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君と異界の空に落つ 第2章

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浄提寺を降りて祓えの神・瑞波と共に、旅に出た耀の成長の記録。 ※BL風異界落ち神系オカルト小説です。 ※何言ってんだか分からないと思いますが、私の作品はいつもこんなです。 ※古…
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2024年3月の記事一覧

君と異界の空に落つ2 第19話

『え……ど、どうして……?』  どうやって此処へ来た、と。耀が人並みに動揺するのを、静かに見遣った童子である。それから『矢張り、分かるのですね』と探るような顔をされ、だから好いているのですか? と瑞波の方に問いかける。  耀は瑞波に柿を分け、銀杏(いちょう)の下で胡座をかいていた。瑞波も近くに鎮座して、夜の逢瀬の最中だ。途端に黙った瑞波であるので、邪魔されたからなのかな、と。何も言わずにじっと見る、未来の伴侶を見た耀だ。  幼い竜神、童子も”じっ”と瑞波の事を見続ける。二人

君と異界の空に落つ2 第20話

 それを家の縁側から眺めていた善持(ぜんじ)である。  少し前、小便をしに出ようと戸を開けて、耀の日課を思い出したのだ。畑の奥の肥溜めへ行くには近くを通らなければならず、今日も今日とて楽し気に銀杏と話をしている彼の、邪魔をしてしまうのは気が引けた。それほど切迫していないから、間合いがあればと戻りかけ、ほんまえらい坊主だなぁと呆れ調子に眺め遣る。  この場合の”えらい”とは、大変な、とか、不思議な、だ。耀の耳には都風にも聞こえてくるけれど、善持は善持でこの地方の言葉を使って考え

君と異界の空に落つ2 第21話

 知り合いの拝み屋……そうか、善持の知り合いか。耀は我に返って戸板を閉める。食べかけの食事の前に戻ったら、自分と善持の間に座る女性の事を、残りを食べながら無言で見たようだ。  食べ終えた善持はいつも通り釜の湯で、耀の為にと女性の為に、椀を増やして茶を入れる。鬼婆と言う割に、迷惑そうにする割に、彼は彼女の事となると、それなりに世話を焼いてやるらしい。  彼女の方も善持の飯を貰うのが、いつも通りの事というように自然体。だから、あぁ、この人が困ったら頼りに行く拝み屋さんか、と。二人

君と異界の空に落つ2 第22話

 心配していた事が消えると、心も軽くなるようだ。  善持はそれっきり、根掘りも葉掘りもしてこなかった。耀としては早めに瑞波の事を説明したかったけど、頼まれていないのに言うのはどうだろう、と。そんな気遣いが変に残って、先送りした雰囲気だ。  さえの気配が無くなると、瑞波が耀の隣に戻る。嫌いという態度では無いから”苦手”くらいなのだろうけど、そういう話になったから説明しないといけないだろう。耀は善持が夕飯の仕込みをする間、畑仕事の続きをしながら瑞波に経緯を説明した。 『拝み屋に

君と異界の空に落つ2 第23話

 瑞波は耀の悩みを聞いて、お優しい方……と感じ入る。自分と関係の無い子供の事まで、救いたいと思うとは、と。せめて骸の場所が分かればと、その人は言うけれど、人の目には視えない世界を観ている瑞波にしてみても、彷徨える人霊の気配はおろか、穢れも、神の姿も、妖怪の気配も無いとするなら、それは無用の心配であり優しさであり、気に病む部類の話ではないのに……と。  ただ、耀が人霊に避けられているのは本当で、それは”背後”に自分が居るから、つまり神が居るからで、貴方の所為では御座いませんし、

君と異界の空に落つ2 第24話

「善持ー! 来たわよ! ヨウは何処!?」  勝手知ったる知り合いは、適当に開けてくる寺の門。其処から叫び声が届いていたので、心の準備が出来た二人だ。男二人が声を聞き、ぎくり、と体を震わせる。耀の後ろで先に瑞波が黙って動きを止めていたが、二人が震える様を見て共感を覚えたようだ。良かった、怖いのは私だけではなかった、と。楚々と銀杏の木に逃げて、様子を窺う瑞波である。 「ヨウ!」  さえは耀を見つけて嬉しそうに近付いた。  お前ぇ、後ろの男は何だ? という善持の視線を無視しつ

