トマト

夏合宿 #5 (シナリオ)

#1 ~#4はコチラ https://note.mu/candycandy/m/m153c52b2cf20

合宿4日目の朝、音楽合宿施設キャメロットの食堂。みんな眠そうな顔で朝食をとっている。サークル代表の林が今後のスケジュールを話し出す。

「えー、食べながら聞いて下さい。今日はこの後、宴会会場の熱海に移動します。出発は10時半です。それまでに機材はバスに運んで下さい。自分の車で来ている人も同様にお願いします」

みんな「はーい」

場面変わって6号室。ヒカリ、アキ、ヤヤ、ナッチが荷物整理をしている。

ナッチ「楽しかったねー」
ヤヤ「あっという間だったね」
アキ「そうかな。3日間でスタジオ17時間は長かったよ」
ヒカリ「アキは飲みっぱなしだったから長く感じたんじゃない?」
アキ「何おぉ?」
一同「ハハハハハ」

そこへ天海が現れる。右肩にベースを掛け、左手にMTRを持っている。

天海「邪魔するぞ。ヒカリちゃん、預かってるMTR、俺の車に積んどくから」
ヒカリ「あ、私もシンセ運んじゃいます。少々お待ちを」

ヒカリはあわててシンセのケースのチャックを締めて立ち上がる。ヒカリ、同期3人に軽く「じゃ」と言って部屋を出る。

場面変わって廊下。天海とヒカリが並んで歩いている。天海、ヒカリを見下ろして声をかける。

天海「シンセ、持とうか?」
ヒカリ「大丈夫です」
天海「ホント?それ以上背が縮んだら大変だよ」
ヒカリ「ムッ」

二人の前方から2年女子がやってくる。手には歯磨きセットとタオルを持っている。先頭の2年女子AとBは、天海とヒカリに気付き、ガンを飛ばす。

2年女子A「廊下いっぱいに広がって歩かないでくださーい」
2年女子B「邪魔、邪魔」
ヒカリ「あ、すみません」

ヒカリ、天海の後ろに隠れる。2年女子A、B、C、続いてユリが、二人の横をゆっくりと通り過ぎる。すれ違いざま、天海とユリは「よっ」「ども」と声をかけあう。

天海「ちょっとした源氏物語だったな」
ヒカリ「葵の上と六条の御息所?」
天海「お、さすが」
ヒカリ「ついこの前まで受験勉強してましたから」

場面変わって駐車場。天海、車のトランクにシンセとMTRを置いている。後ろからヒカリが声をかける。

ヒカリ「天海先輩」
天海「なんだ?」
ヒカリ「熱海まではバスで行こうと思います」
天海「え?なんで?俺、なんか失礼なことしたか?」
ヒカリ「いや、そうじゃなくて…。今、アキの恋愛相談を受けているんです」
天海「あの呑み助が恋愛だとぉ?それは面白いな」
ヒカリ「でしょう。だからバスで隣に座っていろいろ聞き出そうかと思って」

天海、腰を少しかがめてヒカリの目をのぞき込む。

天海「よーし。わかった。後でその面白い話、報告しろよ。ってことはだ、俺は一人で熱海までドライブか。グスン」
ヒカリ「あ、1年男子のA君が天海先輩とお話したがっていました。乗せてあげたら喜ぶかも」
天海「それも気持ち悪いな。江川でも誘うわ」

場面変わって発車を待つバスの中。ヒカリは窓際に座っている。窓の外、眼下には天海の車。隣の座席ではアキが既に寝息を立てている。2年女子が乗り込んでくる。

2年女子A「一番後ろにしよう。広いから」
2年女子B「異議なーし」

2年女子、ぞろぞろと後部座席に歩いて行く。ユリがヒカリに気付く。一瞬顔をしかめる。その後ろから代表の林が顔を出す。林はバスに乗っている面々の確認をしている。

「11、12、13、14、あれ?ヒカリちゃんは天海の車じゃないの?」
ヒカリ「熱海まではバスで行くことにしました」
「…? そうなんだ」

ヒカリ、窓の外に目を移す。天海の車に江川が乗り込むのが見える。バスがゆっくりと動き出す。ヒカリはイヤホンを耳にねじ込んでウォークマンのスイッチをオンにする。

♪10円でゴーメンね♪

種ともこが流れ出す。

(つづく)

★★★ ★★★ ★★★

1986年夏、とある音楽サークルの5日間。ノンフィクションではありません。