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【掌編小説】四日目の昼

 四日目の昼。僕と彼女はようやく外に出た。うららかな春の連休で、きらきらした陽射しが外で羽を伸ばすことを誘っていたが、僕らはその誘惑に抗って何日家に閉じこもっていられるか挑戦していたのだ。土曜日から始まって、火曜日まで一歩も家を出なかった。うら若い男女が家にこもってすることなんて、一つしかない。そのうち彼女が、一生分やった、って言えるくらいやってみようよ、と言った。僕はどちらかと言うと、その提案には反対だった。でも、まあ、思い出にはなるかもしれない。最初の日の夜にはもう、僕の分身は悲鳴をあげ始めた。僕らはワインを飲んで、金曜日に買いだめしておいた食材の中から、ドイツ製のソーセージを選んで、フライパンで焼いて食べた。それから、彼女の作ったペペロンチーノ。彼女の得意料理の内の一つだ。いつもよりもガーリックを多めに入れておくね、と彼女は言った。気が利くね、と僕は応えた。
 食後にまた一回回数を重ねた後、僕らは一緒に風呂に入りながら、彼女が探しているバイトの話をした。日中暇だから、少しバイトでもしてみようかな、と彼女は言い出したのは一ヶ月くらい前だ。彼女はこれまで家庭教師以外にバイトらしいバイトをしたことがなかった。学生の頃、治験のバイトを数回やったくらいだ。何がいいかな、とこの一ヶ月間、ずっと言い続けていた。
「コンビニとかスーパーとかは嫌だし。喫茶店とかはどうかな。スターバックスとか」
「忙しくて、大変だよ」
「じゃあ、本屋とか」
「ああ、いいかもね」
「でも、近くに大きい本屋、ないよね。電車で遠くまで行くのは、面倒」
「駅前のショッピングセンターの中のどこかは?」
「この前調べてみたけど、どこも募集してなかった」
 彼女はバスタブの縁に腰かけて、足でぽちゃぽちゃと水面を揺らした。「探してみると、なかなかいいの見つからないんだよね」
「こういうのは、タイミングだからね」と僕は言った。「巡り合わせの」
「私とコウちゃんみたいにね」
「そう、俺とミサみたいに」
 彼女は両足をバスタブの縁にのせて、股を開いた。
「ねえ、私のここ、どう?」
「綺麗だよ」
「舐めて」
 僕は言われた通り、彼女のあそこに口をつけた。
「コウちゃん、上手だよね」
「そう?」
「うん、とっても上手」
「誰と比べてるの?」と僕は顔を上げて言った。
 ばか、と彼女は言った。「私がコウちゃんしか知らないの、知ってるでしょ?」
 僕はできるだけ優しく彼女を舌で包んだ。
「したくなってきちゃった」と彼女が言った。
「いいよ」と僕は言った。「壁に手をついて、後ろ向きになって」
「入る?」
「もうちょっとお尻を突き出して」
 僕はゆっくり彼女に差し込んだ。体を動かす度、ぱちゃぱちゃと湯が鳴った。その音のせいで、時間が止まっているような気がした。
 その後、僕らはもう一度ベッドで愛しあった。今日だけで何回目?と彼女が訊いた。五回目かな、と僕は言った。私、愛されてるね、と彼女は嬉しそうに言った。ああ、世界で一番ね、と僕は言った。
 朝、カーテンを開けると、胸のすくわれるような爽やかな陽の光が部屋を照らした。彼女はまだ寝ていた。暑かったらしく、布団の中でズボンを脱ぎ捨てていた。剥き出しの太ももが白く光っていた。僕はしばらく彼女の寝姿を眺めていたが、だんだん我慢できなくなって彼女のパンツを下ろした。そして、そこに口をつけた。え?何?と彼女が寝ぼけながら言った。僕は唇を離さずに、朝ご飯、と言った。私、食べられちゃうの?と彼女はむにゃむにゃ言いながら、顔を枕にうずめた。そうだよ、君は食べられちゃうんだ。そして僕は心ゆくまで彼女の体を味わった。

 四日目の朝、ベッドの中でその日一回目の役目を果たした僕の分身を触りながら、さすがにそろそろきつい?と彼女は上目遣いで僕を見つめて言った。僕の分身はずきずきと脈打つように痛んでいた。役目を果たす時はなおさら痛んだ。そろそろ限界だ、と僕は言った。じゃあ、次で最後にしよっか、と彼女は僕の分身を優しくさすりながら言った。これ以上やって、コウちゃんに飽きられちゃってもいやだし。次じゃなくて、さっきので最後でいいよ、という言葉が喉まで出かかったが、飲み込んだ。僕は諦めて、彼女にされるがままになった。
 そして、四日目の昼。僕と彼女はようやく外に出た。ちょうど冷蔵庫から食材も綺麗さっぱりなくなっていた。朝、最後に残っていたチーズをパンにのせて食べて、完全に空っぽになった。僕はついでに冷蔵庫の掃除をした。彼女は掃除機をかけて、ベッドから汚れたシーツをはがし、洗濯をした。
 こんなに美しい一日があるだろうかと思うくらい、美しい一日だった。太陽は透き通った光で世界を照らし、街路樹や公園の樹々の緑が輝いていた。僕はあらためて、世界は美しいと思った。風が僕らの存在を祝福してくれているように頬を撫でた。僕は胸いっぱいに空気を吸って、空を仰いだ。雲は少なく、空はどこまでも広がっていた。僕はミサの手を握って、目に映る全ての世界を愛しながら、陽射しの中を歩いた。
「ねえ、さっきからあそこがなんか変な感じがする」と彼女は言った。「なんか挟まってるみたい」
「ずっと入りっぱなしだったからね」
「本当、ずっと入ってたもんね」
 彼女は空を見た。「で、私達、どこに行くんだっけ?」
「買い出しだろ?食料の」
「そうそう、食料ね」
「何食べたい?」と僕は訊いた。
「そうだなあ、ピザかな。ピザがいい」
「じゃあ、ピザ生地と、上にのせる具材を好きなの買って帰りますか」
「いいね」と彼女は微笑って応えた。

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