がんと移動の関係を考えるインタビューVol.5~一般社団法人WheeLog代表CEO織田友理子さん~
CancerXモビリティnoteでは、色々な方々に「がんと移動」をテーマにお話を伺います。5 回目の今回は、一般社団法人WheeLog*¹代表 CEO 織田友理子さんにお話を伺いました。
NPO法人PADM*²(遠位型ミオパチー患者会)代表・車椅子ウォーカー代表など「車椅子でもあきらめない世界」を目指し日々活動をされている友理子さんですが、なぜWheeLog!アプリを立ち上げたのか。どんな世の中を目指して、活動しているのかお話しをお伺いしました。
*¹ https://wheelog.com/hp/mission
「一人の力は小さいけどみんなの想い・気持ち・声が集まっていけば成し遂げられないことはない!」という想いから色々な活動をされています。
きっかけはNPO法人PADMの活動。車椅子でも本当に色々なところに行けるのです
ーーーWheeLog!を作ったきっかけや活動の原動力とはどの様なものなのでしょうか?
大学4年生の時に遠位型ミオパチーと診断を受けました。日本国内には数百人ほどしかいないとされるウルトラオーファン(超希少疾病)にあたることがわかりました。有効な治療法が無かったので2008年に患者会「PADM遠位型ミオパチー患者会(現:NPO法人 PADM*)」を立ち上げ活動をはじめました。ちょうど良いタイミングで治療につながる有効性のある論文が発表され、とても喜んだのですがウルトラオーファンであるため簡単には薬の開発に繋がらない現実も知りました。
そこで国立精神・神経医療研究センター(病院)の先生がたのご理解とご協力も得て、さらに議員にも働きかけて204万筆の署名とともに国に要望を出しました。この署名活動がウルトラオーファンドラッグの開発制度を創設するきっかけとなりました。こうした活動が自分たち以外の難病(希少疾患)で困っている人達にとっても役立つ事を願っています。自分たちだけが恩恵を受けられる活動にならないよう気をつけています。 私の周りには協力してくれる人もいるし、とても恵まれていると思います。だからこそ「感謝の気持ち」を忘れずにいたいです。「人が作ったものは変えられる」はずなので、自分たちの活動は社会に還元していきたい世の中を変えていきたいという想いが原動力となっています。
WheeLog!アプリを作ろうと思ったのは、患者会活動で車椅子を使って色々なところへ出かけている時に、「あれ?結構いろんなところに行けるんだ!」と気づいたのがきっかけでした。絶対に行けないと思っていた海でも、実はちゃんと整備が出来ているビーチもあって、その情報に辿り着ける事と協力してくださる方がいることで、車椅子でも日々の活動はとても豊かになると実感しました。
行く事ができる!という事がわかった時に「車いすでもあきらめない世界」であってほしい、一方向のみの情報提供ではなく、みんなで作っていけるアプリを作りたくてWheeLog!を作りました。2015年のGoogleインパクトチャレンジでグランプリ(賞金5,000万円)をいただけたことはとても大きかったです。みんなで常に情報を入れながら日々の活動を豊かにしていけるアプリになればと思います。
2015年にはGoogleインパクトチャレンジでグランプリを受賞
アプリを作る上で気をつけていること・参加方法は?
ーーーマップを作る上で苦労した事や気をつけている事はありますか?
障害者だけに閉じられた活動にしない事、全ての方が参加できる様なオープンな場にしていく事です。心のバリアフリーに挑戦して行くため、社会を変えて行くために、障害者だけではなく全ての方に活動に参加してもらえる様に呼びかけています。
あと、車椅子の方が外出して自慢しているような印象の投稿アプリとならない様に気を配っています。その上で、「誰かの行けた」が「誰かの行きたい」に繋がると良いなと願っています。「行きたいな」という想いを糧にリハビリを頑張れたり、「誰かのためになる」事を励みに外出してもらえたり、そんな「希望」の持てるアプリとして利用して欲しいです。
外に出ることで他の人を煩わせるのではなく、あなたが動くことで世の中に貢献できる。壁にぶつかるという事は潜在的な問題を顕在化出来たこと、その経験が未来につながるという事を実感していただきたいです。
WheeLog!はバリアフリー情報の投稿だけを行うアプリではなく「つぶやき」や「Whee!(いいね!ボタンの様なもの)」というSNS的な機能をつける事で、交流する場としての機能も盛り込み、アプリを開くのが楽しみになる様な工夫をしています。やはりレストランやトイレは人気があってみんなで議論していますね。
ーーー全ての方が参加できるオープンな場となっているそうですが、車椅子を使っていない人(歩ける人)はどんな投稿で協力できますか?
