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【対談】スタートアップ企業特化の監査法人ESネクストと考える、株式投資型クラウドファンディングの可能性

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに一般にも広く普及しつつ資金調達手法、クラウドファンディング。購入型・寄付型・融資型などいくつかの類型がある中で今、スタートアップ企業を中心に盛り上がりを見せているのが「株式投資型」クラウドファンディングです。

日本国内でも様々な事例が増えていく中、株式投資型クラウドファンディングを利用することでスタートアップ企業はどのようなメリットを得られるのかや、上場に向けての懸念点について、DANベンチャーキャピタル株式会社代表出縄良人とESネクスト監査法人統括代表パートナー 鈴木真一郎氏の対談を企画いたしました。

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日本のIPOの現状と監査法人の課題

・IPOをめざす企業への監査法人指導の状況
出縄:日本取引所の市場再編改革により、2022年4月から「プライム・スタンダード・グロース」の3つの市場区分となりますね。鈴木さんは、グロース市場への上場企業数はどのくらいと想定しておられますか?

鈴木:毎年90社上場するうち60社くらいがマザーズですよね。グロース市場も同程度の件数は期待できるように思います。

出縄:なるほど。日本は時価総額が小さいうちに上場してしまうので、海外に出ていくためには大きい規模の上場を増やすべきでは、と考えていますがいかがでしょうか?

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ESネクスト監査法人 統括代表パートナー / 公認会計士 
鈴木真一郎

EY新日本有限責任監査法人の前身の太田昭和監査法人に入所後、主に、外資系企業米国基準監査、アメリカNY駐在を経験し、帰国後は、グローバル上場企業等の監査業務の他、国内上場企業の監査業務、新規上場の監査及びアドバイザリー業務等、幅広く関与。日本公認会計協会の監査委員会・国際委員会の専門委員として、複数の会計基準の策定に関与。また、アジア市場上場を中心とした新設のクロスボーダー上場支援業務をリード。2015年以降現在までIPOリーデイングファームであるEY新日本有限責任監査法人のIPO実績に、IPOリーダー(2012年から2019年までの7年間)として貢献。元日本ベンチャー学会理事/前日本ベンチャーキャピタル協会監事としてベンチャー業界に貢献。2020年7月に、ESネクスト監査法人を設立し、統括代表パートナーに就任。

鈴木:その規模の会社は、グロース市場を経るのではなく最初からプライム市場を狙うことになると思っています。最初から何十億と集めてダイレクトにファストグロースさせられる企業は早い段階ですぐにでも海外に出でばよいのではないでしょうか。

一方、近年もFacebookがARやVRの会社を多く買収している動きがありますが、ナスダック上場会社でさえM&Aの対象にもなっています。成長分野において重要なのは、会社の規模に関係なく、複数の将来性のある企業が現れてくることではないでしょうか。ユニコーンのような企業が一社突出して現れることと同じくらい、成長分野において、中規模/小規模でも様々な視点や技術を持つ会社が沢山出てきて鎬を削ることが重要なのではないか、と考えてます。

・株式会社の上場・公開企業化について
鈴木:社会の安定との意味では、大きな会社だけが上場しているのではなく、安定したガバナンスをもつ中規模/小規模の公開企業が増えたほうが、社会インフラとしても安定するように思いますね。まさに今の日本がそうですが。

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DANベンチャーキャピタル株式会社 代表取締役 / 公認会計士
出縄良人
慶應義塾大学経済学部を卒業後、太田昭和監査法人(現:新日本有限責任監査法人)に入社。公認会計士として主に株式上場コンサルティング業務に従事。ディー・ブレインを設立し、中小企業向けコンサルティング事業を開始後、株式投資型クラウドファンディングの前身となった中小企業向け証券市場であるグリーンシートの立ち上げに関わり、株式公開主幹事で9割を超えるシェア。2010年までに141社に対して112億円のエクイティファイナンスを支援。上場引受主幹事業務にも進出し14社を上場。多くの非上場企業へのエクイティファイナンスやIPO支援を手がけ、2015年にDANベンチャーキャピタルを設立。


出縄:まったく同じ意見です。一部のユニコーンだけが上場すればよいというのは金融商品的には効率的な発想ですが、本来の株式会社の成り立ちを考えると、エクイティ資金を活用した企業の成長や、金融商品的な投資に限らない「事業参画型の投資」をあらゆるところに広げていくという意味での「公開企業化」はあるべき姿であるように感じます。

