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地獄からのカムバ

 最近また更新が途絶えていたので”YUMIKA”の皆さんが心配して、公式ホームページに連絡をくれたりDMをたくさんくれたり、ということはなかったものの私の動向を心配していることが確定的な表情で街を歩いているのを何度か見かけたので、非常に申し訳ないなと思っていた。

 ネットで見た、あるYUMIKAの方の書き込みによれば、尾久には活動期間と休止期間があり、しばらく活動すると休止期間になり、その間に次の曲の準備をし、しばらくののちカムバックをする、というK-POPアーティストの方式をとっているのではないかというものがあった。非常に鋭い指摘だと思う。

 というと“YUMIKA”とは誰だ、というツッコミがなされるので回答するが、”YUMIKA“というのはまあなんだ、私のファンの呼称である。アイドルには「ARMY」や「ティアラ」などグループごとにファンに呼称があるわけだが、私の場合はKAMIYUを逆にしたYUMIKAがいつの間にかファンネームとして定着しており、私も最初は誰かの名前みたいで慣れなかったのだが、メディアなどで何度も言われているうちにだんだん親しみが湧いてきて、今では気に入って使っている。

 というのはおそらく夢?であって、わたしにファンはいないはずだし今のストーリーは何?自分で考えたの?と錯乱ぎみなのは、この1週間地獄を渡ってきたからである。

 地獄というと煮えた釜のなかで罪人が溺れているイメージだが、それはメディア用の凄惨な古典的地獄であって、実際は地獄も多彩である。

 例えばあるミッションをクリアするまで何度も殺される系の地獄は最も今ポピュラーで、地獄に行った者の多くが体験することになるだろう。

 では、私はループを繰り返すなか何度も殺されようやくミッションをクリアして生還したということなのか、というと、そういうことではない。それじゃあ本当の地獄である。私が行って戻ってきたのは、もっと現実的な地獄である。

 その地獄とはなにか。

 地獄に入って最初にやらされるミニゲームには必ずこれがあると思うし、地獄初心者や、幼児であるにも関わらず地獄に落ちた者、あるいは1日地獄体験などでも恐らくこの地獄が選ばれるだろう。

 それは一見ふつうの人として現実世界で生活しているように見えるけれども、内的には地獄という地味なものである。

 みなさんもう分かりましたね?

 私の行って帰ってきた地獄というのはそう、

 「喉に口内炎ができる」地獄

 でした。

 あのですね、地獄なんです。まず、誰に言っても地獄を理解してもらえません。タイムループと一緒です。

 「実は私、同じ8月12日をもう500回繰り返してるんです!」

 とか懇願しても、大抵「は?」って顔をされて無視されますよね。あれと同じです。

 「あー口内炎ね」と言われておしまいです。「お大事に」という言葉すら不釣り合いなくらいの傷病名「口内炎」、しかし、頬にできても痛いあれが喉にできたらどうなるか?

 まず食事がとれません。一口嚥下するたびに「あああああっ」「っくしょあ」「うらああああ」と親友がゾンビに噛まれてしまったことを悲しむと共に、守ってやれなかった自分への不甲斐なさで膨張したやり場のない怒りをぶつけるときと同等の発声をしないと食事が進みません。

 「え、親友がゾンビになるよりは喉に口内炎ができるほうがマシでしょ?」と思った人がいるかもしれませんが、私の感覚では親友がゾンビになるのと喉に口内炎ができるのが同等の地獄で、ちょっと仲のいい友人がゾンビになるのと喉に口内炎ができるのだったら私は迷わず友人をゾンビにすると思う。

 それくらい辛いって言ってんだよ!

 などとゾンビを相手にしてるくらいの緊迫感のある表情で言っても、喉に口内炎があることは自分以外の誰も知らず、さらに喉に口内炎があると主張しても、親友がゾンビになってしまうことと同等の苦しみがあるとは誰も思いませんから、結局誰にも分かってはもらえません。

 なーんだ、きみ、それなら口内炎に〜〜〜を使ったらいいじゃない。すぐに治るさ。叫んでばかりいないで、勉強でもしたらどうだい?それから途中から文体がです・ます調になっているよ、統一したらどうだい?

 と、物語の序盤でゾンビにやられそうな皮肉屋の秀才が嫌味を言ってくる可能性があるのだが、当然わたしも医者の子である。いや、違う、錯乱していた。わたし自身が医者なのだった。口内炎くらい処理できなくてどうする?もしできなかったら、、、わかってるな?

 と、悪い検察庁の人が下っ端に冤罪を作らせるような雰囲気で迫り、私はトラネキサム酸、アセトアミノフェン、ロキソプロフェンといった消炎鎮痛剤を極量使用し、さらに痛みのいちばんの誘因となっていた後鼻漏を治療すべくフェキソフェナジンを使用し、アズレンスルホン酸ナトリウムを含有したうがい薬を使用し、口内炎の炎症に誘発されて起こる咳嗽に対してモンテルカストとプレガバリン、さらに漢方を含有した飴などを舐め続けることでフル対応を行なった。

 しかし現実は過酷で、徐々によくはなってきたものの、飲んで一瞬で痛みが消えるようなものではなかった。

 当たり前なのだが、この事実を医者は忘れがちである。

 処方し、「1週間後」には必ず良くなっていることを確信しているので、我々医者の意識は診察終了時に「あーよかったね」で終了している。

 しかし、実際患者からすれば、薬をもらうまでの時間もまだ痛いし、飲んでもまだ痛いし、翌朝起きてもまだ痛みが残っているし、ということで、徐々に良くなっていても、苦痛を味わっている時間が長期間ある。

 よくなっている方に目を向けよう!などと爽やかな顔をして言ってもこちとらゾンビに親友殺されてんだぞ!という話なのである。

 実際、この地獄にいる間の意識は変性しており、通常考えられる思考が全くできなかった。

 普段であれば、これが終わったらこれ、次はこれ、その次はこれ、などとやることが頭のなかに整理されていたので取り組むことができたのだが、地獄では脳内のほとんどを「喉が痛い」「咳が出そうだ」という思考が占めており、帰宅してからは何も考えたくなくて毎日23時前に寝て長時間睡眠をしていた。

 その効果で肌が異様に綺麗になり「えっ、平野紫耀くんですか?」と通りすがりの“ティアラ”の人にジャニーズ事務所の所員と間違えられるということがあるのであれば良かったのだがそういうこともなく、ただ、何も考える気にならずにゾンビのドラマをみているだけであった。

 このnoteは最後ちょっと教訓的というかテーマ的にうまく収めて終わる悪い癖があるので今日はそれをしないようにしたく、ちょうど地獄から戻ってきている途中の変性意識をそのまま書き起こしてみたいと思った。

 それで書き始めていきたいと思うのだが、最近また更新が途絶えていたので”YUMIKA”の皆さんが心配して、公式ホームページに連絡をくれたりDMをたくさんくれたり、ということはなかったものの私の動向を心配していることが確定的な表情で街を歩いているのを何度か見かけたので、非常に申し訳ないなと思っていた。



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