見出し画像

カリフォルニアのヴァン・ナチュール

ヴァン・ナチュールの流行が、一層、熱を帯びてきている。

若年層のアルコール離れや人口減少による需要減が話題になる中、今年、東京で開催されたRAW Wine Tokyo 2024は、想像を超えて盛況だったようだ。

ヴァン・ナチュールという言葉が想起する、伝統産地の格付けや品種の制約に囚われず、できるだけ介入を減らして個性やパーソナリティが感じられるワインを作り、持続可能な方法で消費者と生産者が手を取り合ってワインのある生活を育んでいくというイメージが、循環型社会に関心のある消費者や、ワインに新しい刺激を求める人たちに刺さっているのだろう。

ところで、カリフォルニアの生産者達からは「ヴァン・ナチュール」という言葉を聞く機会は少ない。RAW Wine Tokyo 2024の出展者を見ると、大半は欧州の生産者で占められている。多くの消費者にとっても、ヴァン・ナチュールと聞いてカリフォルニア・ワインを連想する人は少数派だろう。

だが、実際はカリフォルニアにもヴァン・ナチュールは多く存在する。高品質で、かつSense of Place(最近、Terroirの代わりに良く使われる)を感じられるワインを作るために努力している生産者達からすれば、「わざわざ自分たちのワインをヴァン・ナチュールと言う必要がない」というのが本音だろう。

そんな中にあって、Scar of the Seaは自らを控えめにナチュラル・ワイン(ヴァン・ナチュール)の作り手と位置づけている。MikeyとGina Giugniご夫妻がオーナーとワインメーカーを務めるこのワイナリーは、San Luis Obispoの畑からブルゴーニュ品種のワインを作っている他、近隣の古樹を持つ畑からも面白いワインを数多く生産している。

中でも、Cucamonga ValleyにあるLopez Vineyardから作られるPalomino種のワインは興味深い。ニュートラルな個性を持つ、シェリー酒の原料となるこの品種からステイルワインが作られることは極めて珍しい。しかも、この畑はLos Angels郊外にあるにもかかわらず、植樹から100年超の古木を持っているという。

極僅かに還元香を感じるものの、香りは、杏、ライチ、レモン、グレープフルーツ、ハッカ、青草を中心に華やか。酸の効いたミネラリーな飲み口。味わいは多層的でありつつエレガント。爽やかなフィニッシュ。ヴァン・ナチュールを好む人達がブラインドで飲めば、生産者や産地について聞かずにはおれないだろう。

なにも奇をてらったワインを作ろうとしたわけではない。作り手が惹かれる畑を求め、栽培家と二人三脚で、より良いワインを作ろうとした結果が、たまたまヴァン・ナチュールを思い起こすワインになったと言うのが適切だろう。

実は探せば沢山あるカリフォルニアのヴァン・ナチュール。今後、注目される機会があるかは分からないが、美味しいことには変わりない。

*ヴァン・ナチュールについては、ワイン商えいじさんの記事を参照のこと。


本日のワイン:
Scar of the Sea Lopez vineyard Palomino 2022
92+pts
https://www.scaroftheseawines.com

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?