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《写真の保存修復を考えてみた vol.8》~写真と髪~ by タケウチリョウコ

こんにちはタケウチリョウコです。
はやいもので2020年、最後の記事となってしまいました。
今回は「なぜ劣化が起きるのか?」という劣化に関する新シリーズを始める予定でしたが…。
今年最後なので、脱線して私が写真に思うところを好き勝手に書かせて頂きます。
題して「写真と髪」についてです。

ちなみに今日12月8日の誕生花は「ウィンターコスモス」です。花言葉は「調和」「真心」だそうです。
年末でバタバタな日々になりがちですが、真心を持った行動を心掛けたいです。


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私事ですが今年の8月に男子を出産しました。
妊娠から出産まで、まさにコロナと同時期にあり不安な毎日を送っています。

妊娠が分かった2020年初頭、ヘアードネーションを知り「子供が無事に産まれますように!」っと願いを込めて髪を伸ばすことにしたのです。

髪を寄付できる機関はいくつかあるのですが、小児がんで髪を失った子供たちの役に立ちたいと思いNPO法人HEROに寄付しました。素晴らしい活動をされているので是非HPをチェックしてみてください。
https://hairdonation.hero.or.jp/concept/

寄付する髪は31cm以上必要なのですが、産前産後&真夏での長い髪は思ったより心身にダメージがありました。
出産後、断髪式は近所のヘアードネーションに協力している美容院で!
感謝の気持ちと、いつか同じ病で苦しむかも知れない子供のために!と手を合わせポストに投函しました。

断髪式の様子です。

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っとここまで写真と全く関係ないのですが、髪を切ってから1ヶ月が経ち、ダゲレオタイプ 写真を思い出したのです。
このダゲレオタイプ には、よく人毛(髪)が入っていることがあります。
髪が入っているケースとして多いのは、幼くして子供を亡くし、思い出として子供の遺体を撮影、写真とともに髪も納めるというものです。


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【ダゲレオタイプ】 横浜市蔵
『写真のはじまり物語』 安友 志乃 雷鳥社 2009年 P28


私も学生時代に髪が入ったダゲレオタイプ に遭遇した事があるのですが、その時は「怖い」「怨念がありそう」っと正直気持ちが悪くネガティブなイメージを持ちました。

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【Unattributed. Ailing Child with Toys】 Sixth-plate Daguerreotype, Collection of Grant Dinsmore
『The Daguerreotype Annual 2006』 The Daguerreian Society 2006

しかし時が経ち、このような未曾有の事態に際し、自分の中で意識の変化がありました。
自分ではどうにも出来ない不安とぶつかった時、何かにすがる行動は今も昔も同じではないのか?
きっと、当時子供の髪と遺影をダゲレオタイプで残した家族は、大きな苦しみや悲しみから一歩前へ踏み出すために写真に思いを込めたのではないか?っと感じました。

特に女性は髪に対して特別な思いがあるように思います。
女性が出家する時、また失恋をした時に髪を切ることがあります。
願いや大きな不安からの救いの代償として髪を切る事は昔からあります。
まさに自分もそうでした。一年がかりの願掛けです。
髪が納められていたダゲレオタイプの持ち主は母親だったかも知れないなぁ〜っと想像を膨らませました。
同時に、写真も特別な思いが込められて制作されてきたものばかりです。

写真誕生から間もない19世紀後半から20世紀初め、写真は非常に高価なものであり簡単には手に入れる事が出来ない代物でした。
しかし人々は自らの肖像や家族を画像として留めたいと望み、大金を支払ったのです。
加えて、ダゲレオタイプの場合は感度が低いため撮影時間が長く、器具で身体を固定したりと撮影だけでも一苦労です。

そして現代になり、日本では2011年、東日本大震災で写真レスキュー活動が盛んに行われました。これも家族写真や個人の思い出の写真が対象です。

写真は時を超えて家族や親友、大切な人と繋がる手段である事に改めて気付かされました。
髪が納められたダゲレオタイプは今だにちょっと重いなぁ~(写真と髪のダブルパンチ!!)っと思うところもありますが..。

写真を見る時、単なる技法や写された被写体だけでなく、その背景にある「どのような思いが込められ、どうしてその写真が存在しているのか」を考えるのも写真鑑賞の醍醐味の一つです。
慌ただしい年末ですが、思い出の一枚やお気に入りの写真を眺めるのはいかがでしょうか。

そして本記事のテーマである保存と修復も、写真に込められた気持ちや写真以外の装丁(髪も含めて!)も丁寧に汲み取って行う必要があります。


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次回は新シリーズ「写真の劣化」です。また新年にお会いしましょう。
良いお年をお迎えください。

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