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クルーボートにおける視覚

こんにちは。
今回読んでいく論文はこちら

Kong PW, Tay CS, Pan JW. The Role of Vision in Maintaining Stroke Synchronization in K2 Crew-Boat Kayaking. Front Sports Act Living.

K2クルーボートのストロークシンクロにおける視覚の役割

今回はいわゆるチームボートという種目についてです。
カヌーもボートもそうですがシングル(一人乗り)とチームボート(2,4,8人ときには20人乗り)の種目があります。
チームボートは基本的にクルー全員の動きをぴったり合わせて漕ぎます。
その方が速いし力が出るからです。
ストリークのシンクロ(合わせ)の時にどれぐらい視覚が必要かというのがこの研究のテーマです。

☆研究の目的

クルーボートのシンクロの説明には主に2つの説があります。
①階層構造依存説(Hierarchical dependence structure theory)
各クルーは前のクルーの動きを真似をしているという説。
②コモンタイミングソース説(Common timing source theory)
動きのシンクロには内的な(運動感覚的な)フィードバックが必要であるという説。

前のクルーの真似をするだけだとしたら視覚への依存度は高いはずです。
運動感覚的な要素への依存が強ければ視覚を遮断しても(前のクルーの動きを見ずとも)シンクロできるはずです。

今回は後ろのクルーの視覚を遮断して(目を閉じさせて)パフォーマンスが落ちるかを確かめました。

☆方法

□被験者
シンガポールの16名の男女(男女8名ずつ)
参加条件、3つ全て必要
(1)シニアナショナルチームor育成チーム
(2)K1かK2のナショナル選手権で6位以内orナショナルチーム内のタイムトライアルで同等の記録をとっている
(3)研究前の3ヶ月は通常のトレーニングを行なっている。週25~30時間のトレーニングを行なっている。研究時点で健康で特に怪我や障害が無い。

全てのペアは同性同士で組ませ、男女ミックスは作らなかった(実際のレースと同じ)。

□手続き
300mダッシュ(20段階のRPE:主観的運動強度で15,16程度の強度)を2回行なった。
後ろのクルーは2回のうち1回を開眼、もう1回を閉眼で行った(どちらを先にやるかは組によって変えた、ランダム化)。
間の休憩は10分とった。
300mのうちペースが安定する最後の200mのみを分析に使った。
どれぐらいシンクロしているかは右側からハイスピードカメラで撮影し、ストロークの4局面(キャッチ、入水、抜き出し、リリース)の前後のずれを算出した。

☆結果


・全てのペアは転覆やストップが無く全ての試行を終えた。
・全ての被験者は指定のRPEで漕げた。
・条件の違い(開眼or閉眼)で200mのタイムやピッチ(ストロークレート)は大きな差は無かった。
・8組中4組は開眼の方が速く、2組はほぼ同じ、2組は閉眼の方が速かった。
・キャッチと入水の標準偏差(数値のばらつき)は閉眼より開眼の方で大きい。

☆結論


視覚を封じてもK2クルーボートのパフォーマンスは妨げられなかった。
よく訓練されたカヤック選手は視覚が封じられたら前庭覚、体性感覚、聴覚(パドルが水に触れる音など)に頼るようになる。

○感想


今回はペアについての研究でした。
個人的には意図的に目を閉じさせるドリルというのはやったこともやらせたことも無いのでやらせてみても良いのかなと思いました。
特に傾きを感じ取る能力や振動(他のクルーの蹴りなどから生じる)から動きやタイミングを計る能力は大事な気がします。

ただ要注意なのは目を閉じて漕ぐのが上手=速いとはならないことです。
合わせること自体が下手だとダメですが、後ろのクルーの目を閉じさせて上達するかは分かりません。
そのペアの個人の漕力を向上させることが必要かもしれませんし、どちらかの漕ぎを修正することが近道かもしれません。
もしくはチームボートにたくさん乗ること自体が必要かもしれません。

大事なのは選手自身の感覚センサーを磨くこととそれをきちんと動きに反映させる能力を作ることかと思います。
その過程にどういうドリルが必要かどういう体験をさせなければいけないかは取捨選択が必要です。

まあ頭でっかちにならずにとりあえず興味を持って取り組むのも良いかもしれません。
一度やってみて下さい。
ここまで読んで頂きありがとうございました。


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