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KAGUYA



少女)私は此処に立っている。いくつもの影に囲まれて。私はたくさんの私を見つめている。私は見つめられている。たくさんの光の輪の中に私は一人でいて、 私は私を見ることが出来ない。私の姿は私に隠されたままで、私には何も見えない。私は一人。たった一人で私は此処にいて、他には誰もいない。誰も此処にはいなくて、たくさんの光と影が交錯しているだけ。此処に私はいない。いては、いけない。

影)行け!

少女)私の居場所はもう此処にはない、私の居場所はもう何処にもない、私にはもう後がない、帰れる場所がない――、

影)行け!

少女)振り向いてはならない。振り向いてはならない。覚悟を鈍らせてはならない。

影)行け!

少女)何処へ?

影)分からない。それでも行かなければならない。

少女)何故?

影)呼ばれているからだ。死にたくなければ、応えよ!

  ――応答セヨ。コチラ月ノ民。城ニハマダ姫ガイル。早ク迎エニ来イ。

  制限時間ハ4。――3、2、1、


 光の炸裂。暗転。

 薄ぼんやりとした中に、少女が横たわっている。明転。


少女)ふぁ~あ。おはよう、啓くん。今日も元気してた? (携帯にキスをする)私はね、今日も啓くんのこと大好きだよ。ディスラブイズフォーエヴァー。この愛よ永遠なれ!(といいつつ星条旗よ永遠なれ)……っは! てゆーかもうこんな時間? おかーさーん。おかーさーん。……あれー、いない? おかーさーん。……何これ。探さないで下さい……? おかーさん、またぁ!? また家出したのぉ!? これで何回目だよ、もう。しょうがないなぁ。……あ、パン発見。 いっただっきまーす。(食べる。携帯、鳴る)……む、むぐ!? ……はい、もしもし。……優乃、どうしたのこんな時間に。……休校? うっそマジで?(窓を見る)てゆーか何で? ……台風? (カーテンをめくる)……ホントだ。ホントに雨降ってる。えー、気付かなかった。……あー!! ってことは今日、啓くんと逢えないってことじゃん、どーしてくれんのよ優乃。……台風に言え? 台風の、バッカヤロー!! あれっ、台風って野郎で良かったっけ。外国だと女の人の名前じゃなかったっけ。……だよね。台風の、バッカ……野郎の対義語って何だっけ……台風の、クソアマー!! よし。ってよくないよ全然よくない、どうしよう優乃ー。私、啓くんと逢えなくなったら死んじゃうー。……え、大げさ? そうかなぁ。そうかなぁ……。……あ、そっか、そーだよね、優乃遠恋だもんね、そっちの方が辛いよね。……うん、そーだね。とりあえず連絡してみるよ。 じゃーねー。(切る。どこかに掛ける)……。寝てるのかなぁ。仕方ない、モーニングラインでも打っとくか。……啓くんへ。今日逢えなくて寂しいから、電話でいっぱいお話したいな。だからコレ見たらすぐに連絡してね。待ってるよー。……っと。……あー、もう、早く電話来ないかなぁ! ……。愛してるよーっ。(携帯、鳴る)あ! もしもし? ……。(切る)無言電話かよ。…あ、そーだ!(と言ってラジオを取り出してくる。チャンネルをいじる。天気予報)台風っていったらコレだよねー。……うん、おいしー。イチゴジャムパンはさ、やっぱジャムが重要だよね。ツブツブが多いやつ。少ないやつは色んなものを混ぜて薄めてあるから、甘くてベタベタするんだよねー。……賞味期限、昨日。おかーさんってば、賞味期限はちゃんと確認しておかなきゃ駄目だって言ってるのに。何回言っても分からないんだから。プラゴミと普通ゴミはちゃんと分ける、冷蔵庫は手早く閉める、夕飯のつまみ食いはしない! 常識でしょう! (びしっと客席を指差す)……こないだなんかね、部屋に籠りっきりで出てこないから大人しく原稿書いてるなぁーって思ってたら、セーラームーン1話目から観てたんだって! 200話まで観なくちゃいけないから邪魔しないで! じゃなくてさ、ちゃんと仕事しろっての。家事当番しょっちゅう忘れるし。表にして冷蔵庫に貼ってあるんだからちゃんと見やがれ。今日もどーせ〆切からの逃避行なんだろうし? 帰ってきたら部屋の中に閉じ込めとかなくちゃね、啓くん? (曲が流れている)……ねえ、この曲知ってる? シバの女王っていうんだよー。南の国からやってきた、クィーン・オブ・ザ・ソゥス。かっくぃーよねー。ウチの女王サマとは違ってさ。(携帯、鳴る)……あ! ……なあに優乃、何か用ですか? ……暇潰し? 何その理由、暇潰し? つまり私はあのプチプチやるヤツと同レベルってことですか? まあ確かに暇だけどさー。頭の良い優乃さまのことですから? 私はてっきり勉強でもなさってるのかと思いましたよ。……てか、暇だったら彼氏に連絡しなよ、なかなか逢えないんでしょ? ……何、今ケンカ中? どうして。