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「ブロッコライズド」を読んで

私のイチ推し作家である吉田棒一さんの本「ブロッコライズド」を読んだ。

ブロッコライズド/吉田棒一


外見サイズは厚めの文庫本。厚めの文庫本な時点で読み応えがありそうだが、実際に読み始めるとMr.インクレディブルの赤ちゃんの特殊能力並に見た目と質量のバランスがおかしく内容がズシリと詰まっている。常日頃の吉田棒一さんのtweetで垣間見られる言葉の氷山の水面下部分はこんなにも膨大だったのか。内容はエッセイ的なもの、小説的なもの、詩的なもの、ジャンル分け不能なもの、つぶやき、など。

一行で終わる話もあるかと思えば、急に長く語り始める。散歩中の犬(戦闘員)と飼主(指揮官)の戦闘能力、指導力を判断する話が、ページをめくると延々続いて驚く。

ひとつのテーマ、ひとつの言葉にロックオンした時の唐突に始まる執拗な探究の集中力と粘着力の発露が破壊的である。
生物学者が生物を解剖するように、丁寧に、偏執狂的に言葉を解剖していく。抽出された言葉のばかばかしさが、かえって日本語の構造についての非常に価値のある真面目な考察なのではないかと疑わせる。

全ては「元気もりもりナンバーワン」を「元気」「もりもり」「ナンバー」「ワン」の四つに分けるところから始まる。この四分割された「元気」「もりもり」「ナンバー」「ワン」の全てを使い、二十四通りの組み合わせを作る。

元気もりもりナンバーワン
元気もりもりワンナンバー
元気ナンバーもりもりワン
元気ナンバーワンもりもり
元気ワンもりもりナンバー
元気ワンナンバーもりもり
もりもり元気ナンバーワン
  … 中略…
ワンもりもりナンバー元気

この二十四通りの組み合わせのうち、最も「良い」ものは果たしてどれなのか、その結論を出せた者はいない。中には、そもそも「良い」の定義づけができない者もいる。「『良い』と言われても……」などとハの字眉毛になられたところで、こっちが困ってしまう。賢明な読者諸氏が彼らのような愚物と同レベルでないことを望むばかりだが、議論を先に進めたい。

本書より

ここで読者にハの字眉になる隙も与えず論考が鮮やかに展開していく。

かと思えば詩人が詩人らしいことを言う。

「酒に酔うと、何百キロも離れたところにいる女の啜り泣きが聞こえたり、氷と氷の間に宇宙の真実が溶け出して見えることがある。足を一歩踏み出すと、世界が自分の後方に歩幅一歩分だけ移動していくのが感覚として分かるんだ。その時に見えるもの、たった今だけ目の前にあって、ほんの一瞬だけ垣間見えるもの、次の瞬間には忘れ去られ、完全に失われて二度と戻らないもの、それを記録している」

本書より

私は鳥好きなので、鳥についての話もあって嬉しかった。

鳥も嫌になる。まず飛ぶ。鳥は飛ぶ。何の道具も用いずに急に飛ぶ。すぐ飛ぶ。「飛びたい」と思った時にはもう飛んでいる。「さて」みたいな感じで飛ぶ。人間が飛ぶためにはかなり複雑な手続きが必要であることを考えると、異常なくらい気軽に飛ぶ。飛び過ぎる。しかもあの顔だ。
 …中略…
「飛ぶでしょ、普通」みたいな顔をしている。例えば鳥と登山をすることになったら、恐らく鳥は「じゃあ、行きましょうか」と言って自分だけサッと飛び立って、後ろも振り返らずに一人で頂上に辿り着き、あとから歩いてやってきた者に対して「なぜ飛ばないのですか」「飛ぶと楽ですよ」などと言い出すだろう。

本書より

鳥好きなので言うが、これはまったくその通りで、鳥に対する考察が正鵠を射ていて観察眼が流石である。

エキセントリックな文体は読者を選ぶし、あまり通好みに振り切れていると読み辛くなってしまうが、吉田棒一さんの書かれるものは、クールさと人間味が心地よく配合されていてすべて受け入れますと言う気持ちにさせられる。



まだまだ次の未読本が積まれているので引き続き味わっていこう思う。




私が吉田棒一さんにハマったきっかけ
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