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「むかし試した古典技法の話」Vol.10-ドライコロジオンの作り方•最終回- by K

こんにちは、カロワークスのKです。
長くに渡ってドライコロジオンの製作方法について連載させて頂いておりましたが、ついに今回の記事で完成となります。
そして同時に当方Kのnote連載も今回記事で終了となります。みなさま約1年弱、ご覧頂きありがとうございました。他のスタッフの連載はまだまだ続きますので、引き続きよろしくお願いします!

さて、それでは最後の仕上げの方法について書かせて頂きます。
前回で現像まで行い、今回は「定着・水洗・保存処理」のお話です。


現像後のプレートを、蒸留水を張ったバットに入れ30秒〜1分ほど強く攪拌します。
その後、水道水で1〜2分水洗したのち、チオ硫酸ナトリウム溶液に浸けて定着します。
実験では、水1000 mlに対しチオ硫酸ナトリウム200 gを溶解しました。

定着の際、銀が表面に浮き出て像が覆われることがあります。これは現像に使用したB液(前回記事参照)が新しいと起きる現象ですが、柔らかい綿や柔らかい筆で水につけながら撫でるように払うと落とすことができます。画面を傷つける恐れがあるので慎重に行いましょう。
5分〜10分定着液に浸けた後、再び流水で水洗します。1時間以上行えば問題ないでしょう。
水洗後、十分に乾燥させたらバーニッシュ(プレートの表面を保護するための溶液。この実験では「Bostick & Sullivan社製バーニッシュ」を使用しました)を塗ります。バーニッシュはビーカーに入れ温めておきます。
バーニッシュもホコリが入らないようによく濾して使用します。アルミ板は熱伝導が早いため、バーニッシュの熱しすぎには注意しましょう。また、使用したコロジオンが古いとバーニッシュ塗布時に画像が溶けて流れてしまうことがあるので注意しましょう。実験当時から2年前のコロジオンを使用したところ、特に問題なかったため参考にしてください。
バーニッシュが乾いたらドライコロジオンプレートの完成です。

スクリーンショット 2021-02-07 23.25.02

(↑私が初めて長時間露光に成功した際のプレートです)

さて、ここまでドライコロジオンの製作について長期に渡って書かせて頂きました。読んでくださった方には伝わっていると思うのですが、ドライコロジオンプレートの製作工程はどこに於いても、とても繊細でシビアです。
プレートの準備・撮影・現像と、どの工程も言ってしまえば面倒なものばかり……その上、制作手順解説や参考にできる実例も少なく、実験がうまくいかずに躓くことがたくさんありました。どうして自分はドライコロジオンで制作がしたいと思ったのだろうなぁ…と途方に暮れてしまうこともありました。
それでも、ようやく実験が上手くいき安定した結果を出せた時には本当に安堵し、綺麗な画像を残せた時には心からよかったと嬉しくなったことを思い出します。

どんなに苦労しても、手探りでも、やはりドライコロジオンという技法で制作したいという意思は、当記事企画の序盤で語らせて頂いたように「当時の写真家たちの写真に対する意欲や熱意を擬似的に辿っているという体験」を大事にしたいという気持ちが大きく、それによって支えられていたと思います。
個人的な視点ではありますが、当時の写真家の苦労や喜びを少しでも辿ることができた経験は、私の写真制作、あるいは写真作品に向き合う精神に、大きな影響を与えました。
そしていかに丁寧に、時間をかけて下準備をし制作することが大切か、下準備にかけた苦労は、そのまま画面の美しさに現れていると言っても過言ではないことをよくよく理解したのです。
写真は、学んでいる身でもその哲学を理解することは容易ではありません。芸術作品としての写真に馴染みのない人々に、写真の素晴らしさや面白さを理解してもらおうとすることの難しさに直面したときに、特に写真の奥深さを感じることができます。
現代では、写真はシャッター1つで撮影・大量に複製できるものです。しかし、ここまでお話ししてきたような古典技法は一点物です。そこに違いはあるのでしょうか。技法が簡便化したからと言って、価値が薄れる物ではないと私は考えますが、実際は如何なのか…など、写真の存在そのものを考えることは奥深い永遠のテーマだと考えます。
この難儀さを踏まえた上で、もっと写真の根本的な魅力を人々に伝えたい。今写真を取り巻く環境で、今だからこそ、伝えられること、考えられることをもっと追求していきたいと思いながら、この記事の締めとさせて頂きます。
もし、当記事企画でドライコロジオンを知ったという方や、興味を持って下さった方がいらっしゃったらとても嬉しいです。
ここまでお読み頂いた皆様、誠にありがとうございました。


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