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真夏の朝の拾い物

かつて1年ほど通った着物教室のHPを開いたら、いつの間にか校舎が移転していた。

私が通っていた時も移転したのだが、その後、また移転したようだ。

以前は縁があった場所でも、行かなくなってしまうと関心を持たなくなってしまうものだが、たまに振り返ってみると、新たな発見があったりする。

まさにその教室に通っていた時のこと。

あれは真夏の朝だった。

バス停に向かっていると、道路脇を何やら白いものが歩いていた。

当時はヒドい近視で良く見えなかったのだが、何かフワフワとしたティッシュのようなものが、頼りない不安いっぱいの声を上げていた。

近づいてよく見ると、白い子猫だった。

ちょうど朝の混む時間帯で、すぐ傍の道路を車がひっきりなしに通っていた。

しばらく見ていたら、その子猫が道路の方に向かってしまった。

『危ない!』と思い、とっさに拾い上げたのが、ヘッダー画像の子猫だ。

これが、新しい飼い主さんの元に行くまでの約1ヶ月、実家で世話をすることになった白(ハク←子猫の名)との出会いだった。

真向かいから歩いて来た人が『何を拾ったんだろう?』と不思議そうにコチラを見ていたのを覚えている。

『帰りならともかく、行きでは困ったなあ…着物教室に猫を連れては行けないし…』と道路下の草村に子猫を置いた。

とりあえず陽射しを遮り、車の来ない安全な場所だ。

鳴き続ける子猫に後ろ髪を引かれる思いで、急いで着物教室に向かった。

それから6時間近く後の帰り道、子猫を置いた場所に行くと、子猫がいない。

草村をガサガサ探し回っていると、ニャーニャーと鳴き声がした。

真夏だったので、あまり草村に入りたくはなかったが、子猫のためと意を決し、高く生い茂った草をかき分け、やっとのことで子猫を見つけ出した。

早速近くの動物病院へ。そこで白い子猫は一躍注目の的に! その時、待合室にいた『患者さん』はすべて犬だった。

しばらくして、近所に飼い猫を亡くしたばかりで悲しんでいる人がいることを知り、子猫は貰われて行くことになった。

子猫が悲しみを癒す存在になってくれたのなら、それに越したことはない。

後に、左右で目の色が異なっていた子猫の視力が、あまり良くなかったと知ることになる。

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そして、耳もあまり良くなかったと聞き、あの朝、車で混雑していた道路脇を歩いていた理由が分かった。

聞こえないから恐くなかったのだ。

子猫に振り回されたあの日は、真夏の思い出の1ページだ。

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