鈴木:企業が公開企業となり、社会インフラになった国のほうが安定して強くなれるのではないかと思いますね。

出縄:まさに。一定のガバナンスやディスクロージャーがなければ株主は経営者に経営を委任できませんので、情報の正確性・客観性は非常に重要であって、そこにこそ監査法人の役割がありますよね。

ECFの重要性と利用するメリットとは

鈴木:近年は経験や年齢もさまざまな起業家が現れ、そのビジネスモデルだけでもVCからの投資が決まるケースもある一方、成長可能性があるにも関わらず今の段階では投資は時期尚早と判断されるケースもありますよね。最初からすべての起業家にVCからの資金が入っていくわけではないので、資金調達の手段は様々な選択肢を選べることが望ましいですよね。

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出縄:正直に申し上げると、資金調達に困っているベンチャー企業の起業家の中には「上場前に個人株主が増えるのは困る」と仰る方もいらっしゃいます。上場後は多くの方に株主になっていただくのが望ましいのに、なぜ上場前だと懸念事項になるのかというと、上場審査までの流れの中で株主が多いことは不利になるんじゃないかと危惧されていらっしゃるんです。

しかしながら、「株式会社」という形態を取っている以上、上場前であろうと小さい規模であろうと、多くの株主の力を借りて、共同事業として成長していくほうが望ましいというのが本来の株式会社のあり方。小さい規模であっても、株主を増やし「公開企業」として経営を行うという選択肢があっていいはずです。金商法でも公募増資というやり方が認められていますしね。そういった世界の中で、VCのように自力で企業のことを詳しく調査することが出来ない個人投資家に代わり、我々が専門業者として企業の審査や情報提供を行うことで、個人投資家と企業を繋ぐインフラとしての機能を果たしていきたいと考えています。

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企業がシリーズAやB・セカンドラウンドでECFを利用する意義

鈴木:すでにVCから出資を受けている企業が次のステップ、シリーズAやシリーズB等のセカンドラウンド以降でECFを利用するメリットはどのような点にありますか?

出縄:株主が増えること自体がメリットだと思っています。それをメリットと感じるかどうかについては、上場するか非上場のままいくかという判断に近いかもしれませんね。ECFを利用する成長期にある企業にとって株主が増えることは「応援団が増える」ということと同義です。商材がtoCなら日常的に購入してくれるでしょうし、ご紹介してくれることもあるでしょう。ハンズオンと言えると思っています。

鈴木:なるほど。その他にはどんなメリットがありますか?

出縄:上場を目指す企業の場合ECFで株主が増えることで、上場後の内部統制、ガバナンス、ディスクロージャーの体制構築の準備ができるというのは大きなメリットになりうると考えています。上場前から公開企業としての仕組みを構築することで社会的な信用を高めることにもつながります。そのため、やはり最終的にECFのメリットを感じられるかどうかは株主が増える、応援団が増えることをどう考えるかというところに帰着しますね。

鈴木:上場前の練習を積めるというのは大きなメリットになりそうですね。財務政策の観点からはいかがでしょうか。

出縄:例えば、企業価値30億円の会社に3社のVCが3億円ずつ入れた場合VCが1社1割ずつ、合計で3割ものシェアを占めるため、VCの意向を汲んだ経営判断を強いられることになります。VCにとってはガバナンスが利いている状態といえましょうが、経営者目線で考えるとそれが望ましいとは限りません。対してECFの場合、一人あたりの上限投資額が法律で規定されていますので、特定の個人に多くのシェアを確保されてしまう心配がないので、その点安心してご利用いただけるのではないかと思います。

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鈴木:株主の数は増えるものの、特定の方が影響力を行使することにはつながらないということですね。ECFを利用通じて個人株主が増えることで、有利になる点というのは他にもありますでしょうか?

出縄:もしかすると、VCとなにか交渉する必要がある際に個人株主の意向や考えを交渉材料にできる可能性はあるかもしれませんね。ある種牽制にはなると思いますし、IPO前にECFを利用して投資家を増やしておくというのはそういった意味でも有効かもしれません。

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対談のフルバージョンは、CAMPFIRE Angelsサイトで公開しております。

後半では、IPOを支援する監査法人から見た「ECF」についての率直な印象をはじめ、ECFの課題と今後についても掲載しています。ぜひご覧くださいませ。

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