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《写真の保存修復を考えてみた vol.14》~写真の劣化6~ by タケウチリョウコ


今日6月15日の誕生花は「タチアオイ(立葵)」です。花言葉は「豊かな実り」「野望」だそうです。
コロナ禍で実りを感じられる機会が少ないですが(むしろ失うものばかり目についてしまいます…。)我慢の生活の先に豊かな実りある将来が待っていますように!

こんにちは。タケウチリョウコです。
今回は前回記事の続き「写真の劣化6」の経年変化による物理的劣化に注目します。

写真の劣化シリーズはこの記事で一先ず完結です!!


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早速ですが経年変化による物理的劣化には下記のようなものがあげられます。
(もちろん、これらの劣化は人為的な影響により生じる場合もあります。)

・亀裂
・剥離
・変形

亀裂
温・湿度の変化により画像層と支持体の伸縮の違いや、画像層のみ収縮することによってヒビが入る状態のこと。

剥離
温・湿度の変化により画像層と支持体の伸縮の違いや、画像層のみ収縮することによって亀裂が生じ、破断や画像層が支持体から離れた状態になること。

変形
温・湿度の変化により画像層と支持体の伸縮の違いや、収縮によってカールしたり一定の形あるいは不規則な形になること。

参考文献:『写真保存の実務』 大林賢太郎 岩田書店 2010年


ここで補足的に銀塩写真の構造について簡単な解説させてください(うっかり構造に触れないままシリーズ続けてました)!

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画像形成材料:主に銀を材料とし、画像が形成されている部分。

バインダー層:主にゼラチンを材料とし、画像形成材料を保持する層。

支持体:バインダー層を塗布するベースとなる部分。材料には金属板や紙、ガラス、プラスチックなどが使用されている。

画像形成材料とバインダー層を合わせて、画像層と呼ぶこともあります。



この劣化シリーズでは、日常的に接する機会の多い「銀塩写真」の主にプリントを中心としてきましたが、フィルムもまた目にする機会が多いと思います。

亀裂、剥離、変形が同時に生じる事例としてフィルムの劣化で有名な「ビネガーシンドローム」について触れたいと思います。

ビネガーシンドローム
フィルムが高温多湿の密閉された空間に置かれていることによって引き起こされる劣化。フィルムのベース(支持体)に使われた三酢酸セルロース(TAC)が空気中の水分と結びついて分解していく現象。はじめはフィルムから酢酸臭がし、徐々にフィルム表面にべとつきや白い粉の析出などが生じる。さらに劣化が進むとフィルムべースが委縮・変形し、画像の溶解、ついにはフィルム自体の組成が崩壊される。
ビネガーシンドロームが生じると、二度と元の状態に戻すことができない。

参考文献:『写真資料の保存』 荒井宏子, 河野純一, 高橋則英, 吉田成 日本図書館協会  2003年


祖父の残してくれた写真の中にも、フィルム特有の劣化が生じているものがありました。フィルムの組成が分解され、表面に液滴が析出し、フィルムケースとくっついているではありませんか?!!!
観察すると若干の粘りと独特の匂いがします。詳しくはまたの機会にレポートしますね。

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このようなフィルムの劣化については沢山の記事が紹介されています(ほとんど海外のものですが)。


*GAWAIN WEAVER ART CONSERVATION
https://gawainweaver.com/news/vinegar-syndrome

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*AMES HISTORY MUSEUM
https://ameshistory.org/content/ames-tribune-photo-archives

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*National Film Preservation Foundation
https://www.filmpreservation.org/preservation-basics

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次回からタイトルにもあります「写真の保存修復」について様々な視点から見ていきたいと思います。一年経って、ようやく本題になりました〜
それでは4週間後にまたお会いしましょう。

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