんのいなかった歌舞伎役者十四代目守田勘弥の養子となったのです。

梨園の生まれでない人が主役級の役者になる事はまずありません。猿翁さん(香川照之さんのお父様)が、猿之助を名乗られていた頃は、ご自分の弟子の梨園出身でない役者さん達を主役に抜擢していましたが、それはあくまで、リベラルな考えを持っていた歌舞伎界きってのインテリ猿之助一座内だけのこと。それも、猿翁さんが病に倒れた後は、なくなってしまいました。何百人といる歌舞伎役者のなかで、戦後、梨園出身以外で主役級になったのは玉三郎さまと、『半沢直樹』で有名になった片岡愛之助さんだけ。こういったら、どれだけ稀有な存在かわかっていただけるかもしれません。

ちなみに、小児麻痺の後遺症で玉三郎さまの足の大きさは左右違うそうです。それを努力で克服して、女形の頂点を極めたのです。

類まれな資質と才能、そしてそれを上回る努力、心と魂の美しさ。

玉三郎さん自身が、美しいものを象徴する存在という気がします。

そして、もしや本能寺の黒幕はこの方では?正親町天皇のためならば、十兵衛は信長を裏切るのでは?という気もしてきましたので、やはり、玉三郎さましか演じきれないでしょう。

また、玉三郎さまは、主演の長谷川さんのお父様、建築評論家の故長谷川堯さんのお友達だったそうで、お二人が共演されたのも何かの導きだったのかもしれません。

『麒麟が来る』配役の妙を、長谷川博己さん、滝藤賢一さん、染谷将太君、坂東玉三郎さま4人の出演者についてでした。

滝藤賢一さんは、残念ながら役柄的にもう、登場されないと思います。

長谷川博己さん、染谷将太君そして坂東玉三郎さま。

実力派俳優、子役からの天才、そしてそれを凌駕する人。

この3人がどんなふうに本能寺の変へ向かうそれぞれの役を魅せてくれるのか、クライマックスに向けてドキドキします。

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