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【息ぬき音楽エッセイvol.12】坂本龍一と宗教画 by 村松社長

みなさまこんにちは。カロワークスの村松社長です。
桜が終わってしまったと思ったら、すかさず初夏のような気候の日もあったりして、この時期は目まぐるしく季節が流れていきますね。

そんな近頃、わたくし何をしているかと言いますと、自分の中にある”好き”を再発掘する、「やっぱりこれが好き」活動に勤しんでおります。
猛スピードで季節やトレンドが流れていくなか、自分が変わらず好きなものを再確認する作業は、一定のスパンでやっておくと心の安定にもなって良いですよ。オススメです。

「やっぱりこれが好き」活動で再確認したものの一つは、テクノ歌謡
いやほんと、これは自分の好みの根底に流れる重要なキーワードであるとつくづく思います。
本件についてはまた別の機会にお話するとして、今日はテクノ歌謡関連のプレイリストを作ったりしながら再確認した、こちらの曲についてです。


0. 坂本龍一「Ballet Mécanique」(1986年)

1986年のアルバム『未来派野郎』(アルバムタイトルも最高)3曲目に収録されている超名曲です。作曲を坂本龍一さん、作詞は矢野顕子さんとピーター・バラカンさん、ボーカルは長年The Rolling Stonesのバッキングボーカルを努めていたことで知られるバーナード・ファウラーさん、印象的なギターソロは鈴木賢司さんというまばゆいメンツ。
この曲そのものも超名曲で有名ですが、いくつかのバージョンやカバーが存在しています。


1. 岡田有希子「WONDER TRIP LOVER」(1986年)

彼女のラストアルバムになってしまった1986年の『ヴィーナス誕生』に収録されている曲。作曲は坂本龍一さん、作詞はEPOさん、編曲をかしぶち哲郎さんが担当しています。要所要所にかしぶちさんらしさが表れているアレンジが聴きどころ。
実はこちらの曲が原曲で、直後に坂本龍一さんがセルフカバーしたものが「Ballet Mécanique」なのです。


2. 中谷美紀「クロニック・ラヴ」(1999年)

当時「ケイゾク」というドラマの主題歌になった曲で、アルバム『私生活』に収録されています。作曲と編曲を坂本龍一さん、作詞は中谷美紀さんご本人が担当。
坂本龍一さんがアレンジしていることで、「Ballet Mécanique」から約10年経った、”自曲の再解釈”的な心境を見ることができます。中谷さんの硬質な美しさも際立ってなお良い…。

以上の3曲は歌詞もタイトルも違っていて、同じメロディーの曲とは思えないほどの個性があります。
例えば日本語の歌い出し部分だけ見ても、それぞれの世界観が全く違いますよね。

「ぼくには 始めと終わりが あるんだ」(Ballet Mécanique)
「もうじき 夢から覚める くちびるに」(WONDER TRIP LOVER)
「なみだの 味もこの胸に なじんで」(クロニック・ラヴ)

さてここから先は、歌詞・タイトルに変更のないカバーバージョン。


3. 槇原敬之「バレエ・メカニック」(2004年)

坂本龍一さんがパーソナリティをつとめていたラジオ番組「サウンドストリート」で、デモテープとしてスタジオ制作された曲。
アレンジだけでこんなにマッキーっぽくなるんだ!と驚愕しました。間奏の口笛とか…。


4. やくしまるえつこ+砂原良徳「Ballet Mécanique」(2018年)

映画『ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』の挿入歌として劇中初公開された曲。
アレンジも坂本龍一さんの原曲とかなり近いにも関わらず、やくしまるさんの声で「ぼく」という一人称が出るだけで、もともと彼女のための曲だったのでは…と思うほどのハマりようです。

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以上一挙に並べてみましたが、いかがでしたか?
いろいろなカバーやバージョンが存在する曲はたくさんあると思いますが、もれなく名曲、かつ演者が「自分のものにしてる」感のある曲は珍しいんじゃないでしょうか。

こうやって聴き比べしていて、何かに似てるなぁ、と思っていたんですけど、さっき分かりました。宗教画です。

詳しい説明は省きますが、西洋美術では長年「宗教画」と呼ばれるジャンルが主流でした。ルネサンス期に人物画や風俗画が登場するまでは、絵画=宗教画であったとも言えます。
キリスト教の宗教画には、「受胎告知」「最後の晩餐」「イエスの復活」などいろいろなテーマがあって、それぞれの時代にたくさんの画家が描いてきました。
例えば、同じ「受胎告知」と言っても描かれた時代・画家によってこんなに違います。そしてどれも超名作。

シモーネ・マルティーニ(ゴシック期)1333年

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エル・グレコ(マニエリスム後期)1590年

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ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ(ラファエル前派)1850年

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現代のように、個人が自由に好きなものを描けなかった時代、画家の苦労は相当なものがあっただろうと思います。
しかしながら、限られた条件の中で個性の発露を見出すことは、意外と楽しくてテンションあがる行為だったのかも…

あらゆる物事がままならない近頃ですが、みなさまも楽しんで個性を発露できる場所が見つかりますように!
それではまた次回〜!

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