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《写真の保存修復を考えてみた vol.5》~写真の種類と特徴4~ by タケウチリョウコ

今日9月15日の誕生花は「ススキ」です。花言葉は「活力」「生命力」だそうです。
いよいよ実りの秋到来ですね。
こんにちは。タケウチリョウコです。


本日は前回記事の続き「写真の種類と特徴4」の【ゴム印画とカーボン印画】編です。

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「芸術写真」「ピクトリアリズム」と聞くと、ゴム印画やカーボン印画、ブロムオイル印画などの技法による写真をイメージされる方が多いのではないでしょうか。
日本でも多くの作家がこの技法を用いて作品を発表してきました。


中でも私が心を奪われたのが梅阪鶯里『芍薬』です。ゴム印画で制作された作品です。
とてもシンプルな作品で「静」と「空間」が絶妙なバランスで表現されているのですが、じっと見ていると「動」と「生命力」を感じてきます。

スクリーンショット 2020-07-14 15.14.42


そしてカーボン印画で制作された代表的な作品として私が紹介したいのは、鹿野寧『少女像』です。
こちらもシンプルな作品です。しかし目が離せなくなる独特な質感に引き寄せられ、私はこの作品を見る度に長い時(今回も30分ほど)が経過している事が多いです。

スクリーンショット 2020-07-14 15.25.44


2つの技法説明はGeorge Eastman Museumが公開しているYouTubeチャンネルを。


◾️ゴム印画 Gum-bichromate print (1860年代~1920年代)

ピグメント印画法のひとつ。ポワトヴァンが発見した原理にもとづき、19世紀末にアルフレッド・マスケル(英)やロベール・ドマシー(仏)らによって改良され、ピクトリアリズムの芸術写真の代表的な印画法として広く使われました。アラビアゴムと顔料と重クロム酸カリを混ぜた溶液を水彩用紙などに薄く塗り、乾かします。ネガを密着して太陽の光で焼き付けた後、冷水で現像します。この過程を何度も繰り返して、画像をコントロールして求める調子を作りだしてゆきます。
*東京都写真美術館『写真の技法解説』引用

【主な劣化】
水害:長時間水分にふれることで、画像を形成する顔料が失われる。

ゴム印画は安定したプリントであるため劣化が少ないです。しかし光の影響は受ける事があります。
使用した顔料の種類によっては変色を生じることもあるのです。
また材料に顔料が含まれているため、長時間水分にふれる事で画像が失われる心配があります。水害が起こりやすい場所での保管は避けるべきです。

*参考資料:
『Pushing the Limits of the Identification of Photographs : Variants of the Gum Dichromate Process』, Art Kaplan and Dosan Stalk, AIC, 2013


◾️カーボン印画 Carbon print (1870年~1920年代中期)

アルフォンス・ポワトヴァン(仏)が、1855年にゼラチンやアラビアゴムなどが重クロム酸カリウムなどの薬品と混ぜると光に感じる性質(感光したところが硬くなる)をもつという原理を発見し、カーボン印画法、ゴム印画法、オイル印画法などのピグメント(顔料)印画法のもとになりました。カーボン印画法は、ジョセフ・W.スワン(英)が、1864年に考案しました。顔料をゼラチン溶液に混ぜ、それを紙に厚く塗ります。乾かした後、重クロム酸カリウムの溶液で感光性を与え、ネガを密着させて、太陽の光で焼き付け、温湯で現像します。
*東京都写真美術館『写真の技法解説』引用

【主な劣化】
亀裂:湿度の変化によって画像層が膨張と収縮を繰り返し生じる。

カーボン印画もゴム印画同様、非常に安定したプリントであるため劣化が少ないです。しかし画像を保持する層がゼラチンで構成されているため、温・湿度の影響や保管環境によって亀裂が生じる事があります。

*参考資料:
『The Atlas of Analytical Signatures of Photographic Processes CARBON』, Dusan C. Stulik, The Getty Conservation Institute, 2013


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今回注目した2つの技法は、どちらもピグメント印画法(重クロム酸コロイドに混合された一つまたはそれ以上の顔料によって画像が形成される写真技法)に分類されます。そのため耐久性に優れ、劣化も非常に少ない事が特徴です。
次回も「写真の種類と特徴」の続きです。【ゼラチン・シルバー・プリント】編です。


タケウチ蛇足memo

トップ画像の写真は自身が制作したゴム印画の写真です。
自室に置きっぱなしの状態で温・湿度関係なく飾っているのですが大きな問題もなく、制作当時から変化は感じられません。とても耐久性に優れた写真である事が感じられます。
とはいえ、あまり雑な扱いをしてはいけませんのでコンディションチェックをして適切な保管と額装を考えたいと思います。

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