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ネームがなかった白い傘

2月らしい寒さに震えながら、傘を持って出勤する憂鬱ゆううつな朝。

ただでさえ荷物が多いのに、さらに荷物となる長い傘は正直持ちたくない。

そこに電車遅延まで加わる『弱り目にたたり目』な日。

こんな日は、小学生の時、新しい傘を持って登校した日のことを思い出す。
その傘は白くて、広げると全体的に内向きに広がる可愛らしい傘だった。

当時、小学校では『傘はたたんだ後に必ずネームで留めてから傘立てに入れること』という規則があった。
(因みに傘をたたんだ後にまとめる紐のことを『ネーム』というのを初めて知った。)

その日はまさにそんな注意を受けてまもなくの朝だった。

学校に着き、傘をたたんで留めようとしたらネームがない。
冷や汗をかきながら丹念に見たが、いくら探してもネームはなく、仕方なしにまとめることなく、他の傘の間に隠すようにして自分の傘を入れておいた。

万一、先生や口うるさい同級生に見つかったら…と気になっていたが、幸いなことに下校時まで誰にも見つかることはなかった。

新しい傘を持ったことが嬉しくて、その傘にネームが付いていないことに気付かないまま登校してしまったのだ。

結局その傘は、その後学校に持っていくことはなかった。

使い始めた初日に欠陥に気づくのは、私の場合、靴下が多い。
初日から穴が空いてしまったり、履き心地が悪かったり…

傘については、小学生だったその時だけだ。
自分で選んだのか、母が購入してきたのか記憶にないあの傘。

結局、自宅用として使うことになったその白い傘に、何となく申し訳ないと思ったあの時の気持ちがよみがえった冷たい雨の朝だった。


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