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CancerX Story 〜入江佳子編〜

CancerXメンバーがリレー方式で綴る「CancerX Story」
第9回はCancerX理事の入江佳子です。

1)私のキャンサーストーリー 


大学1年の初めての実習で担当した悪性リンパ腫の男性との出会いからスタートしました。寡黙なおじいさんでしたが、病気が分かってから考えたこと、困ったこと、治療に対する想い、仕事やご家族の心配など丁寧に語って下さいました。

ボサッとしている私に「あなたの世話になりたいって頼られる看護師さんになりなさい」と優しく言葉をかけて下さった翌日に容態が急変して、強い痛みと苦痛で鎮静されて間もなく他界されました。

実習中に大号泣していると奥様が「お父さんがあの子は心配だなって言っていた学生さんね。一人前になるまでは見届けられないなって残念がっていたのよ」と教えて下さいました。

その後、教員を経験して5年ぶりに臨床現場に戻ったときに、痛みや不安、治療の副作用など多くの苦痛を抱えるがん患者さんに数多く出会い、医療は日進月歩と言われているのに、患者さんの苦痛はなかなか和らいでいない
ことを痛感しました。

患者さんの大切な時間をもっと良い時間しなければ!
自分にできることはないのか!
と思い、がん看護のスペシャリストを目指しました。

がん患者さんのつらさはご自身にしか分からないことが多く、感じ方や生活への影響は様々です。対処方法は教科書で学べても、患者さんの苦痛は教えていただかなければ医療者は適する手だてを見つけられないので、患者さんとの関係性づくりやコミュニケーションをはとても大切だと思っています。

また、患者さんに良いケアを提供するためにも医療者間のコミュニケーションやチームづくりが大切だと感じて、Japan Team Oncology Program(J-TOP)に参加し、がんチーム医療の教育にも携わり、現在は、医療者のサポートを行ないながら、患者さんのケアやシステム作りなどを行っています。


抗がん剤の副作用で末梢神経障害のある患者さんが「できないと思うことほど時間をかけて
頑張ると、元気なときより素敵にできたの」と創ってくれたビーズ細工の指輪。

2)CancerXに参加したきっかけ 


仕事上では患者さんのケア、医療者の相談対応や教育などをしていますが、自分で解決できることは少ないと感じています。患者さんや周りの方々の困りごとを解決したり、多くの方が安心してがんの療養ができるような世の中にするためには、病院のイチ看護師として“はたらく”だけでは近づけないと思いました。

「自分の知識やスキルをもっと広く役立てたい」「社会でも活動をしながらもっと成長したい」と考えていたところに、J-TOPのファウンダーであり、CancerX共同代表理事でもある上野直人先生のSNSでCancerXボランティア募集を見つけ、「がんのことでおもしろそうなことをやっている人たちがいる」と思い、その日のうちに申し込みました。

そして、2020年の第2回のサミットからボランティアとして参加するようになり、2022年からは社員として参加しています。

CancerXのメンバーはとてもユニークでエネルギーに溢れた方が多く、狭い医療業界にいると思いつかないようなことやワクワクすることでいっぱいです。

病院の中では数少ない専門家として少し肩肘張って頑張ってしまう部分がありますが、多様性を大切にするCancerXでは素の自分でいられるのも心地よく感じています。

外来化学療法室移転記念に患者さん、ご家族、医療者で作成したタペストリー(160×200cm)
治療卒業などの記念写真スポットになっています。災害時には保温マットになります。

3)今後の展望


患者さんへのケアをレベルアップできることとともに、患者さんに関わるがん医療従事者のサポートにも力を入れています。

たくさん勉強して知識・技術を身につけても、一生懸命患者さんのケアをしよう、良いチーム作りをしよう、もっと研究をして最新のエビデンスを創出したい、と思っても、1人の力でできることは本当にわずかです。

がん医療のリソースが十分でなく、常に人手不足の医療現場では、多くの医療者は負担感を感じながらも、もっと良いケアをしようと頑張っています。

がん患者さんに関わる医療従事者が、たくさんの患者さんにより良い医療ケアが提供できるように、最新の知識・技術を習得し、安心して力を発揮できるチーム医療ができる環境が創れることを目指して、院内外で様々な形でのがん医療従事者教育を行ない、負担感を減らせる工夫を続けて行きたいと考えます。

医療従事者を育てるのは先生や先輩の医師や看護師だけでなく、患者さんを含むいろいろな役割の人の知見や経験が必要だと考えます。たくさんの方の力を借りながら、どんな世代でも役割でも多様な形で最新のがん医療やチーム医療について学べる機会を提供することと、患者さんや一般の方々も学びの機会を持てるように取り組んでいきたいと考えます。

まだまだ修行中ですが、少しでも頼りにしてもらえる専門家を目指しながら、患者さんや皆さまから教えていただいたたくさんのことを、多くの医療従事者が活用して、患者さんに良いケアが提供できる、という循環をつくり、がんと言われても動揺しない社会づくりの一端を活性化できるといいな、と思っています。

プロフィール

入江 佳子(Yoshiko Irie)

2007年より筑波大学附属病院勤務。同年緩和ケア認定看護師、2012年がん看護専門看護師取得。外来化学療法、緩和ケアセンターの勤務を経て、2022年4月より総合がん診療センターに所属。がん患者サポート外来のシステム構築やがんゲノムコーディネーターとして活動する傍ら、院内外のがん医療従事者教育、研究支援、院内化学療法の運営に従事。専門はがん化学療法看護、緩和ケア、意志決定支援、チーム医療。

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