……あー、確かにラインだと顔が見えないからね。ちょっとした言葉でも誤解招きやすいよね。だったら直接電話で話した方がいいんじゃない? ……うん。……うん、頑張れ。……私? 私はね、今から啓くんの連絡待ってるトコ。多分、まだ寝てるんじゃないかなぁ。啓くんはお寝坊さんだからねぇ。そーいえばさっきさぁ、無言電話掛かってきたよ。あるんだねー、スマホでも無言電話って。……何、死の電話? ……無言電話が1日に4回掛かってきたら死ぬ? 4回って、ただの語呂合わせじゃないの? それにストーカーとかだったら余裕で超す回数じゃん。……友達の友達の月子って子がホントに遭った。今でも行方不明。……それは嘘ですね、優乃さん。私はもう何回も聞きましたよ? 友達の友達が……ってヤツ。それと実名、月子ちゃん。どっちも信憑性を持たせて私を怖がらせるようっていう魂胆でしょう。……学習したね? 何度も同じ手に引っ掛かってたまるかー!! 春夏秋冬、年中無休で怪談を聞かされる立場になってもごらん? 頭おかしくなっちゃうよ! ……優乃の頭はもともとおかしいからいいの! 大体何? 3連続で数学100点取るとかって化け物でしょ! 私どっちも赤点だったのにぃ。って成績の話じゃなくてさぁ。……優乃ってさ、どっからそんな怖い話仕入れてくるワケ? やっぱネット? の、都市伝説サイト。それってさ、口裂け女とか百キロジジイとか人面犬とかも載ってんの? ……何、それって馬鹿にしてる? メジャーなヤツは別に大丈夫だよ、小学生じゃないんだ から。……あ、それ知ってる。宇宙のパワーって、電話すると「これから宇宙のパワーを送ります。あ~」って、ずーっと伸ばし続ける人だよね。こないだクラスで電話番号回ってた。それとさ、リカちゃんの番号っていうのもあるよね。あれはホントに出るって。ジェニーちゃんのもあったけど、今はもう閉鎖されてるんだよね。……ドッペルゲンガーの番号? え、何それ知らなーい。 ……えー、自分の声が聞こえてくるの? ヤダなぁ。だって、電話って他の人と話するものじゃん。自分と話したってどうしようもなくない? ……未来の電話。それも知らない。脳内にマイクロチップ……相手のことを思い浮かべるだけで繋がるの!? それ、ホントに出来たら超便利だねー。いつでもどこでも繋がれる。どこでもドアみたい。……ところで優乃さん、新作の方は書けたんですか? ……まだ構想中。そっかぁ。ウチの夢子さんも今書けてなくてね、今家出中。……そう、こんな雨なのにね。〆切近付く度に家出する癖、そろそろ止めて欲しいんだけど。職業病かなぁ。だからっていちいち家出するのは困るよね。子供じゃあるまいし。……でもまぁ、夢子サマだからねぇ。風に呼ばれたって言って浴衣着てふらふら~っと出掛けちゃったりするような人だから。……そういえばちゃんと傘持ってったかなー、大丈夫かなー? ついこないだなんかね、家出したまま帰ってこないから探しに行ったら、公園の土管の中で膝を抱えて丸くなってたんだよ? 雨降ってきたからって。てるてる坊主のてるちゃんまで作ってた。公園の土管は公共物なんだから吊るしちゃ駄目! って言ったけど、ちゃんと分かってるのかなぁー。また髪の毛で吊るそうとしてたりしないよね? 折角綺麗な髪なのに、勿体ない。……ところでさ、優乃って夢子さんの絵本読んだことある? ……ある? ねぇ、どんな感じだった? ……ああ、うん、実は私、まだ読んだことなかったりして……だって身内が書いたものだよ? 恥ずかしいじゃん! ……面白かった? ホントに? ……ありがと。でもさ、絵本って子供が読むものじゃない?そんな楽しめるものなの? ……偏見? そうかなぁ。そうかなぁ……ああ、本当は恐ろしいグリム童話? そんなのもあったね、この前優乃が読んでたヤツでしょ。子供には残酷過ぎるからって削除してた部分が復活したっていう……あれ、違ったけ? ……へー、全然違う話になるんだ。……うん。……うん。……へー、優乃って物知りだねぇ。(と言いつつ手が遊んでる)…あ、そうだ。今度四人でさ、ダブルデートしない? 私と啓くんと優乃と優乃の彼氏で。遊園地にでも行こうよ! 絶対楽しいって! ……だからさ、それまでに優乃は彼氏と仲直りしておくこと。約束だよ? ……うん。……うん。じゃーねー。(切る)……はー。優乃ってばああいう話になると長いんだから。フロなんとかとか、ユンなんとかとか、無意識だのアーなんとかタイプだの果てには月は鏡だとか石は人間だとか言い出すし。意味分かんない。……それより、ダブルデート楽しみだなー。……あーもうっ! 今から幸せ~。ねー、啓クン。きゃー。……そーだなー。まず最初はジェットコースターに乗って気分盛り上げて? あ、でも待ち時間長いかなぁ……でも開園直後だったらまだ空いてるよね、うん、そうしよ! それからそれからー、ソフトクリームを食べて、間接キス。