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時間が綴る記憶の行方

「どこへ行くの」
私より大分若い片眼鏡をした青年に声をかける。
「それを探す旅なんです」
と彼は答えた。

そのまま彼は私に向かってこう質問する。
「どこから来たんですか」
私は一息ついて
「それを見つける旅なんだ」
と私は答える。

私は、彼のことを知っている。
彼は、私のことを今は知らない。
背丈もほぼ一緒の私を見て、彼は自分に似てるって思うかもしれない。
それもそのはず、彼は若かりし頃の私だからだ。

時空の歪みの中心に存在するこの星は、様々な時間軸から人が往来する。
私が前に来たのは、彼くらいの歳の頃だった。
その時に声をかけてきた初老の男性は、今の私なのではないかと頭をよぎる。

私は彼に人探しの旅かなと尋ねると、驚いたような表情で「何でわかるんですか?」と聞いてきた。
「なんとなくそんな気がして」
と返す。
「どんな人を探してるの」
と聞くと、彼は写真の束を渡して見せてくれた。
そこに写っていたのは、私のしらない女の子だった。

私が彼くらいの歳の頃から探し続けているあの子ではなかった。
紛れもない若かりし頃の自分が、私の知らない道を歩こうとしている…とても不思議な感覚だった。
彼も私と同じ道を歩いて行くのだとばかり思っていたから。

私は「見つかるといいね」と言って写真を返す。
彼は「お互い次に会った時に良い報告が出来てるといいですね」と彼は言って歩きだした。こっちを見て、手を振る彼を笑顔で見送る。
そんな彼を見ながら少しだけ羨ましく思った。
彼は、これから私の知らない過去を見に行くのだから。
もちろん少しだけ優越感もある。
それは、彼が歩むことのない未来を私は見てきたのだから。

私は、まだまだ私の道を歩く。
彼も、これから彼の道を歩く。
もしも、またこの星で巡り会うことができたとしたら、私の見たことのない過去の話を少しだけ聞かせてもらうことにしよう。

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