奇跡の『ラ・カンパネラ』
『ラ・カンパネラ』とはイタリア語で『鐘』の意味だという。
10年近く前、ある大きなコンサートホールで、世界で最難曲と言われる『ラ・カンパネラ』のピアノ演奏をライブで聴いた。
複雑に織り成すこの曲を、一音一音丁寧に弾いていく。
・若い頃の叶わなかった恋。
・異国での極貧生活と差別。
・ピアニストとしての生命を絶たれるほどの難聴との闘い。
・ピアノの代わりに慰めだった絵を描く時間。
・復帰後の大勢の観客からの絶え間ない拍手。
・家族のように一緒に暮らしている猫たち
波乱万丈だった軌跡。
それら全ての思いを曲に込め、まるでそこだけ切り取ったかのような、あの『ラ・カンパネラ』の演奏時間。
先日、フジコ・ヘミングさんの訃報が流れ、咄嗟に思い出したあの日の演奏。
特に印象に残っているラストの一曲『ラ・カンパネラ』。
「この曲には自分のすべてが出る。普段の生活、今までの人生や生き方など。」というようなことをTVで話されていた。
「あの世でショパンに会って、私の演奏を聴いて貰いたい。一体何て言うかしら?」と仰っていたフジコさん。
演奏が終わり、最後に観客に微笑んだ時のお姿を今でもよく憶えている。
もう二度と、あの演奏を生で聴くことは出来ないけれど、たった一度、母と一緒にライブで聴けた運命に感謝。
あの日の鐘の音は、私にとって、生涯忘れられない奇跡の『ラ・カンパネラ』。