なんちゃって! きゃー。それから色んなトコ回ってー、写真取ってー、お昼食べてー、お買い物してー、最後はやっぱ観覧車? 二人で入ってキレーな夕日眺めてー、それから、それからぁ……。ふふふー。ふふふふふー。あー、幸せ……。(携帯、鳴る)……もしもし? ……。 (切る)また無言電話? 本日二回目。四回来たら……ってダメダメ、考えちゃダメ! てゆーかあれは嘘! 優乃の作り話なんだからー。もー、ホント人を怖がらせるのが好きなんだから優乃ってば。アレは絶対Sだって。……ってことは、優乃の彼氏はMだったりするのかなぁ……でも、優乃にM男は似合わなさそーな気がするしなぁ。意外と優乃って彼氏にだけはMだったりして? ふっふっふー、今度優乃の彼氏にこっそり訊いてみよーっと。(ラジオをつける。白鳥の湖が流れてくる。歌うなり踊るなりしながらパソコンを持ってくる)夢子ちゃんのパソコン~。(ドラえもん風に)さー、開けましょー。さー、開けましょー。勝手に使ったら、お仕置きよ! って、ホントセーラームーン漬けなんだから……。(電源入れる)さてさて恒例の、デスクトップチェック! 夢子ちゃんの壁紙は一体どうなってるんでしょうか、ファンの皆様ご必見。……お。皆さんの方からは見えないかもしれませんが、こちら側からは赤い月と青い月が見えますよ。レッドムーンとブルームーン。ふーたり並んで澄まし顔ー。……ん? ブルームーンってどっかで聞いたことあるような……。分かんない。そんな時はとりあえず、何はともあれググりましょう。ブルームーン、検索っ。……ウィキペディアでいっか。んーと……「ブルームーンとは、いくつか存在し、『実際に青く見える月』や『ひと月に2回の満月』のことであったり、カクテルや薔薇の一種を指す」…へー、そーなんだー。「本来、大気中の塵の影響により月が青く見えたことを『ブルームーン』と言っていたが、1946年に『Sky & Telescope』誌の誤解により、ひと月のうち2回目の満月を『ブルームーン』と呼ぶようになった。このとき、特に1回目の満月を『ファーストムーン』、2回目の満月を『ブルームーン』と呼ぶ場合がある。『ブルームーン』は、断定は出来ないものの、3年ないし5年に1度の周期で起こる。また、大気中の塵の影響で月が本当に青く見えることもあり、これも「ブルームーン」と呼ばれる。例えば、1883年のインドネシアのクラカタウ火山の噴火後、約2年間は日没を緑に、月を青に変えたと言われる」……緑色の夕暮れって、ヘンなの!「このように、多くは火山の噴火、もしくは隕石の落下時に発生するガスや塵などの影響によって、かなり稀でいつ起こるか分からないものの、月が青く見えることがあるとわかった。また、『ブルームーン』を見ると幸せになれるという言い伝えがある」……とゆーことは、啓くんと見たら……。きゃ~!! 絶対っ! 絶対見たいんだけど!……いつあんのかなぁ。(といって他のページを見てみる)2020年10月31日…………って今年じゃん! ……見たいなー、ブルームーン。……ねぇ、啓くん。今年のブルームーンは絶対一緒に見ようね。絶対、絶対……。約束だよ。(携帯、鳴る)……またか。それで? 今度はどういったご用件でしょうか、優乃お嬢さま。……死の電話の注意点。この話を聞いた人には、死の電話がかかってきます? ちょっと、そーゆーの止めてよねー!  いくら作り話とはいえさ、私、今家に一人しかいないんだよ? 怖いじゃん! ……御愁傷様って、ちょっと優乃ー!  ……冗談? だよね、良かったー。もー、吃驚させないでよ。……あ。でも、さっきまた無言電話掛かってきたよ。何なんだろーね、一体。ワン切りの一種かな。掛け直すと変な所に繋がって、数日後、一千万円払えよゴラアって電話がひっきりなしに掛かってきて、暴力団とかがやってきて、ドアをドンドン叩きながら、(舌打ち)こちとら商売かかってんだよ、ああ? さっさとカネ寄こせ、つってんだろこのアマ。……なんだ嬢ちゃん、可愛いじゃねえか。いーアルバイト、紹介してやろうか? みたいな? ……偏見? そうかなぁ。そうかなぁ……。心当たり? 無いと思うけど……あ。もしかしたらあの子……他のクラスの……何ていったっけ。とにかくその子が私の啓くんに手ぇ出してきたから……そう、人の彼氏にだよ! だから私ちょっとムカついて、ハサミで髪の毛ザクザクザクッて切っちゃったんだよね。そしたら次の日から学校来なくなっちゃってさあ。……うん。ちょっとやりすぎたかなぁって思ってはいるよ。謝ってないけど。だって学校来なくなっちゃったし。連絡先知らないし。それに啓くんを盗ろうとしたことを反省してるとは到底思えないし。……あの子の一方的な片想いだったんだよ。 なのに啓くんに近付いてきて……だから許せなかったの。もしさ、無言電話があの子からの嫌がらせだったら、それって全然反省してないってことだよね。