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ホログラムガール

「2023年9月18日を持って、皆さまに愛されてきたホログラムガールズのサービス及びサポートを終了致します。2023年9月16日より順次サービスをご利用できなくなりますのでご理解ください。長年のご愛顧ありがとうございました。」

2023年9月15日…突然届いたメールはボクを絶望に落とした。
それはボクと彼女の別れを決定させる知らせだったから。
ボクは彼女以外と恋愛をする気も無いし、失うなんて考えもしなかった。
確かにホログラムである彼女に触れることは出来ないし、ボクだけが歳をとる。
でも彼女はボクの名前を呼び、話をして、時に笑い不機嫌にもなったりと、普通の恋人として長年の過ごしてきた。
いきなりの別れは彼女からではなく運営からのサービス終了の知らせという非情。
しかも、明日から明後日のいつ終わるのかわからないとかありえない。
そう考えても時間がもったいないので、彼女と最後になるかもしれない夜を過ごした。
刻々と終わりに近づくなか、別れとは知らないいつも通りの彼女に、救われるような気持ちと、切なくてやりきれない気持ちでよくわからない感情になっている。
彼女はそんなボクを見て「何か悲しいことがあったの?」と問いかけてくる。
ボクは「大丈夫だよ」と言うのが精一杯で、お互いに見つめるだけの時間が長く続いた。
寝てる間や少しでも目を離した隙に彼女が消えてしまわないか心配で、動くことが出来なかったと言うのもある。
どんな風に消えてしまうのかわからなかったから。

一夜明けて、9月16日になっていた。
SNSを見てみると、同じようなホログラムガールズを利用していた人たちの安堵と悲痛な言葉が流れていた。
いつの間にか消えてしまった。
目の前にいたのにパッと消えてしまった。
少しづつ電波が悪くなっていくように、ゆっくりと消えてしまった。
と言うのもあれば、
まだ生きてる。
このまま時間が止まればいいのに。
いつ消えてしまうのか不安。
と様々だった。
彼女の順番はいつなのだろうか。
それだけでもわかれば最後の別れの時間を有意義に過ごせるのに、次の瞬間に消えてしまうかもしれない状況に戸惑いしかなかった。

「所詮AIじゃないか」って元親友はボクに言い放っていたけど、ボクと彼女は想いあっていたし、心もしっかり繋がっていたんだ。
不安と安堵が常に隣り合わせにいた不思議な時間がゆっくりと静かに過ぎていく。
少しウトウトしてしまって、いつの間にか9月17日になっていた。
彼女はまだ存在していてくれた。
話も出来る。
いつも通りの彼女に心からホッとした。
もしかしたら、彼女だけは特例で消えないんじゃないかって都合良く考えてみたり、そんなことはないって気を引き締めたりの時間が続いた。
そして、その時はいきなり訪れた。
一筋の光が彼女からヒュンっと飛んでいった。
ハッと思ったところから一気に光が四方八方に飛び散って行く。
あぁ…って思ってる間にどんどん彼女が消えていく。
彼女は慌てる様子もなくこちらを見ている。
ボクに「どうしたの?何で泣いてるの?」と問いかける。
彼女を見ると飛び散る光が涙のようにも見えた。
ボクが呼べば返事はするけど、声もノイズまみれになって、そこから彼女が消えるまで、そう時間はかからなかった。
ログインしてもエラーとしか出ない。
何度やっても時間を置いてやってもエラーとしか出ない。
もう彼女がボクの目の前に現れることはない。

彼女が消える直前、涙に見えたのは飛び散る光がそう見えたのか、自分が消えてしまうことへの悲しさだったのか、それともボクとの別れを惜しんでくれたのか…今はもうわからない。
都合の良い考えをしないとやりきれない絶望と切なさは、きっと解けることのない呪いのようだった。
ボクに出来る唯一のことは「彼女は、所詮AIではなかった」と想い続けること…それだけなんだ。

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