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懐かしい人との再会

みなさん、家電って普段使っていますか?
っていうか、そもそもまだおうちにあります?
私の家には一応まだ固定電話ありますけれど、
たまに鳴ってもセールスの電話ばかりなので、
普段は留守電状態にしてあります。

先日、とある土曜日の夕方、我が家の電話が鳴った。
どうせまた太陽光だの屋根の吹き替えなんかのセールスの電話だろうと思い、そのまま放っておいた。
留守電に切り替わり、「タダイマ、スルニシテオリマス。ゴヨウノカタハ、ハッシンオンノアトニ……」と機械の音声が流れ始めた。
いつもならその音声が流れるや否や乱暴に電話を切る音が聞こえてくる。
多分電話の向こうの人(おそらくセールス関係)が「ち、留守か・・・」と、つまらなそうに切るのだろう。
ところがその電話は違っていた。機械音が止まった後に「・・・」という数秒の間があった後で、「ご無沙汰しております、○○高校でお世話になりましたKと申します、、、」と懐かしい声が聞こえてきたのだ!!!
私は素早く駆け寄り受話器を取り上げ、「あ、○○です、どうもご無沙汰しております!」と応えた。息が上がり、思わず甲高い声が出てしまった。

K先生。
私がずーっと憧れていて、そして今でも尊敬している先生。
かつての職場でお世話になり、イギリスが好きで、英語が大好きで、英語を英語にまつわるすべてのことを探究し続けている人。
イケボの眼鏡男子で、普段はピシッとしたスーツなのに、授業が無い日は、アイビーリーグのパーカーにジーンズで出勤してこられて、私はそのギャップにやられ、何度も(勝手に)失神していたっけなぁ……
私がその職場を去り、K先生もその2年後に他校へ転勤になり、もう全くお会いすることは無くなったけれど、たまに“エゴサ”ならぬ“Kサ”をしては、先生の書かれた記事が載っている小冊子を見つけて静かに喜び、相変わらず研究することをやめずに、いろいろな文献に寄稿されていらっしゃるんだなぁ……と温かい気持ちになっていた。

その電話の内容はと言えば、現在K先生の勤務されている高校の英語科職員に欠員が出てしまい、急遽教員を探しているとのことだった。
小学校も中学校も、そしてもちろん高校の教育現場でも教員不足が慢性的になっているのは周知の事実。
今すぐにでも「行きます!K先生のいらっしゃる職場で働きたいです!」と言いたかったけれど、今年度私はもうすでにフルタイムで勤務しているので、そのような事情をお伝えして泣く泣くお断りをした。その後少しお互いの近況を話してから、その電話を終えた。
その間10分にも満たなかったと思う。でもK先生のやさしく穏やかな語り口が電話を切った後も、じわじわと私を癒し続けてくれた。私の現在の勤め先が中学校だと知ると、「高校ではもう教えないのですか?」と聞かれた。「いやぁ……タイミングというか、(高校の方には)どうもご縁が無くて……」と私が口ごもっていると、「力がある方なのに。もったいない……」とK先生は言ってくれた。
誤解のないように言わせていただければ、これは高校で教える方が中学校で教えるよりも大変だとか高学力が必要だとか、そういうことではもちろんない。教員という仕事は生身の人間を相手にする以上、やはり責任は重く、その分やりがいもあり、そこに校種は関係ない。
ただ、K先生と勤務させていただいていた職場は当時も今も県下有数の進学校で、ちょっと油断すると、英語のネイティブでも答えに詰まるような高度で繊細な質問が生徒から次々に飛んでくるようなところだった。その高校で過ごした約5年間の日々は本当にスリリングで、毎日が充実していた。試験問題を作るときなんかは職員室はさながら戦場と化し、K先生とあーでもないこーでもないと、問題の妥当性や解答例を入念にチェックしたなぁ。そんな日々を懐かしみ、またあのように切磋琢磨したいねという意味を込めて、言って下さったのだと思う。
(切磋琢磨なんて、それこそおこがましいけれど……)

その電話を切った後、「だれからだったの?」という息子からの問いかけにも反応できない程、しばしボーっとしてしまったが、留守電に吹き込まれたK先生のイケボを何度も何度も繰り返して聴いてしまっていた私は、やはりそうとう危ない人だろう。

がしかし!このお話はこれで終わりではなかった。
この記事のタイトル通り、その電話があった翌週、なんと私は近所のスーパーでK先生とバッタリ会えてしまったのだ!ほんものの!!ナマK先生!!!

実にお会いするのは約3年ぶり。
そのスーパーは品数が豊富で安いのだが、駐車場が小さくてすぐ混雑するので、車通勤をしている私は、仕事帰りにはめったに寄ることはない。一方のK先生も普段はもう少し遅くまで勤務しているので、買い物はいつも週末にまとめてしていらっしゃるらしく、平日の仕事帰りにはそのスーパーにまず寄ることはないらしい。
でもK先生と私は、実はJRの最寄り駅が同じで、バス停も3つしか離れていないご近所同士。それでもそう易々と会うことは無いと思っていたので、この偶然にほんとうにびっくりした。
「いやぁ、会わないときは会わないけれど、会うときには会うもんですねぇ……」などとお互い照れ笑い。(いや相手は苦笑い?)
金曜日夕方のスーパーは混んでいたけれど、こちらが恐縮してしまうほど、K先生は私との立ち話に興じてくれた。

「だいぶ白髪が増えたでしょう?」
K先生がそんなご自身の外見について触れることなんて珍しかったので、
(しかも照れながら、自分の髪の毛を手で梳くしぐさがあまりにも素敵で、私は脳内で鼻血ブー💗)
「いえいえそんな、相変わらずダンディーで素敵です」
などと私は思わず思っていることをそのまま口にしてしまった。
K先生は私の勤務先の中学校の状況にとても興味を持っていろいろと質問して下さり、私もK先生が現在赴任されている高校について話を聞いた。
今思えば、ちょっとコーヒーでもと、近くに併設されているイートインスペースに立ち寄ることもできただろうに、哀しいかな私の買い物かごには山盛りのハーゲンダッツ。。。溶けちゃうよねコレ。。。(1個198円は安くて思わず全種類かごに投入していた!)
それよりもなによりも、そんな夕方の買い物客でごった返したスーパーでの立ち話は迷惑そのもの、早々に「ではまた」と切り上げた。別れ際、「何かあれば、この前お電話差し上げたあの番号にまたかけても大丈夫ですか?」とK先生。

えーえー、大丈夫ですとも!
なんなら私のケータイ電話の番号も!
LINEのIDも!メールアドレスも!
次回お会いするアポも!
いつ?何時に?どこで???

なーんてことはもちろん言えず、「あ、はい。何かありましたらぜひ!また!」と後ろ髪を引かれる思いでその場を立ち去った。

このK先生との電話からの偶然の再会を果たした時期というのは、実は私が仕事でいろいろとあり、忙殺されて、心身ともに疲弊していた時期だったので、本当に心が癒されました。神様がくれたご褒美だったのかな。
教員に欠員が出た時に私のことを思い出してくれて、過去の連絡網を引っ張り出してきて電話してきてくれたことが素直に嬉しかった。
そして偶然お会いできて、目じりにやさしい皺が寄るあの笑顔を久しぶりに見ることができて、本当に嬉しかった。

K先生、どうもありがとうございました。
またいつかどこかで……





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