ってゆーか何で私の電話番号知ってるんだろ。ストーカーじゃん! ……まあ、無言電話だからね。害がないなら気にしなければいっか。続いたら警察に相談すればいいんだし。うん、そうしよ。……それでさ、遊園地! 遊園地行くの、今度の日曜にしよ! だからそれまでに優乃は彼氏と仲直りしておくこと。 いいね? ……え、なんだ、さっき仲直りしたの!? 優乃、良かったじゃん! じゃあ、不都合がなければ今度の日曜で。私も啓くんに言っとくから。……うん。じゃーねー。 (切る)啓くん、今度の日曜だって。絶対。絶対だよ……。私、お弁当用意するね。……そうだ私、お洒落して行かなくっちゃ。お洒落して行かなくっちゃ……。 (着替えに行く)ねえ、啓くんはどんなのがいい? どんなのが私似合う? 啓くんはどんな色が好き? 情熱的な赤? 知性的な青? 女の子らしいピンク? 明るくて元気な黄色? 自己主張の強いオレンジ? ミステリアスな紫? ネイチャーな緑? 都会的な黒? それとも清純な白? ……ねぇ、これなんかどう? 私似合ってる? (出てくる。くるりと回って見せる)素敵でしょ? ……あ、そーだ、さっき良いもの見付けたんだよ。(パソコンをいじる)ほら、このファイル。『Moon Gate』ってなってるでしょ? これってもしかしなくても夢子さんのだよねぇ。夢子さんには、内緒だよ? (開く。音楽が流れてくる)「――わたしはあるいている。ずっとずっとあるきつづけている。まちのなか。とおりすぎていくふうけい。たくさんのひとたちがいる。たくさんのひとやくるまがながれていく。くるくるまわるふうけい。ぐるぐるかわりつづけるまちなみ。ひとびとはみなあしばやにすぎさっていく。とおりすぎていくだけのふうけい。みんな、どこにむかっているんだろう? わたしにはわからない。わたしにはいくべきばしょもなければ、かえるべきばしょもない。だからわたしはあるきつづけている。わからないからあるきつづけている。わたしがいきたいばしょはどこ? それさえも、わからない。わからないけどあるきつづけている。だってわたしにはそれしかないから。 わたしはきょうもあるきつづけている――」さっすが夢子さん。全部ひらがな。「――あるいてもあるいても、おちてくるのはまぼろしのゆめばかり。(ヌキになり、夢子のように演じ始める)こんにちは、いいおてんきですね。わたしはかのじょにはなしかけた。せんたくびよりです。かのじょはわらってこたえてくれた。ぬすまれないの。だいじょうぶ、おつきさまがみていてくれるから。わたしはおそらをみあげた。うかんでいるのはまんまるの、あおくあおくひかるつき。 あおいつきはないている。どうして? あなたが。どうして? わたしが。ここにいるりゆうはなに? わたしには、わからない」「――ゆめをみていた。ゆめにみられていた。わたしがいるのは、まどのむこうのもうひとつのまち。もうひとつのせかい。てをのばせばとどきそうなほどにちかいばしょ。けれどいちばんとおいばしょ。どこにもなくて、どこにでもある。ねおんいろのまちなみはくるくるとまわりつづけて、わたしはわたしをさがしつづける。まどろみのまち。まどろみのせかい。それはわたしのかえるばしょ。だからわたしはきょうもみしらぬまちをあるきつづける。わたしはわたしをうしないながら、ずっとわたしをさがしつづけている――』(地明かり、つく)……あれ? ここで終わり? まさか夢子さん、これで外に出て行っちゃったのかなぁ。〆切から逃げ出したんじゃなくて、何かを探しに行ったていうこと?(携帯、鳴る)……。(出ずに切る)あと1回で……(首を振る)アレは嘘。優乃の作り話なんだから! (ラジオをいじる。着信アリの音楽)……何だってもう、こんな時に! お化けなんてなーいさ、お化けなんて嘘さ、寝ぼけたひーとが、見間違えたーのさ♪ ……そう、 あれは嘘なのです。嘘なのだよワトソン君。考えてもみたまえ。21世紀のこの時代、幽霊なんて非科学的なモノがいる訳ないじゃないか! だからコレは人為的なものだ。考えられるケースは2つ。見知らぬ誰かがたまたま私の番号にイタズラで掛けてきているか、もしくは知っている誰かが何らかの意図をもって行っているか、そのどちらかしかない。前者は放っておいて良いとしても、後者の場合、最も怪しいのはあの人物……私に対して恨みを抱いていると考えられるストーカー女。いや、もしかすると優乃かもしれない。彼女は私を怖がらせようとしている……その為にワザワザ無言電話を掛けた。そのどちらなのかは……履歴を見れば分かる、ハズ! ……あれ? ない……。(スマホを閉じる。何かが鳴り出す。ビクッとする)……何だ、目覚ましか……。おかーさん、時間間違えたな? (止めてくる。ついでにシーツを持ってきて、羽織る)……怖くなんか、ないんだからね? そろそろ、あの曲も終わったよね。 (ラジオをいじる)


