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【ネコミミ花火】ストーリー|俺たちの夏

ネコミミ花火
一緒に観るとその恋は
絶対に叶うという!
心に秘めた
想いを伝えるのは今!

「ネコミミ花火」テーマソング



帰りの学活が終わって0.01秒で俺は教室を出る。
だがその日、0.02秒後に教室の中でクラスの女が言うのを俺の耳は確かに捉えた。
「ねぇ、ななみん。今日のネコミミ花火、一緒に行こうよ」
そして、0.03秒後には階段の一段目に達していたにもかかわらず、俺は特殊能力でななみんの返事を聞いた。
「いいよ」

今夜近くの河川敷でネコミミ花火があるということは知っていたが、もう家族で出かける年でもなく、クラスでは無色透明を徹底している俺に一緒にいく友達がいるわけもなく、関係ないと思っていた。

ななみん、行くんだ。

ネコミミ花火は「一緒に観るとその恋は絶対に叶う」と言われている。
一緒に観てる時点で叶ってんじゃん、と思っていたが、待てよ、「一緒に」の意味は、その場所にいればいいってことなんじゃないのか。



なんてことだ。花火に関心のない俺の家では、夕食時間が花火の時間と被っている。
食欲がないと言って抜け出そうかと思ったが、こんな日に限って俺の大好物の唐揚げだ。

俺は母親に尋ねた。
「串ってある?」
「串?ああ、串ね。よく料理の本に煮えたかどうか串で刺してみてって書いてあるけど、串ってそれ以外に使うことないのよね」
なんか喋ってる母親から串を受け取り、揚げたての唐揚げをグイグイと刺せるだけ刺すと、トーチのように掲げながら「ちょっと出かけてくる」と言って俺は家を出た。
その間、一度も母親と目を合わせなかったから、母親がどんな顔をしていたかはわからない。

俺は片手で唐揚げを食べながらチャリで河川敷に向かった。
手前の児童公園にチャリを停めて、串をゴミ箱に捨ててから河川敷まで歩いた。

会場は人でごった返している。ななみんがどこにいるかなんてわかるわけないし、わからなくてもいい。この場所に一緒にいればいいんだ。

俺はネコミミ花火を最初から最後までひとりで観た。
心はななみんと一緒さ。


花火が終わって人がゾロゾロ帰り出した時、奇跡が起こった。

ななみんとクラスの女にバッタリ会ったのだ。なんと浴衣姿だ。神様ありがとう。

「あれ」クラスの女
「山田じゃん」ななみん

嘘だろ。ななみん、無色透明な俺の名前覚えてるんだ。
俺は嬉しさと、ひとりで来てることがバレた恥ずかしさで耳が熱くなる。

ところが、ななみんの様子がおかしかった。眉をしかめて辛そうな顔をしている。

「どうかした?」
「足が超痛くて」

どうやら浴衣に合わせて履いてきた下駄の鼻緒で、足の指の間を擦りむいたらしい。
クラスの女の方は普通のサンダルだけど、ななみんはちゃんと下駄を履いて来たんだ、さすがななみん。

ここで絆創膏なんぞをスッと差し出せたらどんなによかっただろう。何も持っていない。
ななみんは、想像以上に痛いらしく、もう一歩も歩けないようだった。

俺は意を決して自分のクロックスを脱いだ。

「よかったらこれと交換する?」

男が裸足で履いてたサンダルなんて気持ち悪いに決まってる。だけどななみんは本当に痛かったんだと思う。ホッとした表情を見せて、「いいの?助かる」と喜んでくれた。
「でも山田、私の下駄履けないよね」
「なんとかなるよ、チャリで来てるし」
俺はななみんの下駄に無理矢理足の指を突っ込んでみたが歩ける気はしなかった。けどいいんだ。

「こんど返すね」
そう言ってななみんとクラスの女は帰って行った。

俺は確かに手応えを感じていた。

俺たちの夏が始まる。




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よろしくお願いします。

#ネコミミ村まつり


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