車椅子ユーザーが行けなくは無いのだけど、辿り着くのに時間や労力の伴う場所や、誰が見てもバリアフリーとわかる場所、例えば多目的トイレ・エレベーター・間口の広いお店などを投稿してもらいたいです。あと、つぶやきなどで色々な事を話し合う輪の中にも入ってもらいたいですね。
アプリから現実世界を変えて行く
WheeLog!を使ってみんなが繋がり、明るい気持ちにしていくことも重要ですが、私の役割は現実社会でリアルにバリアフリーになったという事を実感してもらう事だと思っています。ですので、国土交通省や観光庁、議員の方などにも働きかけています。
地形上で斜面などがあるのは仕方ないのですが、人の手を入れて作るものはバリアフリーを考えて作れると思いますし、それを進めていくのは行政の役割だと感じています。例えば横浜の石畳などは、景観は美しいですが、車椅子やベビーカーでとても移動しづらいので、その横に凹凸の少ない車いすが通れる幅くらいの歩道を整備するなど、外観を損なわずにできるはずなので、そうした事を行政に提案しています。
2017年5月 『WheeLog!』アプリのリリース発表会
『みんなでつくる 世界で一番あたたかい地図』づくりが始まる
ーーー雨の日などや荷物が多い時に困る事やこういうサービスがあったらいいなという様な事はありますか?
雨の日などは、車で移動する方は駐車場からすぐ屋根がある場所があると濡れずに移動できるので、情報としてまとめられるといいのかもしれないですね。また、ずっと頭の上をついて来るドローンの様な傘、屋根付きの車椅子などができて来るといいですね。荷物に関しては自分ではなるべく移動先に郵送するなどで対応していますが、車椅子についてくる様なトランクなども開発されているので、テクノロジーが進化して行く事でもっと暮らし易くなると思います。また、こんなものがあるといいね、というのを考えるのも楽しいですね。
色々な組織とのコラボレーション
ーーーWheeLog!のアプリケーションの中に他の領域の人たちが一緒にやりたいという時はどの様な関わり方が出来るのでしょうか?
オープンデータとして提供してもらえる形になっていれば、これまでも使用させていただいた事例はあります。ですので、例えばがん患者さんが必要としているデータがありましたら、それを教えてもらえれば入れていきたいです。また、アプリだと使いこなすのが難しい高齢者の方にも情報を活用してもらいやすいように、紙の地図も検討しています。実際に今、クラウドファンディングを活用し、横浜中華街で紙の地図を作る企画を進めています。急に車椅子になってしまった方々にも、車椅子になったらどこにも行けないと悩む期間を短くして、悩みを浅くしていきたい。より多くの方々と協力しながら、横展開していきたいです。
地図を作るために欠かせない現地調査はイベントのチームみんなで楽しみながら
ーーー具体的にはがん治療中は出かけた先でも横になって休憩したくて車に戻っている人たちや、味覚障害で塩分調整などレストランに行った際に対応してくれるのか?といった移動先の課題を抱えている方々がいるので、一緒に商業施設の研修などができないでしょうか?
観光庁から委託を受けて、とろみ食なども含めたバリアフリー対応について調べた時に、もっと情報を集めないといけないと感じました。ただ、自分が専門でない分野はわからないので、是非情報共有しながら掛け合わせていければと思います。研修なども一緒にできればと思います。
今後の展望
ーーー今後さらにWheeLog!でどんな事を実現していきたいですか?
大きな目標としては2つあり、1つは中学校など学校教育の教科に組み込んでいきたいです。先生が使いやすい資材を作ることで「おすみつき」をもらうと、使ってもらえる様になるのであれば、そういうところへも働きかけていきたいです。当事者の方々にWheeLog!があることによってバリアフリー化が進んだね、と思ってもらえる様な活動をしていきたいです。
もう1つは衛星「みちびき」を活用してみたいです。車椅子で通ったところを視覚障害者の点字ブロックの様にしていきたいです。
どんな状況であっても、社会と繋がりを持ちながら、希望が持てるように、みんながしたい事を叶えられる未来の実現・働き続けられる社会の実現に向けて活動していきたいですね。
感謝の気持ちを忘れず社会に還元していきたいと前向きに活動されている友理子さんからとても元気をもらいました。
「一人の力は小さいけどみんなの想い・気持ち・声が集まっていけば成し遂げられないことはない!」本当にその通りだと思います。これからもより良い社会の実現に向けて私たちも頑張っていきたい。一緒に活動していきたいと思いました。ありがとうございました!
2019年11月ドバイで開催された「プレ万博(ドバイ国際博覧会)」にて『グローバル・イノベーター』に選出『車いすでもあきらめない世界』へ (※『2020年ドバイ国際博覧会』は新会期を2021年10月1日~2022年3月31日に再設定をして開催予定)