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春の恋バナ祭り💠アンタレス

テルテルてる子さんの企画「春の恋バナ祭り」に参加させて頂きます💕




「これ、あげる」

差し出されたレンの手には、銀の鎖にブルーっぽい手作りレジン的な何かがぶら下がっていた。

「え、ありがと」

何で、とも何これ、とも訊かずとりあえず受け取っておいた。

ヒカリは高校3年生。受験も気になるが恋も気になる。隣のクラスのケイ君を、密かにカッコいいと思っている。
レンは後ろの席の男子だが、去年別れた彼女のことをまだ好きらしいともっぱらの噂で、ヒカリの恋愛対象ではなかった。


帰りのマックでヒカリは友達のマユとダベりながら、例のネックレスを取り出して見せた。

「なんかレンがくれたんだけど」

「へえ、そうなんだ。誕生日プレゼントじゃん」

「誕生日、昨日だよ。なんか間違えてんのかな」

「アイツ、昨日それ持ってたよ。ずっといじってて、なんなんだろうって思ってた。」

「……そうなんだ」


夜、自分の部屋でヒカリはスタンドの明かりにネックレスを透かしてみた。
菱形でブルーとグリーンの透明なグラデーションの中に、キラキラの粒が光って綺麗だった。

レンとジュンは、どちらもアーティスト気質な感じで、ちょっと変わってる同士お似合いのカップルだった。なんで別れたのかは知らない。
レンがこういうアクセサリーを手作りするのも知らなかったが、なかなかいいセンスだと思った。

「でも、なんで?」


とある放課後、ヒカリは廊下でレンが部活の後輩女子と話しているところに出くわした。たわい無い話をしているようだったが、後輩ちゃんの頬は紅潮しており、明らかにレンは憧れの先輩という体である。

そこへ、偶然ジュンが通りかかった。こちらに目を向けることもなく歩き去った。さながら天使が通り過ぎたような沈黙の後、レンが言った。

「今の、オレの元カノ」

はぁー?何言ってんの?
後輩ちゃん、薔薇色だった頬は真っ白になって、ジュンが去って行った方を見て言った。

「……そうなんですね」


受験生にもバレンタインデーは来る。
ヒカリはケイ君にあげるチョコを買いに行った。ケイ君のどこが好きなのかといえば、顔だ。クラスも部活も違って何の接点もないのに好きになったのは、顔がめちゃくちゃ好みだったからだ。
特設売場のハート型チョコレートにはメッセージを入れられるという。
「好きです。にしてください」


好きです。(顔が)


バレンタインデーにケイ君にチョコを渡して、どうなったかといえば、どうもならなかった。
そりゃそうだ。まったく知らん女子から急に告られて戸惑ったことだろう。
人生は少女漫画と違うのだ。



「そういやさ」

ふと後ろの席のレンに話しかける。

「あのネックレス、本当はジュンにあげるつもりだったんじゃないの?」

ジュンの誕生日はヒカリの1カ月前だ。

レンは少し首を傾げて言った。

「違うよ。ちゃんと蠍座が入ってるでしょ?」



その夜、ヒカリは仕舞い込んでいたネックレスを取り出して、またスタンドの光に透かしてみた。
自分の星座とはいえ蠍座がどんな形の星座なのか実はよく知らなかった。北斗七星ならわかるんだけどね……
よくみると、確かに細かい光の粒の中に大きめの粒で星座が作られていて、アンタレスが赤く光っていた。

「でも、なんで」


なんでもいい。高校生の恋バナなんて辻褄合わなくたっていい。顔が好きなだけで告ってみたり、よくわかんないけどプレゼントされてみたり。

ヒカリは、もらってから初めて、ネックレスを首にかけてみた。

鏡に映すと、アンタレスがイタズラっぽく光っていた。




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