君と異界の空に落つ2 第25話

「何だい? あたしゃ今、忙しい」  切って捨てる女だが、流石弟子、という事か。少しも臆した気配を見せず、「恩返しさせてやって下さい」と。 「恩返しする前に人間の方が駄目になっちまう。仕方ないんだよ、こういう時は」  これも勉強さね。さえの視えざる力は強い。 「ですが、恐らく、その方が、早くこの方から離れるのではと」 「喋れない相手にどうやって諭しを入れる? 人間だって動物だって諦めが肝心さ。だから結局、力の強い方が勝つ。それが分かって憑いているんだから、剥がされても文

君と異界の空に落つ2 第26話

 さえに貰った銭をしまって、畑仕事を手伝いに行く耀だ。  広い畑の殆どに新しい苗を植え終わり、残った僅かな土地で土を混ぜる作業をする。善持はいつも通りゆっくり作業をして見えて、後から来た耀を見ると「別に休んでいても構わねぇぞ?」と。 「拝み屋の仕事って、疲れるんだろ? あいつ、いつも仕事終わりは暫く起きて来ねぇから」 「あぁ、俺は大丈夫です、横で視ていただけなので。でも、さえさんは疲れるでしょうね。あのような力の使い方をして……体を壊さないと良いのですけど」 「うん? あい

君と異界の空に落つ2 第27話

『邪魔するぞ』 『あ、玖珠玻璃(くすはり)様』  お久しぶりです、どうされました? と、不意に現れた童子に耀が問う。  さえが客人を連れてきて、帰ってから数日後の事だろうか。いつも通り耀は瑞波と夜の一時(ひととき)を楽しんでいて、横を流れる小川が一瞬光り、其処から彼が現れた。  歳の頃は耀と同じか、少し下になるだろうか。くっきりとした目鼻立ち、この国の黒髪を持つ美麗な男児である。見た目はそれでもこの男は竜神、耀より余程長生きだ。加えて、あと千年も生き永らえれば、強く成り上が

君と異界の空に落つ2 第28話

 翌日はよく晴れていた。朝から頼み事をした耀だ。そうしたものが視えると知れたから、少しは頼み易くなっていた。この間、沢蟹を獲りに行った山の神様が、会いに来いとおっしゃるのですが、これから行っても良いですか? と。  駄目だと言われたらそれまでだけど、善持は思った通り、簡単に「行ってこい」と言うのでお礼だけ返した耀だ。そういうのは何か? 文でも届くのか? と、不思議そうにされたので「会いにいらっしゃったのです」と返すだけ。 「水の神様なので、川伝いに」 「そりゃあ便利だな。…

君と異界の空に落つ2 第29話

「善持ー! 来たわよー!! ヨウを貸しなさい!」  それからお堂を使うわよ! と朝から通る声である。  まだ気配も無いうちに瑞波がすっくと立ったので、耀にはこれから起こる事が予め分かっていたようだ。急に様子が変わって朝飯をかき込んだので、善持にもある程度、何が起こるか分かったようだ。  さえだけなら不思議な事は不思議だなで済むけれど、耀の様子を見ていると、不思議だけれど”あるのだな”。それが分かってきたようで、それなりに興味が湧いてきた。  月の夜、銀杏の木に話しかける耀を

君と異界の空に落つ2 第30話

「物音がするのです……誰も居ない筈の部屋の中から。誰も居ない場所から見られているような気配もします。書き物をしようとすると筆が折れたり、草履の鼻緒が外れたり……前の日に生けたばかりの花が枯れてしまっていたりして……折角、九坂(くさか)様とご縁を頂けそうなのに、このように呪われた家の女では、申し訳無いような気がしてしまい……」 「これまでならな、そのような事、全く気にせぬ私だが……否、私はそうであっても気にせぬのだが、桜媛(おうひめ)殿が気にされるので。先の狸の事があったので、