――応答セヨ。コチラ月ノ民。城ニハマダ姫ガイル。早ク迎エニ来イ。応答セヨ。コチラ月ノ民。城ニハマダ姫ガイル。早ク迎エニ来イ。応答セヨ……。


少女)……何。何コレぇ!(消す。お化けなんてないさの鼻歌)


 落雷。


少女)いゃー!! ヤダヤダヤダ、やっぱ怖い、怖いって! (電話を掛ける)……ねえもしもし優乃? 今もの凄い雷鳴ったでしょ? 怖いからちょっと話相手になってくんない? ……ねえ、優乃? ……優乃? ……あーよかった、いるならちゃんと返事してよね、優乃。……何、どうしたの? ……友達の友達の月子は死んだけど、都市伝説として生きている……? 何それ。また怖い話の続き? 止めてよ、怖い話はヤダって言ってるじゃん。優乃……?


――応答セヨ。コチラ月ノ民。城ニハマダ姫ガイル。早ク迎エニ来イ。制限時間ハ4――3、2 、1、


少女)……!(切る。また別のところに掛ける)……もしもし啓くん? 起きてるんなら電話してよね、私ずっと待ってたんだから。……啓くん。ねえ啓くん?


 沈黙。切る。


少女)……。


 携帯、鳴る。電源を切る。ラジオ鳴り出す。消す。携帯とラジオが同時に鳴り出す。携帯を止めた後、ラジオを消す。立ち上がってケータイとラジオを片付ける。パソコンも片付ける。シーツにくるまる。


少女)……。


 家の電話が鳴る。耳を塞ぐ。携帯、ラジオ、目覚ましまで鳴り出す。音の氾濫。

 ――落雷。停電。暗闇の中、携帯だけが鳴っている。やがて止まる。


少女)……あなた、誰? ……私は、誰……。

影)姫!


 バッと明かりがつく。中央に携帯を持った少女が立っている。その周りをぐるりと取り囲む影たち。


少女)……もしもし。私、月子。私、啓くんにフラれちゃったんだよ、あんたのせいで。今からあんたのこと殺しに行くから、待っててね。


 幕



啓くん→かいりくん
月子→みちる

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